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事件

冒頭からヒロイン死にそうなんだけど


夕飯を食べテレビを見ていると蓮からラインが来た。

学校で話すと色々と面倒だからと帰りにライン交換した。

何て返事すればいいのか考え、そのまま読んでと送る。

すぐにホラー?と来たから怖いの苦手?と送ったら、好きじゃないと来た。

味もそっけもない文字だけなのに、あの少しふてくされた様な無表情が浮かんで美夜は嬉しくなった。


怖くないから大丈夫と送って三分後蓮から漫画で読みたいと来た。

ご丁寧に漫画家の名前まで列挙して。

面白かったんだなと美夜は理解した。


それから蓮とは平日はラインでやり取りし、日曜日には佐藤さんの家で会った。

話すことは漫画のことゲームのことに夏目漱石が加わったくらいで、クラスのこととか部活の話とか家族の話など個人的な話は一切しなかった。

そんな毎日が続き、もうすぐゴールデンウィークを迎える四月最後の水曜日に事件は起こった。


水曜日は女子バレー部は休みなのでいつも花恋と寄り道をして帰る。

だが今日はそんな美夜を呼び止める人がいた。

美夜にとって予想もしないとこからその声は挙がった。

佐藤さんと呼ばれた。

佐藤さんはよくある名字だが、このクラスの女子の佐藤さんは美夜だけだ。

佐藤さんと呼ばれたのは初めてじゃない。

クラスが替わったばかりだし、部活が違う男子は大概佐藤さんと呼ぶものだ。

でも、この人。

高瀬君に名を呼ばれたのは初めてだった。

脚が棒になっているのを感じる。

隣に花恋がいるのに、体を保っていられないと思い、取りあえず何か掴みたくて机の上に乗せたリュックサックを握りしめた。


高瀬君がいる。

目の前にいる。

今までで一番近い。

彼が実在している。

美夜を見ている。


「佐藤さん。ちょっといい?」

「はい」


かろうじて声は出せたけど、その渇いた声に自分でも驚く。

どうしよう。

ちゃんと喋れるかな。


「佐藤さん水曜日部活休みだよね?」

「はい」

「掛け持ちでいいんで文芸部入ってくれない?」

「はい」

「いいの?」

「はい」

「じゃあ今からいい?」

「はい」

「ちょっと、美夜」


花恋が自分を呼んでいることに気づいてはいるが気づきたくはなかった。

現実に引き戻さないでほしかった。

それくらい美夜は今自分が夢の中にいる気がしてならなかった。


「ありがとう、助かる。五人揃えないと廃部になるんだ」

「そうなんだ、あと何人なの?」

「あと一人」

「花恋ちゃん」

「嫌、本とか読まないし」

「即決?」

「当たり前でしょ、もう帰るよ、私」

「えー」

「えーじゃないの、本当に入るの?」

「うん」

「高瀬君、文芸部って女子いるの?美夜以外全員男子ってことない?」

「俺以外全員女子」

「だって、花恋ちゃん」

「嫌、じっとして本読むとか耐えられない」

「別に読まなくてもいいけど」

「ううん、読む。本読むから」

「美夜」

「花恋ちゃん」

「嫌」


高瀬君の役に何とか立ちたい美夜は花恋に手を合わせ懇願したが、花恋は取りつく島もない。


「高瀬君、女子でいいのかな?私バレー部の子に聞いてみるよ」

「いいの?ありがとう、じゃあ取りあえず今日これからいい?」

「うん、勿論」

「俺も入る」


美夜は空から降ってきたような声の先を見る。

蓮だ。

いつも通りの不機嫌そうな無表情でこちらを見ている。


「佐藤も入ってくれるの?」

「ああ、男子でもいいんだろ?」

「うん、女子の方がいいけど、まあ別にいい」

「何で女子?」

「部長の趣味」

「部長女子だろ?」

「うん」

「まあいいけど、俺も水曜しか出れないけど」

「いいよ、ありがとう。これで五人」


花恋が帰ってしまったので、三人で図書室に向かう。

足元がふわふわしすぎて、歩いている感覚がなく、前に進んでいるのが不思議だった。


「弥生ちゃん、連れてきた」


図書室に入ると高瀬君は椅子に座っていたショートカットの女子に声を掛けた。


「ありがとー、第一希望だー」

「うん」

「座って座って、佐藤さん」


弥生ちゃんと呼ばれた女の子は近くにいないのに耳元で囁かれているような声で言った。


「ありがとうございます」

「後ろのイケメン君もー」

「ありがとうございます」


蓮と美夜は並んで座った。

弥生ちゃんと呼ばれた女の子は椅子を美夜の隣に動かし、美夜の顔をじっと見た。


「可愛い、本物の方が」

「私ですか?」

「うん、美夜ちゃんってよんでもいい?」

「はい」

「私は弥生ちゃんでー」

「はい、あの、でも、先輩ですよね?」

「うん、でも弥生ちゃんでー」

「佐藤さん、そうしてあげて、俺も弥生ちゃんって呼んでるし」

「うん、じゃあ、はい」

「美夜ちゃん、本別に読まなくていいからねー、私達は読むけどー」

「あの、本読みます。本最近読むようになったので。夏目漱石だけですけど」

「漱石先生好きなのー?」

「はい」

「どれが好きー?」

「門と夢十夜がすきです」

「私も好きー」

「そうですか」

「イケメン君は美夜ちゃんの彼氏?」

「違います」


弥生とにらめっこ状態の美夜は蓮の顔が見えないが、声音から怒っている感じはしなかった。


「そうなの?じゃあどうしてー?」

「高瀬が廃部になるって言ってたので」

「それだけー?」

「それだけです」

「そうなのー?」

「そうです」


この後弥生の美夜への質問が続き、結局小説の話はせず、皆でライン交換して今日の部活は終わった。

余りの急展開と美夜にだけ都合のいい世界に怯え佐藤さんにそうラインすると美夜ちゃんは欲がなくっていいねと来たので、清さんとだけ返した。



























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