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FAIRY WARS ~最弱は最強を打倒する~  作者: Sissy
第一章 最弱の委員長
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最弱委員会、動き出す

 東の国シズクのように貧しい子ども達に読み書きを教えるという活動に賛成してくれたキルケは、早速アストレアを連れて生徒会室へ向かった。校内、校外問わず何か活動する時は生徒会の会長と副会長の許可がないと出来ない。加えて学院長への許可申請も生徒会が行う。生徒会が許可を出さなければ、どんなに準備を整えても活動をすることが出来ないのだ。それくらいに、学院内の生徒会の力というものは大きい。


「入りたまえ」

 ノックをすると同時に、扉の向こうから声が聞こえる。そっと開け、キルケに続いて中に入る。ここに来るのは、アイグレに案内してもらった日以来だ。

 中にいたのは生徒会の人間と思われる3人だった。


「図書副委員長のキルケです。今日は校外活動の許可を貰いに来ました」

 執務机で書類にサインなどしていた男がゆっくりと彼の方を見る。薄いラズベリー色の髪を後ろで束ね、濃い藍色の瞳を鋭く光らせている。見た目は女性に見えるが低く魅力的な声は男性のものだ。

「ヨモギ、書類を彼に渡せ」

「はい」

 ヨモギと呼ばれた黒髪の少女が、自分が座っていた机の引き出しを開け、中から1枚の書類を取り出し、キルケ達に渡した。


「それで、お前達はどんな活動をするつもりなんだ?」

 執務机に座って作業をする男性が書類に書き込んでいるキルケに話しかけた。

「外で読み書きを教えようと思っています」

 書類を書き終えたキルケは、ヨモギに紙を渡すとそう返事をする。誰がどういう人なのか分かっていないアストレアにそっと耳打ちで説明してくれる。

「執務室で作業をしているのが、副会長のオリヴィエさん。さっき、書類を渡してくれたのが書記のヨモギさん。で、部屋の隅で僕達を睨んでいるのが財務のメルクリウスさんだよ」

「何でずっとわたし達を睨んでいるのかしら……」

「さ、さあ。彼はずっとああいう感じなんだ」

 部屋に入った瞬間から彼の視線が刺さってくる。居心地が悪い、とメルクリウスの方を見ると眼鏡越しに睨まれた。


「生憎、会長は今日も失踪していて許可状を渡せるのは明日以降になるが、それでもいいか?」

「はい」

 オリヴィエがそう言って書類からキルケの方に視線を投げやる。

「某が図書塔に書類を持って行くので」

 ヨモギがそう言って姿勢正しく敬礼する。すると、彼女の後ろに立つようにしてメルクリウスが鼻にかかる声で話しかけてきた。


「ふん、大人しくさっさと生徒会の傘下に入ればいいものを……」

「メルクリウス!」

 オリヴィエが窘めると眼鏡の端を持ち上げ、彼は鼻で笑った。

 その態度に神経を逆なでさせられたが、アストレアの肩に置かれたキルケの手のぬくもりが冷静にさせられる。メルクリウスという人物はどうも苦手だ。


 苛立ちながら一礼をして生徒会室を出る。外に出るとふうっと息をついた。

「ねえ、キルケ。生徒会の傘下に入った委員会ってあるの?」

 図書塔へ向かいながらアストレアは隣を歩くキルケに尋ねた。彼はそっと顎に手を添え、記憶を探ると確か、と続けた。

「生徒会の傘下に入ったのは、新聞委員と飼育委員だったような……。新聞委員は僕等みたいに構成員も少なくて弱小だったから生徒会に吸収されてしまったんだ。おかげで今の学院新聞は生徒会の都合の良い事しか書かれていないものになってしまったんだよね。他の委員会の活躍をもみ消すように」

 もう1つ傘下になった飼育委員会は、学院で飼育されている幻獣の世話が出来る幻獣使いの減少が原因だったらしい。飼育委員には気難しいユニコーンを操る腕の良い幻獣使いがおらず、生徒会に幻獣使いが居たことから自然と傘下になった、とキルケは言う。


 生徒会の傘下に入る、ということは委員会そのものが生徒会の仕事の一部に組み込まれるということだ。『植民地化』された委員会は生徒会の仕事の『一部』になる。

 構成員が他よりも圧倒的に多い生徒会なら、2つ3つ弱小委員会を吸収したところで、今までとは変わらない。ただ、傘下に入った方の委員会は今までの歴史は全て無くなり、委員長、副委員長という立場もなくなり、生徒会の一構成員となる。傘下に入るということは、つまり全てを失うことなのだと険しい顔でキルケは言う。

 委員会が対立するこの学院では委員会の『権力』が物を言うのだと。

 権力のある委員会は弱い委員会を喰い、力をつけていく。一種の国取りなのだ。


 乱世とも言えるこの学院で生き残れるのだろうか。苦しそうに呟くキルケの横顔が切なくて胸が痛くなる。

「大丈夫よ、キルケ。図書委員は生徒会の傘下にならないわ」

「アストレア嬢……」

「何たってこのわたしが委員長を務めるだもの。生徒会と渡り合えるくらい、強い委員会にしてみせるわ!」

「……そうだね」

 ふっと微笑んだキルケの笑顔にアストレアはまた胸がきゅうとなった。


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