いずれ消えゆく
ちょっとだけ性的な表現を使っているよ!苦手な方はすみません。
この身体の奥底に、まだ昨日が染み付いている。
昨日から未だに抜け出せず、今日と向き合おうとしないのだ。
そろそろ向き合う時間だと言うのに。私は始発が動き始めてしばらくの間昨日に想いを馳せていた。
「もう行かなくちゃ」
そう言った貴方を引き留める権利を私は持っていなかった。
軽く唇を触れ合わせることでしか愛を表現できない。
「そうね、本命を待たせちゃいけないもんね」
皮肉というか、本音で貴方の心を傷付ける。
私ではないどこかの誰かに嫉妬しながら。
貴方が出ていってから火照った身体を冷ますように、シャワーを浴びた。ホテル特有の、無駄に冷たかったりいきなり熱くなったりするシャワーで、今日の全てを洗い流すように。
今日という日の全ての痕跡を消し去ったなら、私も早くここから立ち去ろう。貴方との一方通行の愛を名残惜しむことのないように。
貴方から貰った香水に抱き締めてもらう。この香りは、私と貴方だけのものだ。
他の誰でもなく、貴方の本命ですらなく。私と貴方しか知らない香りだ。
この香りを抱き締められ、そして離さぬように大事に大事に私もまた抱き締めた。
駅のホームで、貴方を全身に感じつつ今日を生きるために、私は昨日に生きる。
貴方にはきっと分からないでしょうね。
でもそれが、私には嬉しい。
貴方の困った顔もたまらなく愛しいから。
私は二の次でも構わない。
貴方と居られるのなら。
だから私に飽きないで。
私の一番は貴方以外はあり得ないのだから。
いずれ消えゆく愛を。
いずれ貰い受ける愛を。
私は待ってしまっている。
本命がダメになったら、私でいいよ。私は妥協点でいいよ。
愛してもらうことだけが、私の価値だから。
好きという気持ちは、伝わらないことも多いです。必ずしも、両想いになるわけでもない。むしろ一方通行になることの方が多いかもしれない。
けれど誰かを好きになっちゃうんだよね。
そんな掌編でした。