開演(7)
「まさかエバがそんなエリートだったなんてな。一年前に見学に来た嬢ちゃんがいたと思ったら、いつの間にか劇団の中心だもんな。」
「エバさんも職場見学に来たんですか?」
カチュアの質問にエバはただ頷くだけである。
「エバの書く脚本は素晴らしい出来で、助かるんだが・・・」
「何か問題があるんですか?」
言葉を濁すアンデルに、カチュアは切り込む。
「俺を主役にしたがる。」
「何も問題はない。」
アンデルの苦言をエバは即座に切り捨てる。
「俺は特効を活かすために裏方に回りたいんだがなぁ・・・ウェイクを主役にしないか?」
冗談じゃない、とウェイクからもイムカからも抗議の声があがる。
「こんながさつなのが相手なんて絶対にいや!」
イムカの剣幕に、そこまで拒否することはないだろ、とウェイクがもごもご呟いている。
カチュアがあっ、と思い出したように鞄からパンフレットを取り出す。
「確か魔王に攫われた王女様を救うために賢者が立ち上がったんですよね!」
賢者イグニスの冒険と書かれたパンフレットを掲げ、カチュアが興奮気味に声をあげる。
「そうよ!明日のクライマックスでは無事賢者に助け出された私が存分に目立つんだから。」
したり顔のイムカがややオーバーにお辞儀をする。
「明日も絶対に見ます!」
カチュアもぴょんぴょんと飛び跳ねて興奮は最高潮である。
「明日は王宮から本物の王女様が観覧にいらっしゃる。気合いいれないとな。」
アンデルの一言に場が凍りつく。
「え、王女様が・・・?」
「聞いてないぞ団長!」
「今言ったが?」
「私が目立たないじゃない!」
揉め始めた一同に、カチュアはおろおろするばかりであった。
「ウェイクは警備の確認だ!イムカとエバはリハーサルを始めてくれ。明日の出来如何で成功か失敗か明暗が分かれるからな!」
パンパン、と手を打つアンデルに、皆しぶしぶと動き出す。
「と言うわけでヨットハム嬢、今日のところはお開きでよろしいかな?」
向き直ったアンデルに、カチュアは深々と頭を下げる。
「本日はありがとうございました!明日からもよろしくお願いします!」
慌ただしくなってきた楽屋を辞するカチュア。その後ろ姿を見送ったアンデルにイムカが声をかける。
「よかったの?アルの魔術のこと教えちゃって。」
「過度に持ち上げられても困るからな。あまり期待させてもいけないし。」
「むしろがっかりしちゃって明日から来ないかもよ?」
イムカの言葉にアンデルは顔面蒼白になる。
「そ、それは困る!」
一方その晩、アンデル達の心配をよそに、翌日からの楽しみを胸に、一人ベッドでぴょんぴょん飛び跳ねるカチュアがいるのであった。