ハプニング
数日後、キルケと共に図書塔の掃除を行っていると約束通りヨモギが書類を届けてくれた。
「生徒会からの許可は下りたが、学院長からの許可はまだ下りていない。校外活動をするのはまだ控えてくれ」
ヨモギ曰く、生徒会の許可を貰い、また生徒会が学院長に許可を貰うそうだ。学院長の許可がないと生徒会が許可をしても校外活動は認められないらしい。
「……ううん、もうちょっと先になるわね」
ヨモギが帰った後、アストレアが残念そうに言うとキルケは言った。
「学院長の許可となると最低2週間は待たないといけないね」
そこを父のよしみでどうにかしてくれたらいいのに、と少しだけ思う。
掃除を再開しようとした時、キルケが言いにくそうに紙を手渡してくる。
「これは?」
紙には『魔獣学の校外学習のお知らせ』と書かれていた。
魔獣学というのは、魔物に関する知識を学ぶ授業だ。アストレアの興味を持った様子に安心したのか、キルケが安堵の表情を浮かべながら言う。
「魔獣学の授業で校外学習をやるんだけど、アストレア嬢も良かったらどうかな?」
行きたいのは山々だが、アストレアはその授業を受けていない。言葉を濁すとキルケが慌てて言い直す。
「魔獣学を取っていなくても参加可能なんだ。次に魔獣学を受ける時に単位が認められやすくなる自主参加型講義なんだ」
つまり、行きたい人は誰でも参加可能という事になる。それは楽しそうだ。アストレアは2つ返事で承諾した。
「良かった……」
「どんなことをやるの?」
彼が説明するには、魔獣学の校外学習は学院近くにある迷宮付近で危険度の少ない魔物を探すものらしい。生まれてこの方、魔物なんて本の中でしか見たことがないし、まして迷宮なんてものも見たことがない彼女にとって未知数の冒険だ。
キルケの話を聞くだけで心が躍る。
「あ、あとさ……図書委員の紋章を考えてきたんだけど見て貰ってもいいかな?」
紋章、と聞いてこの間の事を思い出してしまう。キルケの上に乗ってしまって、すぐ傍で吐息を感じて……。思い出すだけで赤面してしまうアストレアに彼は心配そうに顔を覗きこんできた。
「どうしたの? 顔が赤いけど熱でもある?」
額を触れられそうになり、咄嗟に後ろへと逃げる。
「い、いいえ。大丈夫よ、それでどんな紋章にしたの?」
「それならいいけど、体調が優れなくなったらすぐに僕に言ってくれよ?」
念を押すキルケにアストレアは引きつった笑みを浮かべる。ここでまた触れられると前みたいに逃げてしまいそうだった。
そんなアストレアの葛藤をよそに、象の絵を描いて楽しそうに図書委員の紋章を決めているキルケ。
「象には記憶力、知恵、誇りといった意味があるんだ。図書委員になかなかぴったりだろう?」
「ええ、そうね」
聞いてみたところ、キルケはどうしても図書委員の紋章を作りたかったらしい。レオンが委員長だった時も何度かねだったらしいのだが、そんなことより人員確保に熱を入れろと断られたらしい。
生き生きとするキルケに微笑ましく思いながらアストレアも案を出す。
「オリーブを合わせるのはどうかしら? オリーブの花言葉は平和と知恵。これも図書委員に合っていると思うの」
「いいね、オリーブ。象の周りに入れよう」
「楽しそうね、キルケは」
思っていたことをそのまま言ってしまうと、キルケは少し驚いた表情をする。変なことを言ってしまってごめんなさい、と謝ろうとする前にキルケが言った。
「そりゃあね、アストレア嬢と一緒なら何でも楽しいよ」
満面の笑みでそう告げられ、アストレアはもう何も答えられなかった。
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