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FAIRY WARS ~最弱は最強を打倒する~  作者: Sissy
第2章 戦の準備
33/35

黒の覇者と姫

「おい! 一体どういう事なんだ!」

 生徒会室に怒号が響き渡る。激昂する項羽の視線の先には涼しい顔をして座っているラジエルがいた。

「どういう事も何も、キミは、成績は良いけれど出席率が悪いじゃないか。特待生奨学金制度の条件は、成績、素行、日々の出席率だってことくらい知っているだろう?」

「欠席する時は公欠申請書を出しているだろ! オレ様は自分の為に休んでいるんじゃなくて……」


 顔を真っ赤にして怒号を浴びせる項羽に、ラジエルはつまらなさそうに答える。

「知っているよ、特待生は自身の出身地に定期的に講演をしに行く。それは学院側からの要請だから授業は公欠扱いに出来る。でも、生徒会に公欠申請書は提出されていないんだよ?」

 彼のそのすました態度が項羽の神経を逆撫でする。


「ありえねぇ! オレ様はシーニャの野郎に提出したぞ!!」

「キミが提出しようと生徒会の手元に無かったら意味が無いんだよ」

「だからって奨学金を出せないってのはおかしいだろ! シーニャに確認しろよ!」

「先生をつけなよ~」

「茶化すんじゃねぇ!」

 執務机に項羽の拳が置かれる。その音にぴくりともしないラジエルに、項羽は詰め寄った。


「てめえは平民なんかじゃねぇから、特待生にとっての奨学金の大切さが分からねぇんだろうよ」

「まあ、授業料が支払えなかったら退学だからね。それくらいは分かっているつもりだ。とりあえず、シーニャ先生にキミが提出した事実は頭に入れておくよ。もし、シーニャ先生が紛失したとしても生徒会は、責任は取れないよ」

「……ちっ。これだからオレ様はてめえが嫌いだ」

 項羽がそう吐き捨てても、ラジエルはどこか楽しそうだった。


「へえ~、黒の覇者にそう言われると嬉しいなぁ」

「人の心も分からねぇような奴が国を引っ張っていけるかよ」

「それは聞き捨てならないね? ボクが考えるに国民を率いるのに情なんて邪魔なだけだと思うけれど?」

 今までの態度が急変し、鋭い視線を投げつけられる。その変わり様に項羽は口角を上げた。

「ボクはいずれ王になる。この学院はその前日譚に過ぎない」

「ふん、そう思っているだけじゃねーのか」

「ちょっとは口を慎みなよ、項羽。王太子でもあるボクにそんな口を利くだけでも良くないのに、喧嘩は売らない方が身の為だよ」

 不敵に笑うラジエルを一瞥し、扉を叩きつけるようにして項羽は部屋を出た。


「……王になる、ねぇ」

 生徒会室を振り返り、呟く。


 *


 図書塔の裏庭でアストレアは1人立っていた。

 目の前にはユリウス。言わずもがな、歌の練習である。


「芽にひぃかりと影を 眼にきょっと実を 汝のウォルンたーすを 我が心にぃ」

 ククルカンが言っていたように、声に魔力を乗せるイメージを脳内に浮かべる。手には図書塔から探し出してきた古代音楽の楽譜。この本は昔に書かれた神への指示語が一覧になっていて、ククルカンがやってみせた“視覚共有”の歌以外にも、“能力強化”などもある。


『可愛いアストレア! 上達しているぞ! 前は聞くに堪えないものだったが、今はまだ我慢して聞けるぞ!』

 嬉しそうに拍手する水の神にアストレアは顔を引きつらせる。

「ユリウス様……それ褒めていませんよね?」

『そんな事無いぞ! 前よりはマシだ!!』

「これのどこがマシなんだ?」

 ふと聞こえてきた低い声に驚いて飛び跳ねてしまう。


「あなたは……」

 後ろに立っていたのは、背の高い短い黒髪と黒い眼をした東国人だった。腰には見たことのない変わった剣を提げている。どこかで見たことのある顔だと首をひねっていると、彼が口を開く。


「覚えてねぇか。てめえとは1度廊下で会ったことあるけどな。キルケの隣にいた女」

「あ! 貴方はキルケのお友達ですね」

 図書塔の蔵書を整理していた日に出会った彼だった。突然、睨みつけられていた事をよく覚えている。キルケが彼の事を“貴族嫌い”だと言っていたことも。

 確か、項羽と呼ばれていたはずだ。


「こんなに歌が下手な奴初めて見たぜ」

『アストレアは下手じゃなくて、前衛的なのだ! そこを間違えるな、小僧!』

「ああ? 何だこいつ」

『水の神ユリウスだぞ! 無礼者、無礼者!』

 ユリウスと項羽の間に飛び散る火花。アストレアは困惑しながらも2人を引き離す。


「喧嘩はダメ! ユリウス神も失礼な人の言葉は無視です!」

「てめえ」

「それで、項羽さんが何の御用でしょう?」

「キルケに会いに来たら裏からヘッタクソな歌が聞こえてきたもんで、冷やかしに来ただけだ」

 全く持って口が悪い。本人はわざとなのか、それとも無自覚なのかは分からないが、加えて毒舌だ。


「下手くそで悪かったですね! そこまで言うなら貴方が歌ってみてください!!」

「おう、いいぜ。それ貸せよ」

 そう言い、アストレアが手にしていた古代音楽書を奪い取ると、適当にページを開き歌い始める。


「照る月の満ち欠け 昇る陽の浮き沈み 各々の光に包まれば 汝の魂 空へと昇らん」

 彼が歌ったのは“能力強化”の歌だった。

 例え、項羽が口ずさんだ歌が使役するためのものだとしても、それは1つの芸術のように美しく感じる。一言が透き通っていて、心に染みこんでくるのだ。


「上手……凄く上手なのですね!」

 あれだけ悪態をついてきた相手に、思わず拍手してしまう。心は素直に感動していたのだ。

「まあ、オレ様は何でも出来るからな」

 アストレアに褒められ、まんざらでもないらしい。項羽は照れ臭そうに頭を掻いた。

「どうしてそんなに上手なのですか? 昔、何かやっていたとか?」

 アマデウス、精霊使いを目指す子ども達は古代音楽に触れながら育てられるという。彼は平民出身だったが、何もやっていないとは思えなかった。


「子どもの頃に育った貧民街のじいさんが、元々古代音楽の歌い手だったからな。そのじいさんに教えてもらったんだ」

「素敵ですね」

「そうかあ? 変わった奴だな、てめえ」

 項羽は口ではそう言うものの、どこか嬉しそうだった。


「あの、コツとか教えてくださいませんか?」

 意を決し、彼にそう言うと何故か動揺しきった表情になっていた。その様子から見るに、貴族であるアストレアに教えるのはやはり嫌だったのだろうか。

 暫く逡巡した後、彼は承諾してくれた。

「別にいいぜ」

「やった! わたし、どうしても楽譜に書かれている通りに歌えないのです」

「おそらく、てめえは音域が狭いか、コントロールするのが苦手な音痴野郎だ」

「もうちょっと綺麗な言葉で言ってくださいませんか?」

「なおせねぇ」

 汚い言葉で指導されるのもいかがなものである。


「1番てっとり早いのは、楽器を演奏しながら歌うことだな。同じ音を出すように調節するんだ。てめえ、何か弾けるか?」

「ピアノなら少し……」

「なら、弾きながら歌え。そうすれば、何となく音程も分かるだろ。楽器弾けるなら耳が悪いってわけでもなさそうだし、自分で音痴だって理解してるしな」

『えっ、そうなのか? 私は気付いていないと思っていたぞ』

 先ほどまで黙って聞いていたユリウスに、項羽はぴしゃりと言い返す。


「認めたくねぇんだろ」

「うっ……!」

 心に鋭利な刃物が刺さったかのようだった。項羽は容赦ない。


「ま、歌は結局のところ、気持ちが一番大事だってじいさんも言っていたしな。一生懸命気持ちを込めれば、音程なんかズレてても使役は出来るだろ」

「……だと良いですけど」

「にしても、オレ様に教えを乞うなんて珍しい令嬢もいたもんだ」

 項羽の意味深な言葉に思わず聞き返してしまう。


「この学院は中立地区にあって、どの生徒も不平等はしないって謳い文句だが実際は正反対なんだぜ」

「それは何となく分かります」

 項羽はおそらく、平民の扱いについて言っているのだろうが、アストレアも思い当たる節はいくつかあった。主に委員会の事で。


「そう言えば、特待生ってどうやって選ばれるんですか?」

「剣士と魔法士で選出は違う。剣士は街の剣技大会で優勝した子どもで、魔法士は孤児院のシスターが推薦するんだ」

「剣技大会で優勝したら特待生になれるのは理解出来ますが、魔法士はどうしてシスターなのですか?」

「てめえは知らねぇかもな。一応、孤児院のシスターの何人かは治癒魔法を使えるんだ」

 もし、孤児院の子どもが怪我をした際、傷口を縫うことは出来なくても止血することは出来る。後は包帯で巻くなり何なり自然治癒に任せる形が取れるように、だという。そうするのには、病院に行けるほどお金を持っていないからだ、と項羽は説明してくれた。


「学院の生徒からもそうだが、教師だってオレ様達を毛嫌いしている奴は多い」

「わたし達、図書委員もそうです。誰も顧問になんかなりたくないって」

「ああ、そういえば学院戦争に出るんだっけか?」

 項羽にまで話がいっているということは、ほぼ全校生徒は知っているのだろう。


「この学院って何だかんだ闇を抱えているんだよな。オレ様だって、特待生担当の奴に嫌がらせされたし」

「どんな?」

「公欠申請書を失くされたんだよ。あの野郎、オレ様にとってあれがどれだけ大事が分かってるくせに……いや、分かっているからやったのか」

 もし、それが本当なら許せないことだとアストレアは思った。

 誰もが平等であるのが本来、目指す姿なのに今の学院は大いに違う。同じ人間のはずなのに、権力を持った人間が神のように崇められている。だからアストレアは王政というものが好きではない。


「新しく入った特待生の女も、オレ様みたいに嫌がらせされていたら嫌だな。グレーテルっていうんだけど、最近どうも様子が変なんだよ」

 その名前にアストレアはどきりとする。グレーテル、風紀委員長ニュクスが影虫を寄生させて操られている女子生徒だ。


(彼女達を早く助けてあげたいけれど……)

 ここで焦ってしまえば、逆に助けられなくなる可能性が高くなるのは分かっていた。だからこそ、動けない状況が歯がゆかった。


「もし、見かけたら気に留めておきますね」

「ああ、頼む。てめえはキルケが言っていたみたいに、平民だからって差別しねえ奴だって分かったから信頼しているぜ」

 項羽はそう言い、ニッと笑った。その笑みがとても可愛らしく思えて、アストレアもつられるようにして笑顔を返した。


「また、歌の練習に付き合って下さい」

「ああ、いいぜ! 天下の蛇腹剣使いにして黒の覇者であるこの項羽様が教えてやる!」

『黒い害虫の間違いだろ、小僧』

「何だとぉぉおお!?」


 図書塔の裏庭では賑やかな声が響き渡っていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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