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君を求めて、勇者になる  作者: 村田 太郎
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憑依転生

こんにちは、村田太郎です!

処女作ですが頑張ります!

 背中が冷たい。何かの上で寝ているような感じだが、ひんやりしている。それはじわじわと、布の上で水をたらしたかのように広がっていき、俺は瞼を開ける。青暗い天井がぼんやりと映り、俺はその瞬間、自分が未知の場所にいることに気づく。こんな色の天井、俺は知らない。

 恐怖と混乱で俺はがばっと上半身を起こし、辺りを見渡す。壁は天井と同じく青暗く、5メートル四方しかない空間の中央の台座に俺はいた。その台座も、まるでオリンピックで使われるような聖火の燭台のような、奇妙な形をしている。

「ここはどこだ……? なんで俺こんなところにいるんだ……? たしか俺は――」

 交通事故でトラックに吹っ飛ばされたはずなんだ。大学から帰る最中に、ふらふらしたトラックが歩道へと突っ込んできて、運悪く巻き込まれてしまったはずなんだ。

 ならここは俺の知らない病院だろうか。骨折どころか出血も痛みもないので、俺は奇跡的に助かったのだろうか。だが、トラックに吹っ飛ばされて五体満足でいられるはずがない。少年漫画に出てきた、一瞬で怪我を治す豆でも食べたのか?

 ……ありえない。夢でも見てるんだろうか。

 俺はもやもやした頭の中、再びあたりを見る。すると、台座のそばに見慣れたものを見つけた。俺がいつも使う黒いスマートフォンだ。俺は素早く手に取り、電源を入れる。とりあえずここがどこかを、これを使えば調べることができるはずだ。

 だが、それはできなかった。電波を示すアンテナマークの本数が0なのだ。つまり、圏外だ。

「ここって、山奥なのか……?」

 だが、その割には耳鳴りは感じない。最も、窓がないため確かめようがないのだが。

 しかしこれでは連絡が取れない。助けに来てもらおうにもどうしようもない。

「……とりあえずここから出よう」

 俺はスマホをチノパンのポケットに入れ、台座から降りる。きっと出口があるはずと、くまなく部屋を探した結果、鉄製のシャッターに似たような扉口があった。その近くには小さな台座が鎮座されている。俺はシャッターを開ける要領で、下から思い切り持ち上げる。だが、それはびくともしなかった。

「く、くそ……どうなっているんだ……」

 肩で息をしながら、俺は考える。しかし、与えられている情報が少なすぎるし、そもそも自分がどうしてこんなことになっているのかさっぱり見当もつかない。

「蹴破ればいいのか……でもこんな固いの俺の力じゃ無理だな……いったいどうすれば――」

「おぬしが持っているそれを近くの台にかざせばよいのじゃ」

 なるほど。それはいいことを聞いた。じゃあ早速……!?

「ど、どこから声が!!」

 危うくスマホを、シャッター近くの台座にかざしかけた俺は後ろを振り向いてきょろきょろとあたりを見回した。しかし、いくら見渡しても、人の姿はない。

「ここじゃよここじゃよ」

「いやだからどこなんだ!?」

「ここじゃよ、おぬしのポケットの中じゃ」

 えっと驚愕しつつも中を見ると、スマホがある。スマホのディスプレイはついたままだった。まさか、スマホが喋っているのか? でもAIスピーカーにしては高性能すぎる。じいさん口調でしゃべれるスマホなんて聞いたことがない。

「ようやくわかったようじゃの。おぬしのその、機械を通して話しておるのじゃ」

「は、はぁっ?」

 何を言っているんだ? 電話か? それとも本当に新手のAIスピーカーか?

「何とぼけたような顔をしとるんじゃ。わしじゃ、覚えておらんのか?」

「覚えてるも何も、初めてです……」

 俺は呆れながらも抗議する。マジで何を言っているんだ?

「なんと……この《神》を忘れてしまったというのか……」

「忘れたも何も会ったことが……え?」

 耳に流れ込んだ、とある"単語"に俺の思考は止まる。俺はスマホを覗き込んで、目を細めて凝視する。

「か、神ってどういうことなんですか……?」

「神は神じゃよ。この世界を統べるものじゃ」

 平然とスマホは語る。だが、思考が追い付かず、疑惑しか生まれない。

 本当にこれは現実なのだろうか。神もいることだし、ここは死後の世界なのか? でも何でスマホがあるんだ?

 そんな俺の表情に見かねたのか、スマホからため息が漏れた。

「……どうやらおぬしは何もかも忘れてしまったようじゃな。では仕方ない、全て教えてやろう」

 神を語る奴なんてかなり胡散臭いが、とりあえず聞かないと話にならない。俺は考えるのをやめて、スマホから流れる声に集中する。

「22年前のことかの、お主とワシと、それから姫がこの地を支配する魔王に立ち向かったのだが、残念ながら奴には敵わなかった。死にかけたお主の魂をどこか安全な世界へと飛ばし、体はここで22年ものの間ここで眠り続け、そして今日目覚めたのじゃ。どうじゃ、思い出したかの?」

「……? さっぱりわからないです」

「な、なぬ? 昔のお主なら全て判ったというのに……」

「こんなむちゃくちゃな説明じゃわかりませんよ。ちゃんと、一から説明してください……」

 何が神だ、姫だ、魔王だ。そもそも俺は22年前は産婦人科の病院で泣き喚いていたはずだ。魔王なんぞと戦った記憶なんてない。あってたまるか。

 だが、一つだけ、わかりそうなことがあった。

「ところで、えっと……」

「神じゃ。まあゼスという名があるのでそれで呼んでくれ」

「じゃあ、ゼスさん。もしかしてこの世界は、いわゆる異世界って呼ばれるものじゃないんですか? 俺、はっきりいって魔王だの姫だの、神だのそんなの全然よくわからないんです」

 実は、こうして話をしていてなんとなく俺は気づいていた。ここは俺の知っている世界じゃないということを。夢みたいな世界だが、それにしては妙にリアリティを感じる。肌に触れるひんやりとした空気、鼓膜に響くじいさんの声、スマホの熱などといった、夢では表現しきれない領域を全て表現している。そして先ずスマホが勝手に話すわけもないし、本当かどうか怪しいが、とたんに神を名乗り出す奴がいる。

 スマホからは唸る声がバイブのように響く。そして、小さくなるほどのぉと呟くのが聞こえた。

「……一つ聞いてよいか、青年よ――いや、名は何という?」

「あ、須藤斗真(すどうとうま)です」

「そうか、斗真よ。以前何らかの原因で命を失ったか?」

「は、はい……トラックに跳ねられました」

「トラックとは何じゃ?」

「あ、えっとその……要はでっかい車です。それにぶつかって吹っ飛ばされました」

「ふむ、なるほどのぉ。ぶつかって吹っ飛ぶほどなのだから、ギガンテスレベルの巨体にでも当たってしまったのだろうな。それでだ」

 神はコホンと咳き込んで言葉を切る。

「はっきりと告げよう。斗真のいう通り、"異世界"へと来たのだ。いや、ワシが来させたのだ」

「……え?」

 俺は唖然と口を開く。疑念が頭のなかに風船のように膨らむばかりだ。

「さっきも言ったであろうが、ワシは死にかけたお主の魂を回復させるべく、ワシからみた異世界へと向かわせるよう、最後の力を使って呪文をかけたのだ。争いも戦いもない世界にな。そしてその世界で死んでしまったらここに戻すように仕組ませてもらったのだ」

「は、はぁっ!?」

 さっぱり意味がわからない。スケールが意味不明だし、理解なんてできるわけがない。俺は頭を抱えながら台座へと寄りかかる。

「お主の死期はさすがに操作はできなかったし、記憶を失っているとは想定外だった。だが、22年という若さでこちらへ来た。それはこちらにとっては好機だ。魔王に支配された世界を救うことができるからな」

「俺にとっては好機じゃないですよ……というか世界を救うって何ですか!?」

「察しが悪いのぉ。この世界を支配する輩を倒すことじゃよ。斗真が、というよりも"主"が以前やっていたことじゃ」

「で、できるわけないじゃないですか! 俺はただの大学生だし、運動だってできない! ケンカだってろくにしたことないですよ!」

「それはどうじゃかのぉ? 斗真の魂はともかく、お主の肉体は魔王と戦ったままのものじゃ、相当鍛えられておる」

「だ、だからといって……」

 確かに二の腕とか腹筋とかをみてみると、現実世界で生きていたときよりもずっと隆々としている。さわると鉄のように固く、少々感動を覚えるが、それとこれとは話が別だ。

「よいか。斗真は勇者の魂を引き継いでいるのだ。魔を打ち払い、この世界を救うのじゃ! さあ、ゆけ!」

「……嫌です、てかあなたがやればいいじゃないですか!」

「ワシは力を使い果たしてしまっており、力を取り戻せていないのじゃ。そのため、こうして斗真の持ち物に寄生して話したりすることしかできぬ」

「……だとしても嫌ですよ。俺はここにいます」

 そういうと俺は台座に座り込む。どうして俺がそんなことをしなくちゃいけないのか。突然世界を救えなんて言われて、はいわかりましたなんて答えるやつなんているもんか。俺はため息をついてスマホを傍に置いた。

「ならずっとここにいるつもりかの? いっておくがここには食料はないぞよ?」

「……」

 俺は腹を眺め、そしてぐぅーっと情けない音が鳴るのを聴いた。そういえば、昼に学食でラーメンを食べて以来何も食べていない。死んでいるから腹は減らないと思っていたのだが、その認識は間違っていたようだ。

 俺はため息をついて台座から降り、喋るスマホを手に取って扉の近くの台にかざす。ちょうど、交通機関の改札で使われているICカードのような要領でそれに触れると、表面が青白く発光し、ゆったりとした動きで扉が開いていく。すると白い光が視界を染める。この感覚は、現実世界にある太陽光と同じだ。俺は若干安心感を覚えつつ、吸い込まれるように、岩の道を進む。

 やがて光の占める範囲が広がっていくと、鼻腔に空気が入り込んで来るのを感じた。風が、吹いているのだろうか。少しすると、何かを踏んだような音がした。柔らかく、小気味良い音がする。草を踏んでいるのだろうか。ヴェールを破り、光がはじけ飛ぶと、俺は瞳を大きくさせた。

 穏やかに吹く風、それに小さく揺られる草や花、愉快に踊る虫、海のように澄んだ大空。俺は息を呑みつつ、ゆっくりと歩を進めていく。俺の住んでいたところは、こんな自然豊かじゃなかったから、見たことがなかった。だから、物珍しかった。

 だけど、俺は思い違いをしていた。こんなのはまだ、序の口だ。進んでいくと、その先が崖だということに気づく。思わず立ち止まり、その先を見渡すと――大地が果てしなく続いていた。

「うわぁ……」

 ビルも、電車も、車も、人もいない。あるのは草木と岩、小さい町と思わしきもの、そしてはるか奥にそびえる連峰のみだ。だが、何もない、退屈なものとして片づけられなかった。現実世界では、否かだと決めつけて、バカにしていたが、そんな感情が浮かばなかった。

 開放に満ちているのだ。人もいない。自らを縛るものが何もない。ここで大声を上げても、走り回っても、何も言われない。そんな世界に思えた。

 ――そして、俺がもう現実世界で死んでいることを、改めて実感させられた。今まで暮らしていた世界とは、まったくと言っていいほど違うからだ。

 ただ、不思議と悲しみは去来してこない。元の世界を惜しむ感情は沸いてこない。未練がなかったといえば嘘になるが、特段行き返りたいという望みはない。

 しかし、俺は別の世界に移動できた。こんな奇跡が起こるなら――

「あの、ゼスさん」

「なんじゃの?」

 俺は、喉の底でたまった言葉をそっと、垂れ落とすように、か細く、しかし早い口調で尋ねた。

「俺以外に、別の世界から来た人間はいるんでしょうか……?」

「そんな人間はおらん。異世界へ飛ばす呪文をかけたのはお主――まあ、斗真の体だが――のみじゃよ」

 神様は軽く答えた。だが、まあそれもそうかと、俺は思い直し小さくため息をついた。

「そうですか……それで、どこにいけばいいんですか?」

「とりあえず景色をワシに見せてくれ」

「ああ、そうか……」

 俺はスマホを掲げ、神様に景色を見せる。おおと神様も感嘆の声を上げつつ、食料を確保できる場所を探す。

「とりあえず崖を降りた先にある、ガロッタの町じゃな。そこなら市場もあるし、腹は満たせるぞえ。崖を降りるなら、左の坂を下っていった方がよい」

「そうですか……とりあえず行きましょう」

「うむ、そうじゃな……ところで斗真よ。なぜ死んだことに対しては動揺していないのじゃ?」

 神の疑問に俺はどうこたえるか迷った。確かに神のいう通りなのだ。本来なら、異世界に来たこととかそんなことよりも、死んだことや、もう元の世界に戻れないことに動揺すべきなのだ。

 ただ一つ言えるのは、俺はもう現実世界に求めるものがないってことだけだ。そう思うようになったのは――

「……俺はある人を失ったんです。とても、大切な人を。それからは……」

「なるほどのぅ……それでほかに転生者がいるかどうかを聞いたわけじゃな?」

「はい。まあ、いないなら仕方ないです。とりあえず行きましょうか」

「そうじゃのう……あ、そうじゃ。出かける前に備えはせねばなるまい。すまぬが斗真よ、先ほどいた祠に戻って、剣と盾を取りに行ってはもらえぬか。かつて斗真の体の主が使っていたものじゃ」

「け、剣と盾? わ、分かりました……」

 剣とか盾とか、馴染みのなさすぎるものを指定されてしまったが、ここは異世界であり、戦いに慣れていないものが武装して身を守るのは当然である。俺は神の入っているスマホをポケットにしまい、先ほどの部屋に戻る。すると、部屋の台座の陰に剣と盾が立てかけられていた。先ほど部屋を見た時に、気づかなかったようだ。剣は随分と刃こぼれが激しく、盾も相当ぼろぼろだが、軽く自由に振り回せる。普通鉄製の剣は生半可の人間では到底扱えないのだが、きっと俺の肉体がかなり鍛えられている故だろう。

俺はショルダーベルトを使って剣を背に仕舞い、盾は腰のベルトに引っ掛けた。丁度ベルト付きのチノパンを履いていたのでうまくいった。俺は少し顔を赤らめつつ外を出るが、ふと俺は何かに気づく。さっきまで剣と盾が置いてあった場所に、一枚の白い紙が落ちていたのだ。俺はそれを手に取り、表裏捲ってみると、それが写真だと気付く。

「異世界にも写真はあるもんなんだな……」

 少しだけ興味を示した後、俺は写真を見る。そこには、野原の中、微笑んでいる女性が映っていた。長袖の、青と白を基調にした、質素だが清楚感あふれるドレスを纏い、一輪の花を持っていた。ただ、顔は煤で隠されており、いくら指で拭っても落ちそうにない。

 だが、なんとなく俺は既視感があった。根拠はないが、始めて見るような感覚はなぜかしなかった。

「……ゼスさん」

 俺はスマホを取り出し、ディスプレイを表示させて呼び掛ける。すると、眠たそうになんじゃと返ってきた。寝ることがあるのかと少し驚きつつも、疑問を投げた。

「この写真の人、誰ですか?」

「ん、どれどれ……? これはティーナじゃな。この世界のとある国の姫じゃ」

「お姫様か……ちょっと服が地味な気がしますけど」

「そこまで派手好きじゃなかったんじゃろうよ。斗真の体の主が肩身離さず持ち歩いていたな。まあ姫とは恋仲であったから当然じゃがの」

「へぇ……」

 俺は話を聞くと顔を伏せる。先ほどゼスに言った大切な人もそうだった。地味な服装を好んでいたけれど、とっても清楚感にあふれていた。そして、恋人同士でもあった。いろいろと共通している部分があるが何か関係があるのだろうか――

 ……考え過ぎか。

 俺は出口へと向きを変え、外に出た。そしてスマホを目的地の方に向けると俺は口を開く。

「じゃあ早速案内頼みます」

「いいじゃろう。では、ゆくぞ」

 ゼスはナビゲートを初め、俺はそれに従って歩き始めた。

 22歳で死んだ、の異世界での冒険は、始まったばかりだ。


――とっても、とっても、残酷で。

――とっても、とっても苦しいなんて、知ってるわけないけれど。


 




いかがでしたか?気に入っていただけたらこの後も読んでくださるとうれしいです!!

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