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運慶を見に

夏休みになり文芸部の四人で運慶を見に奈良に来た。


「大きいねー」

「そうだな」

「鹿だらけだねー」

「そうだな」

「人いっぱいいるねー」

「そうだな」

「佐藤君さっきからそうだなしか言ってないよー」

「そうだな」


美夜は東大寺の山門の前で隣の蓮と話しつつ、仁王像を見上げながら袖がすり合うほど近くで話す高瀬と弥生をチラリと見る。

二人がどこか嬉しそうで美夜は満足した。

夏休みに入ってからこうやって文芸部で出かけるのは三回目だ。

一度目は草津のイオンに映画を見に行った。

二度目は京都の金閣寺に。

そして平成の今日も生きている運慶を見に朝からJR、近鉄を乗り継ぎ奈良へとやって来た。


「高瀬君嬉しそうじゃない?」

「そうか?」

「うん、嬉しそう」

「こんなにデカかったんだな」

「そうだね、来たの小六だったけど、覚えてないなー」

「意識して見ると違うな」

「そうだねー」

「確かに、これなら運慶はずっと生きていられるな」

「そうだねー、私達が死んでも運慶はずっと生きていられるねー」

「でも、あんたあっさりしてるな」

「何が?」

「高瀬のこと、本当にもういいのか?」

「うん、だって始まることすら許されなかったんだもん、諦めもつくよ」

「そうか」

「何ていうか、いいね。見知らぬ土地って。こう知ってる人がいないって、のびのびできるよ」

「彦根じゃのびのびできないのか?」

「うん、だって同じ学校の子に見られたらって思うとさー」

「俺と噂になるのは面倒だし、か?」

「うん」

「うんって」

「だって本当にそうだし。でも佐藤君優しいんだね」

「は?」

「だって水曜日ちゃんと毎週図書室に来てくれたし、映画も金閣寺も今日だって付き合ってくれたでしょ?

こういうの面倒だから嫌いだと思ってた」

「運慶見たかったし」

「映画は興味なさそうだったね?」

「特撮はあんまり興味ないから」

「でも付き合ってくれたんだね、ありがとう」

「別に、部活ない日は夏休み暇だし」

「どっか行かないの?」

「母親一人っ子だから従妹いないし、父親の方の婆ちゃんは施設だし、母親の方は一緒に住んでるから、どっこも行くとこない」

「そう」

「あんたは?」

「お盆終わったら岡山に行く予定。従姉がいるの」

「そうか」

「うん、大手饅頭買ってくるね」

「何それ?」

「あんこがぎゅって詰まったお饅頭。寧ろあんこの塊。美味しいよ」

「楽しみにしてる」

「そう?」

「正直あんたが高瀬で良かった」

「え?」

「あいつと何もなくて良かった」

「何かあると思ってたの?」

「ああ、あいつロリコンなんだろうと」

「まさか」

「ロリコンじゃなくても、嫌だろ。自分の同級生とか」

「そう?」

「じゃああんたは、あんたのお姉ちゃんと俺が付き合ってもいいいのか?」

「嫌、絶対嫌」

「だろ?」

「でも佐藤さんならありじゃない?」

「ありなのか?」

「私じゃなくてー、十代の美少女連れてても」

「犯罪だろ」

「ゴスロリ服の銀髪の美少女とか」

「見た目は十代で本当は六百歳とかか?」

「それだと人間じゃないじゃない」

「人間であってたまるか、自分より年下の女をお義姉さんとか」

「そんなのよくあることじゃない?」

「俺は嫌だ、そうなるなら俺の目の届かないところでやってくれ」

「まあ、ないから大丈夫」

「そうだな、あんた面食いじゃないもんな」

「高瀬君かっこいいよ」

「お世辞で言ってもそれはないだろ、よく言っても普通」

「佐藤君からしたらそうだろうけど、私はあの顔が世界で一番好き」

「諦めたんじゃないのかよ」

「諦めたのは、その彼女になるとかそういうことだけで、理想であることには変わりないもん」

「理想、高瀬が」

「うん」

「眼鏡なくても?」

「眼鏡込みで」

「高瀬がコンタクトにしたら?」

「お風呂上がり眼鏡じゃない?それ好き」

「高瀬がレーシックしたら?」

「もう網膜に焼き付いてるから大丈夫、写真もあるし」

「あのさ、あの顔日本中どこにでもいると思うけど」

「まあレア感はないよね」

「ないな」

「でもあの顔好き、さっき仁王様見上げている顔とか可愛すぎて、やっぱり文芸部入って良かったー」

「そんなに?」

「うん」

「性癖なんだな」

「その綺麗な顔で言わないでよー」

「好みじゃないんだろ?」

「好みじゃないけど、素晴らしいとは思ってるよ」

「地上に引きずり下ろせない程か?」

「そこまではないかな、佐藤君、わりと普通だよね、顔以外」

「は?」

「えっと、褒めてるよ、あのね、お兄さんと違って、ちゃんと地上にいるし」

「そう」

「うん、正直だし」

「俺が?」

「うん、顔にすぐ出るもんね」

「出るか?」

「うん」

「佐藤さんは出ないよねー、大人だからかなー、高瀬君も出ないけどー」

「高瀬は特に何も感じてないからだろ、あいつはうそつきだけど」

「うそつき?佐藤さんが?」

「うそつきだ、思ってもないこと平気で言えるんだ」

「大人だからじゃない?」

「嫌、違う、偽物だからだ」

「偽物?」

「もしくは作家だから」

















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