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宇宙船

「美夜ちゃん、それってどういうこと?」


美夜としては特に考えて言ったわけではなかったのだが、佐藤さんは真剣な声で聞いてきた。


「えーっと、そうですね、人類が滅亡しても残ってるだろうなって」

「猿の惑星の自由の女神みたいに?」

「すみません、わからないです」


佐藤さんは「猿の惑星」という映画のあらすじをささっと話してくれた。


「あー、そんな感じです。お猿さんはいないけど」

「いないんだ?」

「はい、誰もいないんです、でも誰もいなくなっても大丈夫だなって」

「誰もいなくなった世界で仏像だけが静かにずっとそこにいるんだね」

「はい、でも本もそうですよね?」

「本も?」

「はい、だって皆夏目漱石読んでました。家で読んでないの、私だけでした。お婆ちゃんも読んでたんです。道後温泉も行ってました」

「そうなんだ、でも本は読んでくれる人いなくなったら、ただの紙だよ」

「本の形って綺麗ですよ、それに地球人が滅んでも、宇宙人がいます」

「宇宙人?

「えーっと、誰もいなくなった地球に宇宙船が降りてくるんです。で、本を見つける」

「日本語読めるの?」

「翻訳機がきっとあります、読めますよ」

「クラゲみたいな宇宙人が?」

「クラゲ可愛いじゃないですかー」

「そうだね」

「宇宙人が読んだって夏目漱石はきっと面白いです」

「そうだね」

「同じ日本語使ってるのに、ただ会話してるだけ、思ったことを吐き出してるだけなのに、何であんなに面白いんでしょうか?」

「それは俺もわからない。解明してほしい」

「あの、そういえば、佐藤さん、三月二十八日、お誕生日ですよね?」


随分唐突になってしまったが、言えた。

ウィキペディアには血液型は載ってなかったが、生年月日は載っていた。


「うん、そうだけど」

「あの、何か欲しいものとか、ないですか?」

「欲しいもの?ないかな」

「ないんですか?」

「うん、別にないかな?」

「そうですか、あの、その、高いものは買えないですけど、そのお祝いしたくて」

「気持ちだけで十分だけど、何でもいい?」

「はい、何かあります?」

「その日、水曜日だよね美夜ちゃん部活休み?」

「はい」

「じゃあ、一緒にお昼ご飯食べてくれる?夕方まで付き合って欲しいな」

「はい、じゃあお昼ご飯私に出させてください」

「それはダメかな。美夜ちゃんにお金出してもらうわけにはいかないよ、それに美夜ちゃん、俺結構お金持ちなんだよ」

「あー」


そういえば、ベストセラー作家だった。

どうも流行った当時を知らないので現実味がない。


「美夜ちゃんの食べたいもの食べよう。プレゼントは食べてる美夜ちゃんでいいから」

「それだと、私だけが幸せじゃないですか?」

「俺も楽しいからいいよ。俺食べる美夜ちゃん見るの好きなんだ。美夜ちゃん、本当に美味しそうに食べるから」

「そうですか?」

「うん、食べてる時が一番幸せって顔してる」

「確かに幸せです、美味しいと食べ終わっちゃうの勿体なくて」

「さっき、ケンタッキーでビスケット食べながらその顔してた」

「してました?」

「うん、だからもう一個食べたらって言ったのに」

「今日部活休みだったので、そんなに運動してないしー」

「結構歩いたよ、桜まだだったね?」

「そうですね」

「芹川のあたり咲いたら綺麗だろうね」

「はい、綺麗ですよ」

「じゃあ、水曜日。また一緒に出掛けてくれる?」

「はい」

「春休みなのにいいの?友達と遊んだりしなくて」

「前は花恋ちゃんの家でたっくんと繭ちゃんと四人でゲームしたり漫画読んだりしてたんですけど、最近はあんまり。部活終わった後遊んでるし、大体同じ部活の子と遊びますけど、最近皆彼氏がいたりするので」

「そうなんだ、美夜ちゃんも高瀬君と上手くいくといいね」

「高瀬君ですか?」

「うん」

「うーん、想像つかないです」

「そうなの?」

「はい、だって、話したこともないですし、いきなり彼氏っていうのは」

「そう、じゃあ、友達?」

「男の子と女の子って友達になれますか?」

「巧君と繭ちゃんは友達じゃないの?」

「友達ですけど、幼稚園から一緒なので、友達になったっていうんじゃないんです。最初から友達なので」

「そうだね、高校生になると友達になるの難しいかもね」

「友達どころか、話しかけるのも難しいです」

「春休み、会えなくて寂しい?」

「はい、でも本読んでると忘れます」

「そう?」

「はい、でも読み終わると思い出します。高瀬君も読んだかなって」

「そう、読んでるといいね」

「はい、でもあんなに本読んでるなら、夏目漱石きっともう読んでるんじゃないかって思うんです。家のお父さん本全然読まないんですけど、坊ちゃんも吾輩は猫であるも読んでましたし」

「そうだね、文芸部に入ってるくらいだから夏目漱石は読んでるだろうね」

「そうですよね、今なら話せるのに」

「話したい?」

「話したいです、高瀬君はどう思ったのかなって、どういう話が好きなのかなって、だからもっともっと読みたいです」

「うん、そうだね、いっぱい読もうね」

「はい」


家に帰りベッドに寝ころび「こころ」を読み始めた。

冒頭から不穏なものに引きずり込まれるのを感じた。

だってこれは回想だ。

終わったことで、これから起こることじゃない。

主人公の力で覆せるものではない。

この私さんはできなかったのだろう。

だって、もう失った悲しみが伝わってくる。

美夜は読んでしまうのが勿体なくて、一旦本を閉じ、また開くを、繰り返した。



















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