一万年後も生きている
美夜ちゃん。
俺は今すごく元気です。
書いてるうちに元気になってきました。
やっぱり書くのは楽しいです。
俺は何か書いてないといられないのです。
だから書き続けます。
元気になったついでに思い出したから書いておきます。
谷崎潤一郎の「痴人の愛」の主人公とヒロインの年の差は十三歳でした。
これも面白い小説です。
僕は谷崎潤一郎は「春琴抄」が一番好きです。
これも読んでほしいです。
美夜ちゃん。
君に読んでほしい本を書きだしていったら、いつまでも終わりません。
それくらい俺は本を読んできました。
そして美夜ちゃん。
君のことは好きかは分かりませんが、本は間違いなく好きです。
自分以上に好きです。
ここまで人間の人生を変えるものを僕は他に一つも思い出すことができません。
ハンバート・ハンバートが言っています。
私には今言葉しか戯れるものがないのだと。
素晴らしいと思います。
俺が生きている限り、それだけはできるのです。
相手がいなくても自分一人で。
言葉とならいつだって遊ぶことができる。
痛みは伴わないけれど。
いつか焼けつくような痛みを感じるものを書かなければいけないと思っています。
目を背けたくなるようなひりひりしたものを。
でもその前に地球外生命体と戦いたいです。
派手に愛を告白したいです。
俺は男主人公を泣かすのが好きです。
そしてその涙を拭うヒロインという構図も好きです。
ついつい主人公を泣かすため、ヒロインに仮初めの死を与えてしまいます。
今度はそれを使わず二人が結ばれるようにしたいものです。
でも何にも起きないと小説として成り立たないし、一番好きなのは主人公が死に瀕したときに目の前で微笑む彼女を思い出すシーンです。
これ何回でも使いたくなります。
何かを失うと言うのはなんと美しいのでしょうか。
やはり主人公は何かを失い諦めなくてはならないのかもしれません。
俺は主人公がヒロインの亡骸を雨が降りしきる中呆然と抱きかかえているのが好きです。
今すごく書きたくなったのは、彼女は祭壇に祀られていて、主人公は瀕死の傷を負いながら少しでも彼女の近くで死にたいと、必死に彼女の元へ行こうと痛む体を引きずっていきますが、彼女の元に届かず、死んでしまうのです。
そのシーンを書くために何か書こうと思います。
これから忙しいです。
でも楽しみでなりません。
俺は東京に清はいませんが、今東京に帰るのが楽しみで仕方ありません。
美夜ちゃん。
君に逢えて良かったです。
君を好きだと、君を可愛いと思えました。
でもそれ以上に小説が好きだと気づきました。
俺には言葉以上に美しいと思うものはないのです。
美夜ちゃん。
俺は君の名前も好きです。
綺麗な名前だと思っています。
恐らく美夜ちゃん以上に思っています。
好きという言葉は恐らくそれを伝えたい本人以上に尊いのです。
ナボコフは芸術という避難所と言っています。
俺は恐らくもうずっと避難所にいたのでしょうね。
もう出たくありませんし、出ないつもりです。
美夜ちゃん。
蓮と仲良くしてください。
蓮はいい子です。
俺と違って嘘つきじゃありません。
美夜ちゃん。
いよいよお別れです。
まだいくらでも書けますが、もうこれでやめておきます。
美夜ちゃん。
本を読んでください。
読み続けてください。
これから俺はいつだって美夜ちゃんを探します。
でもそれもきっとそういう気分なんです。
本当じゃない。
でも君を知ったからもう高校生の女の子は書けないかもしれないので、暫く近未来に逃げようと思います。
前に俺の小説など読まなくてもいいと言いましたが、いつか読んでください。
美夜ちゃん。
運慶にはなれないでしょうが、君をほんの一瞬でもどこかへ連れ出せるような小説を書きたいと思います。
まずは地球外生命体と戦います。
手がちぎれたって戦います。
今から手がボロリと落ちるシーンを書くのが楽しみです。
美夜ちゃん。
元気でいてください。
家の鍵は蓮に預けるのでいつでも入って本を読んでください。
こんな手紙を書いてあれですが、又会えると思います。
今度会えた時は、一万年後も生きている本の話をしましょう。




