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食べてる時が一番幸せ

マクドナルドは休日のためいっぱいだったのでしばらく並んだ。

美夜はてりたまチーズのバリューセットとナゲットにアップルパイ。

佐藤さんはグランクラブハウスのバリューセットにした。


「喉渇いてたんだね?」


スプライトを猛烈な勢いで飲んだ美夜を見て佐藤さんは瞳を優しく揺らした。

その恩寵のような眼差しに美夜は恥ずかしくなり俯き、いただきますと言いポテトを口に運んだ。


「美味しい?」

「美味しいです、揚げたてって最高ですよね?家ではこんな味にならないですもん」

「そうだね」

「すみません、こんなに買っていただいて」

「ううん、せっかくのお休み付き合ってくれたんだからこれくらいさせて、食べたいものあるなら遠慮しないで、好きなだけ食べて」

「すみません」


二人は向かい合い黙々と食べた。

そういえば佐藤さんが食べるのを見るのは初めてだ。

食べてても美形は美形なんだな。

ただ規則正しく秒針のように咀嚼してるだけなのに、その姿が美しく、人工的な光しかない店内に、佐藤さんの所だけ、自然界からの恵みが齎されている様に明るい。


「たまに食べると美味しいね?」

「はい」

 

たまにじゃなくても美味しいです。

もぐもぐと美夜は口を動かした。

飲み込むの勿体ないとは思わないけど、何度だって食べたくなる、明日のお昼もこれでいい。

照り焼きの甘い味と溶けたチーズが最高。

やっぱり食べてる時が一番幸せ。


「美夜ちゃん、さっきの話だけど」

「はい」

「美夜ちゃんでも読める本って」

「はい」


そうだ。ベイシアに入る前質問したんだった。

食べるのに夢中ですっかり忘れてしまった。


「何か飲む?」


美夜がアップルパイを残したままスプライトを飲み干してしまったので、佐藤さんは聞いてくれた。

申し訳ないと思いつつ、遠慮したほうが佐藤さんに悪いし、それにここまできたらどうしても飲みたくなり間違っていると知りつつ毒を食らわば皿までと今日は自分を全力で甘やかすことにした。


「シェイクのバニラ」

「買ってくるね、他には?」

「いえ、もうお腹いっぱいです」

「そう、じゃあちょっと待ってて」


アップルパイを食べると余りの美味しさにこれなら百個食べられると美夜は思った。

不満があるといえば大きさが物足りない。


「美夜ちゃん、美味しそうに食べるね」

「そうですか?」

「うん」


佐藤さんはとっくに食べ終えていて、美夜が食べるのを口元に笑みを湛え幼子を見つめる母親のような瞳で見守っている。

その瞳が何故かとても遠くに感じ美夜は佐藤さんには別の物が見えているのだとはっきりとわかった。

これが作家の視点なのだろうか。

今この田舎の騒がしいスーパーのフードコートで佐藤さんは何か考えている。

少なくとも美夜と違う景色を見ている。

佐藤さんはきっと同じものを食べても自分とまったく違うことを思うんだろうな。

それは本を読んでいる人だからだろうか。

だとしたら彼も。


やっぱり本を読まなきゃいけない。

あんなに毎日読んでいるのだ。

本には何かある。

少なくとも彼にとって本は読まずにいられないものなのだ。


「美夜ちゃん」

「はい」

「美夜ちゃんはゲーム毎日してる?」

「はい、毎日ログインしないとアイテム貰えないので」

「それはもう習慣になってるんだよね」

「はい」

「本も毎日読むと習慣になるよ、取りあえず続ける」

「習慣ですか?」

「そう」


それだ。

習慣。

彼が毎日本を読んでるのは習慣なのだ。

生活の一部に組み込まれているのだ。

それはもう呼吸だ。

彼は読まなければもう息ができないのだ。

でも。


「どうやったら習慣になりますか?」

「まずは我慢」

「我慢?」

「うん。面白くなるまで我慢する」

「我慢ですか?」

「うん、本ってね、ずっと面白くなくても、最後の一行おおって思ったらそれまでの面白くなさを全部許せるんだよね」

「おおって?」

「うん」

「佐藤さんが言うんですか?」

「おおって言わないけど、膝叩いたことはある」


信じられない。

佐藤さんが膝を叩く姿を想像することができない。

勿論眼鏡の彼も。


シェイクを飲み干し、食べ終わったら椅子を開けなければいけないから、さっさと立ち上がり、少しだけベイシアの食料品売り場を見て、佐藤さんはエレベーターのすぐ傍にあるたい焼き店の前で美夜に「たい焼き好き?」と聞き、美夜が「好きです」というとたい焼きを五つ買ってベイシアを出た。


「美夜ちゃん、これから家来ない?」

「え?」

「家本いっぱいあるから美夜ちゃんが読めるような本探そう?」

「お仕事いいんですか?」


何も進まなかったような。

無口主人公ってことはわかったけど、あんな琵琶湖くらいしか見えない場所で何するんだろう。

精霊召喚?


「うん、それより美夜ちゃんが本興味あるの嬉しいから」

「そうなんですか?」

「うん。面白い本いっぱいあるから。読んでほしいな」

「はい」

「たい焼き食べながら、ね?」

「はい」


見たものしか書けない人など作家にはなれないってことは今日の佐藤さんを見ていると何となく美夜にもわかった。

推理作家さんが実際自分で殺人を行うなどありえない。

この世には魔法少女など多分いないし、パラレルワールドだって多分存在しない。

そして何より、死んだ人は生き返らない。

それだけは絶対に。

















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