5.逃亡か、服従か
相変わらず進みませんね……
視点もあっちこっちいったり来たり。
巫女達の悲痛な祈りの声に、私は目を覚ました。
聞けば、アリサという巫女が大神殿から勇者を逃がすために一人で動いているのだと言う。
大神殿は今まで神託と偽って勇者を利用したり、監禁紛いのことをしていたらしい。
やはり勇者を大神殿に任せたのは間違いだったのだろうか。
とにかく、今勇者がどこで何をしているのか視なくては。
大神殿から逃れていたのだとしたら、私が導かなくてはならないかもしれない。人間任せにするには、人間達の心は少々汚れすぎている。
勇者を利用しようとしている点は、私も大神殿の人間とあまり変わらないのでしょうね。
私は、小さく自嘲の笑みを溢した。
*****
勇者は濃霧の森のはずれで、神殿騎士たちと立っていた。
目の前に広がる鬱蒼とした森は、まだ立ち入っていないにも関わらず霧が出始めている。
勇者は傍で立っているアリサを横目で見やりながら、中庭でのことを思い出していた。
『勇者様、貴方には大神殿から逃げてもらいます』
『なんだと?』
『大神殿は貴方を利用し続けるつもりです。大神殿は魔王を討伐した後も、神託を騙り貴方を操るつもりなのです』
『……』
『気付いていたでしょう、周囲に見張りのように神殿騎士が多いことに』
薄々感付いていた。
神殿騎士たちの哀れみや嘲りの視線も感じていたし、今も遠巻きに監視されているのがわかる。
それでも構わないと自分では思っていた。
自分を大神殿に売った親のもとには帰りたくないし、それ以前にあの親は元々自分をまともに育てようとはしなかったのだから。
帰る場所が大神殿になっただけだ。外に出られないというのは少し不健康だし、あまり気も休まらない上にうんざりするが──
……そう考えると、大神殿から逃げる方が精神的には良いのではないだろうか?
『勇者様。濃霧の森は、その名の通り濃く深い霧が広大な森を覆っています。そこならば、逃げ出すことも不可能ではないはず。
魔物の討伐で見張りが少数になった隙を狙って、抜け出しましょう。私が補佐します』
アリサの言葉に、勇者は迷っていた。
「討伐班、集合!」
もう時間は少ない。けれど勇者は、決断出来そうになかった。
ちょっと逃亡理由が弱いかなと思って迷わせています。