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幻霊戦記  作者: 鳶沢龍
第一章
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月夜の二人 前編

お久しぶりです。

投稿が非常に遅くなってしまい、大変申し訳ありません。

色々落ち着いたら投稿のペースを上げていこうと思っています。

 城内が寝静まり、警備兵が時折廊下を通る程度の夜中。


 ハルトは自室で、とある特訓をしていた。


 傍からは単に、空手でいう外八字立ちをしているようにしか見えないだろうが、その体からは大量の汗が流れていた。


 ハルトが行っているのは「自身の魔力を操作する」というものだ。


 魔法に関する講義では、魔力はあくまでも魔法を使うために用いるエネルギーであり、意識的に操作しない。というより、意識的に操作すること自体ができないと教えられた。人間が行えるのは本能的、感覚的かつ単純な操作だけで、意識的かつ複雑な魔力の操作を行おうすると、それだけで全身に強い痛みが走るのだという。


 詳細は不明だが、アルヴ教は「エルド神から与えられた恩恵だから」と言っていた。


 神の恩恵を不遜に扱おうとする無礼者に対する罰なのだとか。


 ……詳しいことはさっぱりわからん。


 魔法は術式を構築し、その術式に記述された内容の事象を魔力によって外界に出力するが、その時に行っているのは「術式に魔力を注入する」程度のことらしい。細かなことは術式側で処理しているのだろう。


 しかし、ハルトは魔法は使えないが、何故か魔力を意識的に操作する能力を備えていた。


 こちらも詳しい理由はわからないが、数日前に和斗と組み手をしていた時、魔力で魔法を使わずに身体能力を強化したことで、その能力を知ることになった。もちろん、ハルトはできるとは思っておらず、自覚すらなかった。


 身体能力を強化できるのは専用の術式で魔法を行使した時だけだからだ。


 身体能力はレベルアップによるステータスの上昇でも変わるが、それは魔法を使わない「素の状態」を示しているに過ぎない。つまり、上昇してもそれがデフォルト値なのだ。


 そのパラメータに+強化を行う魔法によって身体能力を補うことができるが、ハルトは魔法自体が使えないので、この魔力を操作する能力はスキルか何かと考えていた。


 そもそもスキルとは、個人に刻まれた術式と表現できる。


 スキルは、使用者の能力に対する補正効果などを行う機能であり、誰もが持っている。


 主に、誰もが発現可能な汎用型と、位階に応じた能力を持つ特化型、ごく一部の個人にしか発現しない固有スキルの三種類が存在する。


 それらのスキルは使用する際に魔力を消費しているため、術式の一種と考えられている。


 しかし、ハルトのこの能力は、スキルとしてステータスに記載されていない。


 なので、この事実を知っているのはハルト以外では和斗だけで、念のためにゲルト団長には伝えていない。


 何せ、魔力は意識的に操作できるのは魔物だけとされているからだ。


 魔物や魔人を排斥するアルヴ教のお膝元で、しかも勇者とともに召喚された人間が魔物と同じ力を持っていると知られたら、何をされるかわからない。単に追放されるならまだマシだが、そんな理由で一方的に殺されたら溜まったもんじゃない。


 だから、ハルトは夜中にこっそり、気づかれないように練習しているのだ。


 具体的な方法は、自分の体全体に魔力を均等に行き渡らせ、その状態を維持するというものだ。時々、剣などに魔力を送り込む練習もしているが、身体能力は重要なので、最近は前者の練習を集中的に行っている。


 口で言ってしまえば簡単なことだが、実際にやってみると、まるで「自分で喉にナイフを突き刺すギリギリを保っている」ような気分になる。


 ———ほんの少しでも集中を乱したら、死ぬ。


 そんな予感が脳裏があるのだ。


 力んではいけない。緩んでもいけない。


 その中間の丁度いい状態を維持しないと、確実に死ぬ。


 どう死ぬのかはわからないが、死が自分に纏わりついているような冷たい感覚が緊張感を与え、体を強張らせる。


 そして、その感覚がハルトの集中を乱した。


 集中が乱れたことで、ハルトの体を覆っていた魔力が弾けた。


「ぐっ!」


 パンっ! と破裂するような衝撃がハルトの体を襲う。


 姿勢が崩れ、思わず尻餅をついた。


 この失敗は何度か経験しているが、どうしても慣れない。


 これに関する経験が浅くわからないことが多い。故に、心のどこかでやる前から怖気づいている自分がいるのだ。まるで食わず嫌いのように。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 肺が空気を欲し、呼吸が荒くなる。


 どうやら、今までで一番良くない失敗だったようだ。


 ポタポタと、床に赤い雫が滴る。鼻の辺りを触ってみると、掌に鼻血が付いた。


 頭痛もするし、何より体が異常に重く、手や足の指先にも痺れを感じる。


「やば……」


 これ以上の継続は危険だと判断したハルトは、だるくてベッドまで動くのも面倒だったので、そのまま床で寝ることにした。


 翌朝に目が覚めると、だるさや頭痛は嘘のように治まっていた。



~~~~~~~~~~~~



 訓練がしばらく続いたある日。


 ゲルト団長から話があるということで、クラスメイト達全員が訓練場に集められた。


「そろそろ実地訓練を行う予定だが、正直お前たちの教育係は人手不足で、俺たちだけではどうにもならん。……そこで、今自由に動ける騎士団から、増員を回してもらった」


 イーヴェル神王国が戦力として有している軍は、大きく分けて騎士団と兵士団、魔道士団の三つで構成されている。騎士団はさらに、王国騎士団と近衛騎士団、遊撃騎士団の三つに分かれており、ゲルト・グレイスは主戦力である王国騎士団の団長を務めている。


 本来ならば、ゲルト団長は立場上王都を離れてはいけないのだが、事務仕事を全て副団長であるテムン・フューリアスに任せている(押し付けている)ため、勇者たち神の使徒の教育に集中して取り組むことを上層部から黙認されている。


 ただし、団長がその役に就くのなら、ゲルト団長を含めて王国騎士団からは十人までしか動員できないという制限がついているらしい。いくら勇者たちの育成が優先されていても、王国騎士団の人員を必要以上に割くことはできないということだろう。


 そこで、人手不足解消と、実地訓練を行う際の追加の指導役・支援役として呼び出されたのが、これから同行することになる遊撃騎士団の面々である。


 遊撃騎士団は、機動力を活かした側面支援と偵察、国内各地で非常事態が発生した際に、現場へ急行して事態に対処することを目的とする騎士団で、その性質上、王国騎士団よりも実戦経験がある。ゲルト団長は元々この遊撃騎士団に所属し、団長を務めていた経験もあり、そこでかなり危険な任務に駆り出されたこともあるらしい。


 そして現在の遊撃騎士団団長は、ゲルト団長の推薦を受けた後任の騎士で、当時は直属の部下だったとのこと。


 そんな話を交えながらしばらく待っていると、重い足音が響く。


「来たか……」


 そう呟いたゲルト団長は、音のなる方へ目を向けた。


 現れたのは、やや軽装に見えなくもない鎧を身にまとう二十人ほどの集団だった。そしてその先頭には、目立つ赤い髪をした男性騎士がいる。


 無駄のない整った顔立ちから察するに、二十代半ばほどだろう。鋭さを感じさせる橙色の瞳の目は、まるで猛禽類を彷彿とさせる。そんなイケメンの登場に、女子生徒が何人か顔を赤らめながらひそひそ話をしている。


 そして、その騎士の後ろに二人の騎士が控えており、クラスメイト達から見て右側に眼鏡をかけた青い髪をした男性が、左側に髪を肩ほどまでの長さにそろえた緑色の髪の女性だった。


 赤髪の騎士が、一歩前に進み出て、胸に手を当てながら名乗った。


「皆様、お初お目にかかります。私は、イーヴェル神王国遊撃騎士団団長を務めている、ユリウス・ローウェンです。そして、私の後ろにいるのが……」


 ユリウスと名乗った男は、自身の後ろに立つ眼鏡の男性を指す。それを合図に、男性も胸に手を当てながら軽く会釈し、自らを名乗る。


「副団長の、ガリア・クレメンスと申します」

「第一部隊隊長の、ロザミア・ペルーシャです。我々の隊が中心となって、皆様の実地訓練を補佐いたします。以後、お見知りおきを」


 ガリアに続いて、桃髪の女性も名乗る。


 ロザミアと名乗った女性騎士の後方にいるのが、彼女の部下なのだろう。


 三人の自己紹介が終わると、ゲルト団長が話を繋げる。


「以上が、これからの実地訓練に同行する、遊撃騎士団だ。実地訓練実施までの間もこいつらはお前たちの基礎訓練に混ざる。全員腕の立つ奴ばかりだ。何かあったら、俺たちだけでなく、ユリウスたちも存分に頼れ!」


 ゲルト団長に肩をバンバン叩かれて苦笑を浮かべていたユリウスが、思い出したように付け加える。


「しばらくの間、遊撃騎士団の任務は私の首席補佐官主導の基で執り行う手筈ですので、私も皆様に同行いたします」


 だから「こっちは気にするな」と、ユリウスは遠回しに言っていた。


 ゲルト団長が話を繋ぐ。


「実地訓練は今日より六日後、明後日には移動を開始する。場所は王都から東にある宿場町・マホラバ。そこに、訓練にうってつけの迷宮があるんだ」


 ゲルト団長は一拍間を開けてから、口を開いた。


「名を……【岩窟迷宮ペスキス】という」



~~~~~~~~~~~~



【岩窟迷宮ペスキス】


 そこは、洞窟の形をしたダンジョンだ。


 内部はとても複雑な構造をしており、一番古い記録から辿って六百年ほど経った現在も、未だに終着点である最下層は不明で、現在の最高到達点は六十階層らしいが、それ以上先に行った者は誰もいないという。


 深部に行けば行くほど、それに比例して魔物も強くなっていくようで、冒険者や傭兵、新兵の訓練として非常に人気がある。しかも、魔物だけでなく内部では上質で希少な鉱石が採掘できるため、ペスキスで採れた素材は高値で取引される。


 更に、地上にいる魔物に比べ、遥かに良質の魔晶石を体内に抱えているからだ。


 魔晶石とは、魔物が魔力を精製するための核のことをいう。


 強い魔物ほど良質で大きな魔晶石を備えている。この魔晶石は、汎用魔道具を作る際の原料となり、同時に魔法陣にとって重要な役割を持つ。


 魔法陣はただ描くだけでも記述された内容の魔法を発動することはできるが、魔晶石を粉末にして刻み込むなり染料として使うなりして発動する場合と比較すると、前者の方法での効果は四分の一程度にまで低下する。


 要は、魔晶石を使う方が魔力の浸透率・伝導性が高くなり、効率的になるということだ。それ故、魔晶石は軍事物資としてだけでなく、日常生活の必需品でもある。


 ちなみに、良質な魔晶石を持つ魔物ほど、強力な固有魔法を使う。


 固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため、魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法・特殊能力のことだ。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣も、それこそ汎用魔道具も使わずに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。


 その場所で、実際の魔物と戦闘で訓練を行う。まさに実地訓練。


 王都からマホラバまでは三日ほど掛かるため、予定に合わせるために移動の間も休憩中に訓練をした。


 遊撃騎士団のメンバーが加わってから、進藤達がハルトにちょっかいを出すことはなかった。


 ちなみに、進藤啓介を含む例の四人はかなりの小心者で、自分よりも上と判断した相手には媚びへつらうが、自分より下と判断した相手にはでかい態度をとってくる。そのため周囲からの評判は悪い。しかし、能力的には強いので、周りは迂闊に口を出せないでいる。


 日本にいた頃はハルトと進藤達に接点は全くと言っていいほどなかったが、この世界に来て、ハルトは彼らに目を付けられてしまったというわけだ。


 ハルトからすれば、迷惑極まりない。


 ……まぁ、それは一旦置いといて。


 マホラバへ到着した一行は、新兵の訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まることになった。王城の部屋に比べれば、かなり質素でスッキリしている。


 久しぶりに普通の部屋を見た気がすると思ったハルトは、ベッドへとダイブした。全員が最低でも二人部屋なのに、ハルトだけ一人部屋だ。「まぁ、気楽でいいや」と、ハルトは少し負け惜しみ気味に呟く。


 今回は行っても二十階層までらしく、それくらいなら、ハルトがいても十分カバーできるとゲルト団長から直々に教えられた。


 ハルトとしては、面倒を掛けて申し訳ありませんと言う他ない。むしろ、このまま王都に置いて行ってくれてもよかったのに……とは、流石に空気を読んで言えなかった。


 しばらく、ハルトは借りてきたペスキスの魔物に関する本を読んだり、剣や防具などの装備品の点検をしたり、魔力操作の練習を少ししたりして時間を潰していたが、明日に備えて体を休めておこうと、まだ早いが眠りに就くことにした。


 しかし、ハルトがウトウトとまどろみ始めたその時、ハルトの睡眠を邪魔するように、扉をノックする音が響いた。


 「まだ早い」と言っても、それは〝ハルトの感覚では〟という意味であって、この世界の一般的な感覚では十分深夜にあたる時間だ。怪しげな深夜の訪問者に、まさか、進藤達か! と、ハルトに緊張が走る。


 しかし、その心配は、続く声で杞憂に終わったが……


『えっと……あ、天宮君、起きてる? ……一ノ瀬です。ちょっと、いいかな?』


 その声と名前を聞いた途端、心臓が飛び出そうなほど体がビクッと反応した。


 無理もない。


 美咲はハルトにとって大切な幼馴染であり、初恋の人。


 それを、一方的な理由から避けてしまっていたのだから……

今年のドタバタのせいで作成にあまり手が付かず、ようやく今日投稿できました。

12/31、遂に東京都の新型コロナの感染者が1000人を超え、大変なことになっています。

自分は今のところは問題ありませんが、もう何時誰が感染してもおかしくない状況なので、皆様も感染対策に注意し、新年も安全に、健康に過ごせるようにしましょう!

自分から感染させるような事態を避けるため、友人と会う機会を全く設けていません。

時々寂しい気持ちにもなりますが、いつか自由に会える時が来る日を待っています。

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