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本の話

「高瀬君はどんな本読んでるんだろうね?」

「はい」

「それがわかったら苦労しないか?勝手に人の本見るわけにいかないもんね」

「はい、文庫本で結構厚めなの読んでることが多いです」

「まあ同じ本じゃなくても、仲良くなって本の話できるようになったらいいよね?」

「はい、話してみたい、です」

「可愛いね」

「そうですか?」

「うん、事実は小説より奇なり」

「どこがですか?」

「だって俺女の子に気になる男の子がいるなんて話聞かせてもらったの初めて」

「そうですか」


そうか。

佐藤さんみたいに顔が良すぎると、告白されるばっかりで、相談されることなんかなかったんだろうな。

佐藤さんの声は楽しそうで、朗らかで、元気な声だった。

お昼お腹いっぱい食べたからだろうか。

何というか生命力が漲っている。


「美夜ちゃん面白い本が読みたい?」

「はい、どうせだったら」

「じゃあ、俺夏目漱石がいいと思う。吾輩は猫であるから始めたほうがいいだろうけど、最初は坊ちゃんから」

「坊ちゃんですか?」

「うん、短いし、全集もあるけど、文庫本もあるからそっち貸してあげるね」

「いいんですか?」

「うん、借りた本だと返さなきゃいけないから読むでしょ?」

「そうですか?」

「うん、俺家にある本でも、長編小説はそうやって読んだ。図書館だと二週間しか借りられないから二週間で読まなきゃなんないから、自然と読むの早くなるから」

「図書館ですか?」

「うん、美夜ちゃんの家図書館近いけど行かないの?」

「はい、いっぱいありすぎてどれ借りていいかわかんないので」

「まあ、そうか」

「本屋さんも本有りすぎです。どれが面白いのか全然わかんない」

「おすすめとかポップない?」

「あっても要領を得ないっていうか、読む気にならないっていうか」

「そう」

「佐藤さん、坊ちゃん、私にも読めますか?」

「うん、呪いがかかってなかったら読めると思うよ」

「呪いあると思います?」

「ないと思うよ」

「作家さんなのにそう思います?」

「うん、幽霊も信じてないし、天国も地獄もないかなって」

「そうなんですか?魔法もないですか?」

「うん、ないよ」

「断定ですか?」

「うん」

「あの、信じてないのに何で書けるんですか?」

「この世界にはないけど、小説なら何でもありだから」

「何でもあり?」

「うん、小説は自由だから」

「自由ですか?」

「うん、だって自分の好きなようにできる世界だから」


佐藤さんはこの世界に不自由を感じているのだろうか。

何もかも持っている様に見えるのに。

でも、持っているというのは荷物が多すぎて身動き取れなくなるのかもしれない。

美形で京大出てて作家さんで、背も高くって足も長くて、声までいい。


「美夜ちゃんみたいな可愛い子に本の話してもらえたら高瀬君嬉しいだろうね」

「可愛くないです」

「可愛いよ」

「可愛くないです、しょっちゅうおとぼけフェイスって言われるし」

「誰に?」

「お姉ちゃんに」

「お姉さんは可愛いって言ってるんだと思うよ」

「絶対違います、背も小さいし」

「これから伸びるよ」

「佐藤さん小さい頃から背高かったですか?」

「うん、まあ背の順に並ぶといつもクラスで一番後ろだったかな」

「私クラスで一番前しかなったことないです」

「高瀬君は背高いの?」

「はい、佐藤さんほどは大きくないですけど、佐藤さんは何センチですか?」

「百八十五」

「そんなに大きいんですか?」

「うん、美夜ちゃん。普通に話しかけられるだけで嬉しいけど、高瀬君本の話してくれたら喜ぶと思うよ。

本好きな人って、本の話するのも好きだから」

「そうなんですか?」

「うん、俺今美夜ちゃんに本の話できるのすごく楽しい。本読むとさ誰かに話したくなるんだよね」


これだけの本を全て読んでるとしたら佐藤さんはどれだけ饒舌なのだろう。

部屋には本が埋め込まれている。

まるでダンジョンの様。

ここからたった一冊を探し出して勇者はこの部屋から脱出する。


「最初に書いた小説がそうだったんだ、男の子と女の子が、この二人はクラスメイトなんだ。でも付き合ってるわけじゃなくて、お互いが読んだ本の話を放課後延々として帰るっていう」

「魔法少女でデビューって書いてましたけど」

「うん、それは本になってないんだ。応募したけど落ちちゃって」

「そうなんですか」

「うん、周りにさ本を読んでる友達いなくてさ、だから書いてた。キャラクターに言わせてた」

「あの、佐藤さんはどうして本を読み始めたんですか?」

「暇だったからかな、夏休みとか部活以外することなくて、宿題もすぐ終わっちゃうし、テスト前さ部活休みになるじゃない?授業聞いてれば家で勉強する必要なかったから、暇だったんだよね」

「暇ですか?」

「うん、三年生の夏で部活引退しちゃうから、もうそこからひたすら読んでたし、書いてた」

「漫画とかゲームとかは?」

「読むしやるよ、アニメも大好きだった。そういう友達はいたよ。絵書けたら小説書かなかっただろうな。脳内の絵を文章にしてるだけなんだよね、今でも絵書けたらいいなって思うよ、そしたらこんなしんどうことしなくていいのにって」

「しんどいですか?」

「うん、例えばさー、主人公とヒロインがすれ違う場面。絵だったら歩道橋ですれ違う二人を書けばいいけど、小説にするとさー、回りくどく、言葉を尽くしてさー、歩道橋から見える景色を描写して、主人公の視線を書いて、ヒロインの視線を書いて、春が一番いいかなー、桜が舞っているのが一番書きやすいから。ヒロインの髪の細部まで書き込んでさー」


佐藤さんの口調が雑になってきたのが面白い。

まるで愚痴をこぼしているみたい。

美夜にというより、佐藤さんにだけ見えている本の妖精さんがいるみたいに。











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