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FAIRY WARS ~最弱は最強を打倒する~  作者: Sissy
第2章 戦の準備
34/35

点と点

「あ、お帰り!」

 項羽の指導を終え、図書塔に戻るとキルケが笑顔で出迎えてくれた。

 手には闇魔法について書かれた本を持っていて、先程まで読書中だったらしい。

「ただいま、キルケ。さっき、項羽さんに会ったのよ」

「図書塔にも来ていたからね」

「図書塔に? そういえば、キルケに会いに来た、って……」


 ふと、キルケが真剣な表情に切り替わるのを見て何か言いたい事があるのだ、とアストレアは直感した。


「項羽が伝えてくれたんだけど、僕達が風紀委員に潜入した時に、ニュクスに操られていたグレーテルの事と……シーニャ先生の事で気になることがあってさ」

 こっちにおいで、と手招きをしてくれる。隣に座ると、キルケはそっと息を吐きどこから説明するか考えているようだった。

「ニュクス先輩の『コレクション』のグレーテルは、僕の見立てだと今回の教師傷害事件に関与している可能性が非常に高いと思うんだ」

「あの人に操られているから?」

「それもある。あるけど、シーニャ先生が風紀委員の顧問だからだと僕は思う」


 特待生を担当しているシーニャという教師が風紀委員の顧問だということは理解出来たが、それがどう関係してくるのかが予測出来なかった。


「もしかすると、シーニャ先生の個人的な怨恨がある先生を影虫の寄生させられているグレーテルに襲わせているんじゃないかなと僕は思うんだ」

 キルケの見立てはこうだ。


 シーニャ先生というのは、教師達の中でも変わり者だと評価されている。同時に敵も多い。そして、風紀委員でもあるグレーテルを利用しているのではないか、という事だ。おそらく平民出身のグレーテルは教師陣から歓迎されていない。


「でも、影虫は夜行性で本人の闇を映した行動をするんでしょう? グレーテルの場合は、自分じゃなかった?」

「僕もそう思って調べていたんだけど、影虫に寄生されていても術者が影虫を操る魔法を発動しないと昼間は眠っている状態らしいんだ。つまり、昼間は自我がある」

「じゃあ、あの時見た生徒達は全員影虫が発動していたって事?」

 アストレアの言葉にキルケは大きく頷いた。彼と潜入した時は夜ではなかったが、操られているようだったと言う事はニュクスが影虫を操っていたのだろう。


「そして、自我がある昼間に教師からの嫌がらせが続けばグレーテルの闇になる。教師が憎い、ってね」

「その感情を使って……襲わせている?」

「そういうこと。今、被害に遭った先生達はみなシーニャ先生をよく思っていない人達なんだ」

 キルケは被害に遭った人から辿ってこの推理に至ったらしい。全く見当もつかなかったアストレアに対し、キルケはこうも素早く目星をつけることが出来る。そんな彼を尊敬するのだが、自分ももっと彼の役に立たなければという焦燥もあった。


「今後は2人に注意していこう」

「ええ」

 キルケはそう言い、立ち上がった。だが、翌日揺るがすような事件が起きる。



 *


 ククルカンに呼ばれ、キルケと共に急いで保健室へ向かうと既にミネルヴァの姿があった。椅子に座ってククルカンに治療を受けているのは、保健委員の顧問アイグレだった。

「アイグレ先生……」

「君はアストレアさんだったっけ、ごめんね、ありがとう」

 ぼさぼさの髪に眼鏡を掛けた彼は力なく笑いかけた。


 彼は腕を怪我しているらしく、シャツをほとんど脱いだ状態でいた。青白いその肌に目立つ赤い筋。切り傷、というにはただの武器でやられたわけではなさそうだった。まるで抉るようにして傷はついていたのだ。


(この傷……もしかすると……)

 点と点が結びつきそうな気がした。


 痛々しいその姿にアストレアはよろめきそうになりながらも、心配そうにアイグレに問う。


「一体、何があったんですか?」

「ちょっと仕事が長引いちゃって、職員室から寮に帰ろうとしていたらいきなり襲われちゃって。ククルカン君が夜は危ないから出歩くな、って言ってくれていたのにね」

 そう言い、アイグレは申し訳なさそうにククルカンを見た。紫の彼の瞳は怒っているようで、冷静なようなそんな感情の色だった。

「本当だぜ、先生。あんたがいなくちゃ俺達保健委員は後ろ盾が無くなっちまう」

「ええ!? 僕を心配してくれないの!」


 子どものように拗ねるアイグレにククルカンは、自己責任だろと言い返す。


「犯人の顔は見たんですか?」

「それが痛みであまり覚えていなくてさ。暗かったし……思い出したら言うよ。君達も気を付けてね」

 アイグレはそう言うとシャツを着ると、手を振って保健室を出た。


 保健室にはククルカン、ミネルヴァ、アストレア達が残された。みな一様に口を開こうとせず、重い空気が漂う。

「お嬢ちゃん、お坊ちゃん。お願いだ、犯人を捕まえてくれないか」

 突然、ククルカンが2人に頭を下げる。


「アイグレ先生を襲った犯人を俺はどうしても知りたいんだ」

「先輩……」

 真っ直ぐなその言葉に、彼とアイグレとの間の絆が感じられた。ククルカンは本気でアイグレを心配しているのだろう。保健委員とその顧問以上の絆が羨ましいと思った。


「本来は俺が犯人探しをしなきゃいけない。だが、これがもし相手が風紀委員だったら俺はもう手出しする事が出来ないんだ」

「それはどうしてですか?」

 感情のない事務的な口調でキルケが訊く。


「風紀委員長のニュクスは、俺の事が嫌いだ。俺が動けばアイグレ先生はおそらくもっと酷い仕打ちを受けることになる……俺はあの先生をこれ以上傷つけたくない」

「それは賢明な判断だと僕は思います」

「無論、図書委員だってボランティアじゃない。危険を冒して犯人を捜してくれるわけだ。犯人が見つかったら保健委員は図書委員を保護する」


 その言葉にアストレアは驚いた。

「保護って……保護下に入れるということですか?」

 簡単に言ってしまえば今の風紀委員がまさにそれだ。生徒会の保護下にある風紀委員会は、他の委員会と争いになった場合、生徒会が風紀委員を守ってくれる。

 しかし同時に保護下になるということは、傀儡委員会になりやすい。


 その事をククルカンも承知しているようだった。

「保護下に入る、という事はメリットやデメリットもある。ただ、顧問の問題はそれで解決できるだろう」

「でも、2つの委員会を兼任するなんてタブーなのでは?」

「キルケ坊ちゃん、見方を変えるんだよ。それは“2つ”の委員会はタブーなんだろう? なら、“1つ”の中に含まれていたら?」

 つまり、保護下に入った場合『保健委員の顧問』という肩書の中に図書委員も含まれると言う事だ。


「ククルカン先輩のおっしゃる事は分かります。でも、わたし達がもし保護下を選んだ場合、保健委員も学院戦争に駆り出される事になりますよ?」

「全て承知の上だ。分かった上で俺は図書委員に手を貸す」

 俺は図書委員を傀儡にはしない、それも文書で記そう――そうククルカンは付け加えた。


 この一連の事件を解決すれば、文化委員と同盟を組め、保健委員にも助力を願える上に顧問問題はクリアできる。そして、武道委員会とも共闘になるはず。

 アストレアはキルケに目配せをすると、深く頷いた。


「分かりました、ククルカン先輩。わたし達が必ず犯人を見つけ出します」

 アストレアがそう言うと、ククルカンはいつもみたく優しく笑った。


「あたしはてっきりククルカンが図書委員を乗っ取るかと思ったよ」

「僕も思いました。それで警戒していたんですが……」

「馬鹿言え。俺は権力とか興味ねぇよ」

「がはは! そうだったな、おまえは微塵も興味ないもんな! 女にもな!」

 ミネルヴァは豪快な笑い声をあげる。

「余計なお世話だ……そういうわけだ、よろしく頼むぜ、お嬢ちゃん達」


「はい!」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

感想・アドバイス等、お待ちしております!

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