10.長い長い旅へ
王さまのお城のすぐとなりに、まんなかにすばらしく高い塔をもつ、お城ほどもある大きな図書館がたてられました。世界中のありとあらゆる本がつめこまれ、なおかつどんどん、ふえていきます。まるで生き物のようだ、と評するものもおりました。
生き物のように、本はどんどんふえていきました。
まんなかにたつ、高くて立派な塔のてっぺんの部屋に、石の腕はすむことにしました。もう小石や罪人を宝石にかえたり、戦に行かなくてもよくなりました。
塔のてっぺんの部屋に引きこもり、くる日もくる日もむさぼるように本を読みました。
何日も何カ月も何年も、石の腕は本を読みつづけました。読んでも読んでも図書館の本は読みつくすことができませんでした。
図書館の塔の部屋にこもって何年もたったある日、やっと石の腕はさがしていたものを見つけました。といっても、望みをかなえることができるかもしれない、という不確かな方法が書かれただけのものでした。
石の腕はその一冊の本をもち、王さまの元へ行きました。
「旅にでる」
「そうか。やっと見つけたんだな」
石の腕はうなずきました。
王さまもうなずいて、旅の装備をそろえてやりました。
旅のしたくが整うと、出発する石の腕を王さまは見送りにでました。
「本当に供は必要ないのか? 騎士百人だって千人だってつけてやれるぞ」
王さまの冗談でしたが、石の腕はまじめな顔で首をふりました。
「いらない。戦に行くんじゃないもの」
王さまはにこりともしない石の腕に、くすりと笑いました。
騎士百人をつけてやるぞ、というのは冗談でしたが、望めばいくらでもつけてやるつもりでした。
「もう、もどらない気だな?」
「わからない」
「そうか。もどってきたくなったらいつでももどってくるといい。おまえの図書館にたくさんの本をあつめておこう。気がむいたらたよりでもよこせ」
石の腕はくらい目で王さまを見返しました。
そして、ぽつり、といいました。
「……君のことは、きらいじゃなかったよ」
それをきいた王さまはにっこりと笑いました。
「それはよかった。では、気をつけて」
石の腕はたったひとりで、長い長い旅にでました。
ただひとつの、自分の望みをかなえるために。
王さまのくれた世界地図がやくにたちました。世界中のありとあらゆるところへ行きました。
石の腕は本と地図をたよりに旅をしながら、ひとつずつさがしているものをあつめていきました。
あるときは天をつらぬく天空の山にすむ、火くい鳥のたまごを。
あるときはくらい洞窟にすむ、うろこ鼠のうろこを。
あるときは深い森の奥にある、おどりきのこを。
あるときは翠の湖の底に咲く、つきあかり花の花びらを。
あるときは広大なさばくのまん中にある、さばくのバラを。
あるときはけわしい崖の壁にはえた、歌草の葉を。
満月の夜は光を浴びた露草の露を、星明かりの夜はきらきらとかがやく星明かりを映した泉の水を、玻璃の小瓶にあつめました。
それから、たくさんの小石を宝石にかえました。
日長石、月長石、緑柱石、黄水晶、紫水晶、紅水晶、天青石、石榴石、藍方石、蛍石、孔雀石、琥珀に瑪瑙……。ありとあらゆる宝石をどんどん作り、つみあげました。
そして、それを大きなかばんにつめこみました。




