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白雪姫と七人の小人

祖母から明日は大学芋が食べたいと言われたが明日はひな祭りなので問答無用で夕飯は薔薇寿司だ。

明後日ねと言うと祖母は納得したのか早よ帰れとばかりにお弁当箱を開けるとピーマンの肉詰めだったので祖母は少し嬉しそうにした。

祖母はピーマンが好きなのだ。


「美夜ちゃん」


自転車に鍵を差し込むと自分を呼ぶ声がした。

そしてその声を密かに期待していた自分がいることにも気づいた。

お姉ちゃん達は殺人鬼だとか、サイコパスだとか、気を付けなさいとか色々言ったけど、それは佐藤さん本人を見ていないからだと美夜は思った。

佐藤さんはお母さんのお腹から優しさと美しさだけを引き連れて生まれてきたような人に見える。

そう生まれながらに持っている人、だから何も欲しがっている様に見えない。

何も不足していない、だから佐藤さんに死体なんか必要ない。

美夜が挨拶をすると佐藤さんは少し待っててと言って又家に入っていった。


「ごめんね、これ食べて」


佐藤さんから渡された白いビニール袋はシャトレーゼのものだった。

中にはレーズンサンド、ラスク、ワッフル ブッセ、バウムクーヘンが色違いで入っていた。


「平田小学校ってあるでしょ、あそこの細い道を抜けるとシャトレーゼに出るんだね、今日そこを歩いてて、ついお店に入って買っちゃったんだよ、でも俺食べないから、美夜ちゃん食べて」

「でも、昨日もいただいちゃって、いいんで、すか?」

「いいの、買うのが好きなんだ、食べたいわけじゃないから、食べてくれないと捨てるだけだから」

「甘いもの、ダメなんですか?」

「そういうわけでもないんだけど、今食べたくなくて」

「あの、ひょっとして、どっかお悪いんですか?」

「嫌、健康だよ。今日も彦根を探検してきたんだ、結構歩いたよ、大丈夫。平田小学校って、白雪姫と七人の小人の石像があるって知ってる?」

「はい、知ってます。あれ何なんでしょうね」

「そうだよね、今日驚いたんだよね、美夜ちゃんの小学校にもあった?」

「いえ、二宮金次郎が薪背負ってるのでした」

「そう、そうだよね」

「はい」


家に帰ると台所にいるお母さんにお菓子を見せた。

何も悪いことはしていませんと、いかにも子供らしく両手でビニール袋を広げて中身が見えるようにして。


「明日、薔薇寿司作るから持ってって。何か買って渡してもあれだし、若い男の人に何買っていいかなんてわからないし」

「私が持って行っていいの?」

「美夜にあげたいんじゃないの、小学生だと思われてるのかしらね、小さいから」

「そんなに小さい?」

「最近の子って小学生でも美夜より大きいわよ」

「私、高校生って言ったと思うんだけど」

「まあ、明日持って行って、せっかくくれるんだからお菓子は食べましょ」

「いいのかなあ?」

「いいんじゃない?お寿司美味しいって言ってくれたら、また何か作って持ってってもいいし」

「うん」


今日は優ちゃんは夜勤なので、恭ちゃんだけが帰って来た。

夕飯を食べると恭ちゃんは佐藤さんがくれたチョコのかかったラスクを開け、ばくっと勢いよく齧った。


「買い物依存症じゃない?」

「それって、どうやってなるの?」

「雑に言うとストレス」

「ストレス?そんな風には見えないよー」

「見えないわよ、肌すっごく綺麗だったもの」


お母さんも同意してくれた。

やっぱり直接佐藤さんを見た人は違う。

ストレスなんて微塵も感じない。

全てから解き放たれている、この世のつまらない因果も、そんな風に見える人だ。


「じゃあ、ただのロリコン?」

「そんな人じゃないよー」

「まあ、ロリコンにするにはもう無理かな、美夜流石に小学生は無理でしょ、顔がそこまで子供じゃないもん」

「そう?」


姉のこの発言に美夜は少し嬉しくなり、食べて食べてとばかりにお菓子の山を姉の方へそそそとやった。


「イケメンでロリコンの聖母系男子、あと買い物依存症、他には?」

「ロリコンじゃないってば」

「だって平田小学校何しに行ったの?」

「彦根を探検してるって言ってたよ」

「何のために?」

「それは、知らないけどー」

「引っ越してきたばかりだからでしょ、東京に住んでたって言ってたから田舎が珍しんんじゃないの」


お母さんは佐藤さんのことを信じてるみたいだ。

そうだよね、あんな綺麗な人疑えないよね。

だってすっごく清らかな感じがするもん。

纏う空気が違う、佐藤さんがいるだけでそこだけ浄化されていくような力を感じる。


「そんなに言うんなら、恭ちゃんも一回見に行こうよ」

「聖母系イケメンを?」

「うん、お婆ちゃんのとこ全然行ってないでしょー?」

「お婆ちゃん私達行ったって喜ばないじゃない」

「そんなことないよ、多分」

「喜ばないでしょ、この間皆でカニ食べようってお婆ちゃんちでお鍋した時もおじや食べ終わったらさっさと帰れって顔したじゃない。おじや食べたら皆でわらびもち食べようって言ってたのに、自分の分だけ確保してさー」

「いつものことでしょ、長い時間いてほしくないのよ、一人が落ち着くんでしょ」

「まあそうよねー、一日中ほっといても大丈夫なんだしー、有り難いよねー、今の所介護の必要もないし」

「そうよ。有り難いわよ。介護になったらパートも辞めなきゃなんないだろうし、遊びになんか行けなくなるわよ、文句言ってたら罰当たるわ」

「そうだよー、佐藤さん絶対いい人だもん」

「佐藤さんの話なんかしてないでしょー、まあお婆ちゃんちはもうすぐ大阪行くからその時お土産買ってからにする、お菓子持ってくと、少しだけならいてもいいって顔するし」

「そうだね、お婆ちゃん確かにそういうとこある」


その時のお婆ちゃんを簡単に思い出すことができる三人は声を合わせて笑った。

美夜はバウムクーヘンを食べると台所のカレンダーが目に入ったが今日は気にならなかった。

何故か不思議と力が湧いた。

いっぱい食べたせいだろうか。

これならいけるかもと、お風呂上がりにベッドに置きっぱなしになっている優ちゃんに借りたままの「嵐が丘」の文庫本を開いてみたけれど、今日もやっぱりページが進まず手はスマホへと伸ばされ、美夜は活字の海を泳ぐことなく、美少女達に囲まれ快適な空の旅を楽しんで眠りについた。




















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