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きらきらした腕  作者:
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3.大工の領主さまのお城

 大工は、赤ん坊のおかげで大金もちになりました。

 赤ん坊はつぎつぎと小石をめずらしい宝石にかえてしまいます。

 大工は土地を買い、領主さまとなりました。お城のような豪邸をたて、乳母をやとい、たくさんの使用人にかしずかれてくらしました。


 たくさんの人が大工の領主さまをほめそやします。

 しかし、大工の領主さまは少しもうれしくありませんでした。

 なぜなら、そばにはだいすきだった妻はいないからです。

 妻を宝石にかえてしまったわが子も、どうしても愛することができませんでした。


 大工の領主さまの子どもは、広大なお城の奥の奥で、だれの目からもかくされて育てられました。夏でも長袖をぴっちりと着こみ、手には白い手袋。世話をするのはただひとり、やとわれた乳母だけでした。

 子どもは父親の領主さまに「石の腕」と名づけられました。


 お風呂の時でも肩から指先までは、包帯のような布にぴっちりとおおわれています。乳母は細心の注意をはらって、その包帯を毎日とりかえます。ふれるとどんなものも宝石にかえてしまう不思議な腕をおそれ、自らもぴっちりと手袋をはめて、さわらないようにそっと、巻いていきます。巻いた包帯はしばらくすると金糸で織り込んだかがやく布に変化しました。きらめく包帯の上から長袖をきこみ、手袋をはめるのです。


 領主さまは乳母にたくさんの給金をあたえました。

 そのかわり、石の腕のことはだれにもはなしてはならない、と約束させました。もしはなせば、おまえの娘を石にかえる、とおどしました。

 石の腕と同い年の娘をもつ乳母はふるえあがり、その約束はけっしてやぶらない、とちかいました。そして、お城にすんで、たったひとりで石の腕の世話をしました。


 領主さまのいいつけで、石の腕は毎日たくさんの小石を宝石にかえねばなりません。小石が運ばれてきた時だけ、右手の手袋をとり、人さし指の先の包帯をほんのちょっとだけほどきます。石の腕は、用意された小石を指先でちょんちょんとつついていくだけです。それだけで、小石はさまざまな宝石にかわりました。石の腕にとって、それはどうということもないことでした。特につらい、とも感じませんでした。ただ、ひどく退屈なだけです。


「ねぇ、乳母や。こんなことを乳母やも毎日しているの?」

「いいえ、若君さま。こんな奇跡を起こせるのは世界広しといえど、ただひとり、あなたさまだけです」

「乳母やはできないの?」

「もちろん。若君さまのようなきらきらした腕がないと、できないのです」

「ふぅん」


 乳母は、石の腕をおそれていましたが、毎日毎日世話をするうちにまるで自分の息子のような気もちになりました。自分の娘と同じように乳をやって、乳母が育ててきたのです。情がわかないわけがありませんでした。

 乳母は自分の娘と同じように、石の腕をたいせつに育てました。


 たくさんの給金の使い道は思いつきませんでしたので、石の腕にたくさん本を買ってあたえました。いずれ領主さまになる方です。勉強をすることはたいせつなことです。

 乳母はかんたんな読み書きしかできませんでしたから、基本的な読み書きを石の腕に教えると、あとはどんどん本を買いあたえていきました。

 お城の奥で、だれにも会わないようかくされてすごしているため、当然、教師などいません。部屋をうめつくすような本の山が石の腕の教師でした。

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