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バジリスク

「で、何しに来たの?蓮」

「お婆ちゃんがあんたに誕生日プレゼント持ってけって」

「部活は?」

「今日休み」

「そうなんだ、じゃあ、ありがとう。お婆ちゃんには俺がお礼に行くから、もういいよ」

「何がだ?」

「何がって、もういいから帰ったら?俺これから美夜ちゃんとケーキ食べるし」

「何であんたが佐藤美夜と?」

「何でフルネーム?」

「そんなのどうでもいいだろ、何であんたがその子といるんだ」

「だからお婆ちゃんの家が隣なの」

「それで何で今一緒にいるんだ?」

「何でって、仲良くなったからだよ、ね?」


佐藤が美夜に相槌を求めたが、蓮に睨まれたままの美夜はとても頷くことなどできなかった。

バジリスクみたい、このままでは石になってしまう。


「何で仲良くなるんだ」

「怖いよ、蓮。美夜ちゃん怯えてる」


蓮は視線を一瞬だけ逸らしたが、美夜が視線を兄の方に泳がせると再び瞳に着火した。


「じゃあね、蓮。お母さんにもよろしく」


佐藤は美夜を促し、中に入ろうとしたが、蓮は玄関の前にいて動こうとしない。


「連、何なの?どうしたいの?」

「ケーキ食べるんだろ?俺も」

「誘ってないよ、俺は美夜ちゃんと二人きりで食べたい」

「二人きりなんかしたらあんたこの子に何をするかわからないだろう」

「何それ?お兄ちゃんのこと信じてないの?」

「何がお兄ちゃんだ。思ってもいないくせに」

「思ってるよ、何なの?今日はやけに絡むね、びっくりだよ」

「ケーキ食べたい」

「甘いもの好きなの?」

「ああ」

「まあ、いっぱい買ったしね。美夜ちゃんお家に持って帰れないけどいい?」

「あっ、はい。家の分なんか気になさらないでください。佐藤さんのお誕生日なんですし」

「そう?ごめんね。連、ケーキ食べたら帰ってよね?」

「食べたらな」

「どうぞ」


台所の椅子に佐藤と美夜が向かい合って座り、蓮は美夜の隣に座った。


「どれにする?」


佐藤さんはコーヒーを入れてくれた。

美夜と蓮のマグカップには牛乳と砂糖を入れた甘いコーヒーを。

白いケーキの箱を開けると蓮は無言でナポレオンパイと苺のショートケーキとミルクレープを白いお皿に取った。


「美夜ちゃん先に選ばせてあげなよ」

「あ」


蓮は今気づいたとばかりに無意識のような子供らしい声を出した。


「いえ、そんな、佐藤さんこそ、お誕生日です」

「俺はいいよ、俺は美味しそうに食べている美夜ちゃん見たいだけだから」

「は?」


蓮の顔を見なくてもわかるような不愉快を申告する声で言った。

何も言葉を尽くす必要なんかない、たった一言で伝わる鈍い音で。


「連、顔ほんと怖い」

「あんたのせいだろ」

「俺の?」

「全然電話でないし、ずっと待ってたんだぞ」

「ごめんごめん」

「大体何で家にいないんだよ、籠って小説書いてるんじゃなかったのかよ」

「美夜ちゃんと出かけてたから」

「だから何で出かけるんだよ」

「仲良しだから、ねー?」


美夜は声は出さず首だけふり、白い箱からベイクドチーズケーキと苺のタルトを白いお皿に取った。


「ところで、二人はどういう知り合いなの?同じクラス?」

「いえ、違います、私は一組で佐藤君は五組で、あの佐藤君はたっくんと同じクラスで、花恋ちゃんと一緒によく行くので、それで」

「そうなんだ?たっくんと同じクラスなんだ連」

「何であんたがこの子の友達まで知ってるんだ」

「聞かせてもらったから、花恋ちゃん、たっくん、繭ちゃん」

「それに、佐藤君有名人なので、知ってます」

「蓮が?」

「はい、佐藤君かっこいいから、すごく人気あるんです」

「へー、蓮顔だけはいいもんね」

「同じ顔だろ」

「微妙に違うよー、俺そんなに目つき悪くないもん。ただでさえ目鋭いのにそんなに睨まないの、美夜ちゃん怯えてるじゃない」

「そっ、そんなことないです。大丈夫です」


隣から不愉快オーラが伝わってくるけれど、顔が見えない分さっきに比べると全然楽で、美夜はベイクドチーズケーキの濃厚な甘みを堪能していた。


「美味しい?美夜ちゃん」

「はい、美味しいです」

「そう、蓮は?」

「不味いケーキなんかあるわけないだろ」

「可愛くないなー、ねえ蓮は何で美夜ちゃんを知ってたの?」

「うちのクラスによく来るから」

「それだけ?」

「それだけって?」

「蓮、剣道部だったよね?」

「ああ」

「美夜ちゃんはバレー部だよ、部活も違うのに、ただクラスによく来るからってよく名前フルネームで知ってたね」

「人の名前なんか一回聞いたら覚えるだろう」

「聞いたの?」

「神谷が美夜って言ってたから」

「そう、でもさー、蓮びっくりしてたよねー、俺と美夜ちゃん見てさー、この世の終わりっていうか、迫りくる巨大ロボット見たような顔してた」

「どんな顔だよ」

「まあいいけど、二人はじゃあほぼ初対面なわけだ」

「はい、そうですね」


ケーキを二つ食べたからだろうか。

美夜は体内に力が溜まったのを感じ隣にいる美しい怒りの塊が気にならなくなった。

二人の声は似ているけど少し違い、まるで二色の絵の具を混ぜてどんどん色が変わっていくような相性の良さを感じた。


「そうなんだ、蓮人気者なんだ。何か信じられないな。愛想ないのにね」

「愛想なくても、顔がかっこしいですし、背も高いし、運動もできるし、もてますよー」

「そう、だって。良かったね?蓮」

「別に」

「蓮彼女いるの?」

 

美夜はちらりと隣の蓮を見た。

ショートケーキの苺は先に食べるタイプらしいことしかわからない。

兄と違い無表情だが、それは兄にある聖母感が足りないせいだろう。

彼はどちらかというと聖母感もないし、姉の言う概念系イケメンではないらしい。


「いない」

「そうなんだ」

「もういいだろう、帰ろう」

「うん、食べ終わったし帰ったら」

「あんたも」

「へっ?」


蓮は立ち上がり美夜の腕を取った。

美夜は驚き飲んでいたマグカップを置いた。




















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