聞く人を間違えた
歩いて、歩いて矢倉川まで来ると、道路を隔てステーキハウスが見えた。
「ここまでかな、結構歩いたね?」
「そうですね」
「疲れた?」
「いえ、全然」
「美夜ちゃん運動部?」
「はい、バレー部です」
「そうなんだ」
「はい、あの、聞いてもいいですか?」
「うん、何でも聞いて。ごめん、道引き返すけど、いい?」
「はい、どうぞ」
「引き返す前に、あそこでお肉でも食べる?」
佐藤さんがステーキハウスを指さすたが、美夜はこの間から食べたいものがあった。
佐藤さんには悪いが、丁度いい機会だから食べたい。
「あの、佐藤さん。その、私マクドナルドに行きたいんですけど、ダメですか?」
「マクドナルド?いいよ。美夜ちゃんが食べたいなら」
「本当ですか?ファーストフードとかカロリー高いし、体に全然よくないですけど、いいですか?」
「うん、最近食べてないから、俺も食べたいしいいよ、何処にあるの?」
「あの、ドラッグユタカあったじゃないですか?その真ん前にアパートがあって、その信号の先です」
「そう、じゃあ来た道引き返したらいいんだね?」
「はい、ベイシアの中にあるんです」
「ベイシアってスーパー?」
「はい」
「そう、まだ行ってないな、じゃあそうしよう」
「はい、すみません」
来た道を振り返り歩き出すと、丁度向かい風だった。
「風凄いね?」
「はい」
「友達とマクドナルド行ったりしないの?」
「ベイシアとビバシティにしかないので、前はアルプラにもあったんですけど」
「家族では?」
「皆カロリー高いからって嫌がるんです、お菓子は食べるのに」
「そうなんだ、美夜ちゃん。聞きたいことって何?」
「はい、あの、佐藤さん作家さんですよね?」
「うん、まあね」
「作家さんってことは、沢山本読んでますよね?」
「うん、まあ読んでる方だと思うよ」
「あの、その、どうやったら本って読めますか?」
「本?」
「はい、私、本読みたいんですけど、全然ページが進まないんです、呪いみたいに」
「呪い?」
「はい、もうぎっしり詰まった字見るだけで嫌になっちゃって」
「あー」
「あります?」
「うーん、ないかな」
「ないですか?」
「うん、書くの嫌になることはあるけど、何か読んでないと落ち着かないから、読まない日はないかな」
「一日もですか?」
「うん」
聞く人を間違えた。
そうだ、書くほど本が好きなのだ。
なら読むことなんて好きに決まっている。
元々の始まり、根幹が自分とは違うのだ。
美夜はこれは聞いても無駄だと思い、マクドナルドで何を食べようか考えた。
今てりたまバーガーやってるな。
次いつ行けるかわからないから、アップルパイも食べとこう。
「美夜ちゃんは漫画は読むんだよね?」
「はい、読みます」
「ゲームもするって言ってたよね?」
「はい、します」
「なら、物語が嫌いってわけじゃないんだよね」
「そうなりますか?」
「うん、本で読むのがダメなら、ネット小説とかは?」
「どうせだったら本で読みたいんです、文庫本で」
「文庫本限定なの?」
「はい」
だって彼はいつも文庫本を読んでいる。
「美夜ちゃんはどんな漫画が好きなの?」
「漫画はお姉ちゃんが買ってきてくれるのを読んでて、結構なんでも読んでます。少年誌も青年誌も、鈍なのが好きって言われると、うーん」
「じゃあ、どんなキャラクターが好き?」
「キャラクターですか?うーん、女の子なら闇属性キャラで、男の子なら、眼鏡、眼鏡キャラ」
そう言って一番に思い出すのは明らかに二次元要素のない三次元の彼。
ツンデレだとか俺様だとかクーデレだとかヤンデレだとかそういう設定すら判明していない恐らくは何もない色さえ無色透明な彼。
昔から男の子なら眼鏡キャラが好きだった。
でも三次元ではまったのは彼が初めて。
話したことすらないくせに。
「そう、乙女ゲームとかするの?」
「本格的なのはしないです。こう接待されると恥ずかしくなっちゃうので、アイドル育てるのはやりますけど」
「そういうのだって、ストーリー読むでしょ?」
「スキップできないのは。できるのはスキップするので」
「RPGってストーリーでしょ?」
「それは読みます。アイドルげーは音ゲーがしたいからしてるだけなので」
「あー」
「フルコンできた時が嬉しくて、だからストーリーとかはどうでも良くて、後覚醒させると絵が変わって可愛いから」
「恋愛ものとかじゃなくてもいいんだよね?」
「はい、それ以前の問題で、ちっとも話が進まないんです、嵐が丘」
「嵐が丘読んでるの?」
「はい、まだロックウッドさんがヒースクリフさんのお家に入ったとこなんですけど、佐藤さん読んだことあります?」
「うん、何回も読んだよ」
「面白かったですか?」
「うん、生きている間にあんな小説一冊書けたらもう死んでもいと思えると思うよ」
「そうですか。どこから面白くなります?」
「最初から面白いけど」
佐藤さんはそう言ってふんわりと笑った。
その笑みの安らかさ。
やっぱり聞く人を間違えた。
最初からって。
「冒頭から引き込まれないでそのまま読み続けるのは難しいと思うよ」
「佐藤さんも読むの断念した本とかあります?」
「うーん、ないけど」
聞く人を完全に間違えた。
質問が悪いのだろうか。
そうか。
こう聞けばよかったんだ。
「あの、佐藤さん。私でも読める本ありますか?」




