13.時がみちる
騎士は一昼夜、とびらを守りつづけました。
まるまる一日すぎたあと、ようやく石の腕が部屋をでてきました。
「時がみちるのをまつ」
どうやら、なにかをまつようでした。
とびらの前でふたりはかんたんな食事をとり、仮眠をしました。
翌日は、数年にいちどの、太陽と月が重なる日でした。
「いっしょにきて。君にたのみがある。君にしか、できない仕事だ」
太陽がかげりはじめる前の時間、石の腕と騎士は部屋の中に入っていきました。
一番奥に、かがみこむようにすわるすがたの、母子の宝石がありました。
その前には大きな大きなかめがありました。宝石でふちどられた、人ひとり入れそうなかめにはふちいっぱいまでひたひたに、不思議なうす青い水が入れられていました。
そこに、石の腕が長い時間をかけてあつめてきたものはなにひとつ、見あたりませんでした。それは、大きなかめの中のうす青い水にかわっていたのです。
「もうすぐ、太陽と月が重なる時間だ。太陽がかけはじめたら、この水をふたりにかけて。ほかにも宝石になっている人たちにあるだけかけて」
騎士は、きらきらと透ける、水晶の柄杓をわたされます。
「そして、その前にやってもらいたいことがある」
騎士は石の腕のたのみをきき入れました。
太陽と月が重なりはじめ、あたりがうすぐらくなってきたころ、騎士は石の腕にいわれたとおり、宝石のかめから水晶の柄杓でうす青い水をすくい、ふたりの宝石にかけました。
頭、肩、腕、腰、足、指先。まんべんなく水をかけていきます。たっぷりかけても大きなかめにみたされた水は、それほどへりませんでした。
たくさんのこったので、騎士は近くにある宝石の像にも順にかけていきました。
太陽がふたたびすがたをあらわすまでの間、部屋中、お城中の宝石にかえられてしまった人たちに水をかけて回りました。
とうとうかめの中の水もつきて、あたりがほとんど明るくなったころ、騎士はお城の奥の部屋にもどりました。
最初に水をかけた母子の像をみつめていると、その指先の翡翠がぱきり、と音を立ててわれました。指の先からひびが入り、またたく間に細かなきれつが体中をおおっていきます。こなごなになったきらきらとした破片は、一気に音を立ててはがれはじめました。
ガシャン、とまるで硝子がわれるように、こなごなの破片は床に落ちました。
その下から、生き生きとした赤いほほをした、若い女の子があらわれました。
たくさんの宝石でできた人の像だったものの下から、ごく普通の女の子が生きてあらわれたのです。
ぜんぶ宝石が落ちると、女の子は大きく息をすい、ゆっくりとはいて目を開けました。
騎士はその女の子の瑠璃色の瞳が、とてもきれいだ、と思いました。
その瞳が、だれかをさがしてさまよったあと、そばにひざまづく騎士をおびえたように見返しました。
「……若君さま、は?」
ふるえた声は、何十年ぶりか、しんとしたままだったその部屋にひびきました。
騎士はそっと、あずかっていた二通の手紙をさしだしました。
「あなたがたへのお手紙をあずかっております。それと、これを」
女の子の前には、布にくるまれたずしりと重い円柱状のつつみがおかれました。
女の子のふるえる手が、そっと布を開きました。
そこには一本の、肩から切り落とされた、きらきらとかがやく宝石の腕がありました。
「ああ……、若君さまの……!」
「自ら、切り落とされることをおえらびになりました。一本は、あなたたち母子へ、といいおいていかれました」
「若君さまは、どこへ……?」
騎士はそれには答えず、ただ、首をふりました。
女の子――瑠璃の、瑠璃色の目から涙がこぼれ落ちました。
泣きくずれる瑠璃の横で、乳母の宝石もはがれ落ち、次いで、騎士がうす青い水をかけて回ったたくさんの人たちの宝石も、音を立ててはがれおちました。
いたるところで、人々が目をさましました。
みな長い夢からさめたようにぼんやりとあくびをし、あらそうことを忘れて、のんびりとのびをしました。




