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同じクラス

日曜日佐藤さんとの約束通り、お城の方へお花見に行った。

何故か弟の蓮も一緒に。

あの佐藤さんの誕生日以来美夜は佐藤さんの家に行くたび蓮と顔を合わすこととなった。

そのたびに彼は愛想の欠片もないお綺麗な顔を披露してくれた。

そして春休み最後の日曜日。

佐藤さんと蓮と一緒にお城の方へ歩いていると、ちょうど宗安寺で花まつりをやっていたので入って甘茶を飲ませてもらった。

お釈迦様のお誕生日にこんな事言うのは罰当たりな気がするけど、高瀬君と同じクラスになれますようにと願った。

つぶっていた目を開けるとお前が犯人だろとばかりに疑いの視線を向ける蓮と目が合った。


「あの、佐藤君、何?」

「別に、何か長かったから」

「そうかな?」

「ああ、長い」

「蓮、美夜ちゃん見すぎ」

「見てない、あんただろ、見てるの」

「可愛くないのー」


先週満開だった彦根城の桜はもうすっかり散ってしまい、桜の絨毯が悲しく風に吹かれていた。

お釈迦様が願いを叶えてくれたのか、美夜は今年も高瀬君と同じクラスになった。

掲示板に彼の名前を見つけ、花恋の名前も見つけ喜んでいると、音もなく左横に立っていた。

もう気配でわかるようになった。

蓮だ。

おはようと言おうかと思ったけど、周りの目があるのでやめておいた。

ちらりと見上げると美夜を見下ろしていた蓮と目が合う。

何って聞いてしまいそうになったけど、ぐっとこらえた。

それくらい蓮の目には謎があった。


無事高瀬君と同じクラスになれたことで、文芸部に入る理由はなくなったけど、本は読み続けた。

夏目漱石の小説は次の「明暗」で終わりだった。

部活があるから蓮と佐藤さんの家で会うのは日曜日だけになった。

蓮は相変わらず不機嫌で、美夜と兄が狭い本棚に挟まり話していても会話に加わることもなく、ただ必ず同じ部屋にいてゲームをしながら、時々見張るような視線を二人に投げつけた。


「蓮、ゲームばっかしてないで、本読まない?」

「読まない」

「面白いけどなー、ねえ美夜ちゃん?」

「はい、面白いです」

「せっかくだから三人で本の話したいなー、ね、美夜ちゃん?」

「はい」

「どれが?」

「どれって?」

「どれが面白い?」


背もたれのない椅子に腰かけていた蓮は腰を上げると、美夜の左隣に立った。

美夜は又大きい二人に挟まれた。


「私が面白かったのでいいの?」

「読むの?蓮」

「読まないけど」

「私はね、門が好き。ハッピーエンドだから」

「は?」

「はって、だって、誰も死ななかったし」

「そんなに死ぬのか?」

「死ぬよー」

「明るく言うな」

「だって作り話だよ」

「でも先生が死んだ時もKさんが死んじゃった時も悲しかったです。藤尾さんも何も死ななくてもって」

「小説だからねー」

「だから明るい声で言うな、本当に冷たいな、あんた」

「酷いなー、蓮は。お兄ちゃんに」

「本当に生きてる人みたいに感じるんです。だから、本当に死んじゃったんだなって、もうこの世にいないんだなって」

「最初からいないだろ、架空の人物だぞ、何言ってるんだ、あんた」

「いるよー、何て言うかいるんだよ、本当に。目の前で苦しんでいるのに何にもしてあげられないの」

「美夜ちゃんは何かしてあげたいの?」

「いえ、それはないです。死ぬことはないと思いますけど、死ななきゃ小説にならないこともわかるので、先生は死ななければならないんですよね、それ以外にこころの結末なんて思いつかないし」

「そうだね、あれで死ななかったら逆にどうしていいかわからないよね」

「死ぬのか?」

「うん、あ、ごめんね。ネタバレだね」

「いいよ、読まない。人が死ぬような話嫌だ」

「死んじゃうけど、納得できるよ。余韻とか凄いし、何回も読みたくなる」

「門はしなないんだな?」

「うん、死なないよ、奥さんともずっと一緒だし、弟さんも上手くいくし、ハッピーエンドだよ」

「蓮、読む?」

「短いのか?」

「まあ、長くないよ、普通」

「長いだろ、分厚い」


兄に「門」の文庫本を渡された蓮はまるで装飾のない声で言った。

同じクラスになって蓮の声を聞く機会は増えたが、友達と話している声と微妙に違う。

その声は親族だけに見せるある種の雑さが感じられて何だか面白かった。


「読みだしたらすぐだよ」

「だって、蓮」

「何でそんなに嬉しそうなんだよ、あんた」


この場合のあんたがどちらを指しているのかわからず、美夜は黙った。


「蓮、わかんないこと書いてあったらラインしていいよ?」

「ネットで調べる」

「文庫本の最後に注釈が付いてるよ、私それ見ながら読んだ」

「細君とかわかる?」

「さいくん?」

「お嫁さんのことだよ」

「勾配は?」

「購買、売店のことだろ」

「胡坐は?」

「しってる、かける」

「嫂ってわかる?」

「兄のお嫁さんだろ、知ってる。そこまで馬鹿じゃない」

「そうだね、まあ頑張って読んで、面白いよ」

「でも、それから読んだ方が良くないですか?それからの読んだ後だとハッピーエンドに思えるし」

「そうだね、蓮。まずは吾輩は猫であるからにしようか?」

「何でもいいけど、面白いのか?」

「面白いよ。ずっと笑って読めるし、終わっちゃうの寂しいって思ったよ。ずっとこれが続いたらいいのにって、あ、でもこれ」


最後猫ちゃん死んじゃう。

ネタバレになるから言わない方がいいけど、人が死ぬような話嫌って言ってたからダメかな。

猫ちゃんだけど、生き物だし。

蓮とは漫画の話はするけど、漫画だって人は死ぬ。

活字だと嫌なのかな。


「蓮、まずは夢十夜にしよう。これ凄く面白いから。俺最近これが一番好き」

「私も好きです」


今なら堂々と言える。

この小説好きって。

高瀬君にもこんな風に簡単に言えたらいいのにな。

そして高瀬君の好きを教えてもらえたらいいのにな。

高瀬君のの好きを知れたら、ちょっとは彼のことわかるような気がするのに。

そうしたら今の見ているだけの毎日じゃなくなるのかな。

でも見ているだけで楽しいから、今はいい。

同じクラスになったから今年一年は安泰だし。


佐藤さんから「明暗」を借りて、蓮と並び家に帰った。

鞄も何も持っていない蓮の左手に居心地悪そうに兄から借りた文庫本が収まっているのが面白く、美夜は蓮に気づかれないように小さく笑った。






























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