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FAIRY WARS ~最弱は最強を打倒する~  作者: Sissy
第2章 戦の準備
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嵐の前の静けさ

お久しぶりです、Sissyです。

第2章の執筆に随分と時間がかかってしまいましたが、

待ってくださった方、本当にありがとうございます!

温かく見守ってくださる皆様のお陰で執筆することが出来ています。

マイペース更新になってしまいますが、どうか最後までお付き合いいただけたら光栄です。

 温かな湯気と共に上品な香りのする紅茶をそっと一口飲み、ラジエルは息をついた。

「キミもキームン茶を飲んだらどうだい。シズクから取り寄せたものなんだよ?」

 そう言って、目の前でつまらなさそうに頬杖をついて眺めている少年に紅茶を勧める。しかし、彼は首をゆっくりと横に振ると欠伸を噛み殺しながら答えた。

「いらない。ニュクスは本国のお茶しか飲まないし、熱いのは嫌い」

「ははっ、そうだったね」

 そう笑うと、ラジエルはあらためて彼を見る。


 学院には様々な国と地域から生徒がやって来ているが、その中でも彼は特殊だと毎回のように感じる。

 その容姿で人々の視線を嫌にでも集める彼が身につけているのは、胸を隠すようにして巻かれてある白い服と、腰を覆う袖口の広がった緑色のハーレムパンツ。そして、半透明の緑に光り輝く布を肩に巻いている。

 額には大きな宝石が施された装飾品、そして鼻と眉毛にピアスがつけられていた。


 彼――ニュクスは見た目だけでなく、性格も相当変わっている。

 だからこそ面白いと、ラジエルは彼を傍に置くのだ。


「ねえ、ラジエル。ぼくを呼んだのは何かして欲しいことがあるんでしょう?」

 虚ろな瞳がラジエルを映し出す。

 彼の光を灯さない目に自身を見つめながら、ラジエルはニュクスに向かって微笑んだ。

「やって欲しいことがあるんだよ。キミにしか出来ないこと」

「ほんと? ぼくにしか出来ない? ニュクスだけ?」

「そうだよ~、キミだけだよ」

 無表情からようやく笑顔を見せたニュクス。

 鋭く尖った犬歯がぎらりと光る。


 ラジエルは嬉しそうなニュクスの方へ身を乗り出して告げた。

「キミの好きなように暴れていいよ」

「生徒会長様、失礼致します」

 声のする方へ顔を向けると、彫刻のような冷たい表情をしたメルクリウスが立っていた。

「お呼びでしょうか、生徒会長様」

「生徒会長様~」

 堅苦しい彼の言葉を真似て面白がるニュクスに、眼鏡の端を上げながら静かに威嚇するメルクリウス。

「生徒会長様、こんな犬っころまで呼ばなくてもよろしかったのでは」

「そうはいかないよ~、キミに頼んである環境委員の催促が上手く行かなかったら、ニュクスを使うしか無いんだから」

「では、今回で犬っころの力を借りる、と?」

「環境委員は後でどうにでも出来るから保留~。ニュクスにはもっと別の面白い事をしてもらうつもりだよ。だからその間にキミは環境委員に催促を済ませておくこと」


 ラジエルがそう言い終えると、メルクリウスは頭を垂れてその場を去って行った。


「さて、お膳立ては出来たかな。後はキミ次第だよ」




 *


 生徒会から未だに校外活動の許可が下りないため、ここ暫くはキルケと共に蔵書整理を行っていた。このコント・ド・フェ学院は、生徒の利用数は少ないが蔵書数は非常に豊富である。いつも東西南北、はたまた大陸外の国の書物まで幅広く図書塔に保管されている。

 こんなにも蔵書数が多いのだからさぞかし利用者も多いのだろう、とアストレアは初め思っていたのだが、図書委員長になってからというもの1日の利用者数は、せいぜい10人いるかいないか。貴重なものもあるのだから利用して損はないのに、といつも思うのだった。


「それにしてもどうして校外活動の許可が下りないのかしら……」

 独り言のようにつぶやくと、後ろで同じく整理作業をしていたキルケが答えた。

「真犯人を捕まえたとしても、事件が無かったことには出来ないからね。学院としての体面もあるんだろう」

「あの子達に教えたい事、話したい事、たくさんあるのになぁ」

「ふふっ、アストレア嬢は恋しい?」

 手を止めて彼の方を見る。


 何故か、嬉しそうに微笑んではじっとアストレアの目を見つめてくる。その視線に胸が焼かれたように熱くなる。


「とても賑やかな子達だけど、会えないのはやっぱり寂しいわ」

「そうだよね」

「どうしてキルケは私が寂しがっているのに嬉しそうなの?」

「えっ、い、いや? そんなことないよっ」

 キルケは珍しく頬を染めながら書架の方へ顔を戻す。


(その態度の意味は何よ、気になっちゃうじゃない……)

 もどかしい想いをしながらも理由など、聞き出せるわけもなく。


 微妙に気まずい空気が流れ始めていると、キルケがふと思い立ったように立ち上がり、図書委員の仕事をする際に利用する執務机の引き出しを開ける。

「そういえばアストレア嬢。生徒会から委員会会議のお知らせが来ていたよ」

「委員会会議?」

「そう、不定期で開かれる生徒会主催の会議なんだよ。それぞれの委員会の委員長と副委員長が集まって今後の活動について話し合うんだ。それにしても、この時期って何を話し合うんだろう……」


 キルケから渡された紙には、生徒会長ラジエルの名で書かれた書面だ。

 明後日、委員長会議を開催するので来て欲しい、というような内容だった。


『そんなことはどうでも良いのだがな、小僧、私の可愛いアストレアから離れないか』

 ふいに現れたユリウスの言葉にキルケの方を見やると、同じように書面を覗いていたせいで、距離が思ったより近かった。

 急に認識したせいでアストレアは後ろに飛び退く。

「お、驚いたわ……」

「ご、ごめん」

『おまえたち、本当に初心よな』

 ユリウスはそう言って大げさにため息をついてみせる。


「と、とりあえず本の整理も終わったし、管理室に持って行こうか」

 積み上げられた整理済みの本をキルケは持ち、慌てて話題を変えようとする。


「管理室?」

「アストレア嬢は初めてだったよね。図書委員の仕事の1つでもあるんだけど、要らない本を整理した後は管理室に通して、街の図書館に寄贈するんだ」

 コント・ド・フェ学院は珍しい書物を良く取り寄せている。取り寄せしているのは、図書委員が主にだが稀に学院長も行っていることもある。そうしていくうちに本は溜まっていくばかりなので、こうして定期的に図書委員が図書塔の書架整理を行う。


 まだ必要だと、必要ではないと判断され、後者に選ばれた本はキルケの言っていた通り、管理室へ運ばれ、痛みは酷くないか、寄付しても大丈夫なものか確認された後に中立地区の街や、4ヵ国のどこかの図書館に寄贈されるのだ。

 管理室は図書委員や教師たちからの本の取り寄せ申請も行っている。


 アストレアもキルケの持っている本の半分でも運ぼうと思い、手を伸ばしたが女性に重い物を持たせるわけにはいかない、とキルケは断固拒否した。

 仕方がないので、キルケの隣に立って一緒に管理室へ向かう。


 こうして並んで歩いていると、やはりキルケは男性なのだと改めて感じる。

 アストレアよりも頭1つ分以上の背の高さで、華奢な方だがそれでも引き締まった身体、無駄ない筋肉がついた背中。

 美しい銀髪が歩く度に揺れる。


『どうしたのだ、可愛いアストレア。小僧に見惚れているのか?』

 キルケに声が届かないよう、耳元で囁くユリウス。

 実体がないとはいえ、急に囁かれると驚いてしまう。

「そ、そういうわけじゃ……ないけど……」

 しどろもどろになりながらも、何か言いたげに含み笑いを浮かべた水の神から視線を外す。


 ふと廊下の向こう側から女子生徒が2人、歩いて来ていた。

「ねえ、最近先生を狙った事件が起こっているのご存じ?」

「ええ、何でも斬られたような跡があるんですって」

 何やら噂話の最中らしい。彼女達とアストレア達が擦れ違うと、先程の話題はどこへやら、もうすっかりとキルケの話になっていた。

「ねえ、あの殿方素敵じゃない?」

「ええ、でも素敵だけどラジエル殿下の方が素敵ですって」

 そんな彼女たちの話を耳に入れながらアストレアは頬を膨らます。


(他の人がキルケの話題をするなんて、ちょっと複雑だわ。でも、これだけの美少年ですもの。婚約者とかいてもおかしくないわよね……)

 通りすがった彼女達もわざわざ口にするくらいだ。キルケの美貌はそれほどまでに輝いていると、アストレアは判断している。

 と、同時に嫉妬もしている。


 1人で考え込んで勝手に落ち込んでいると、前方からこれまた体格の良い男子生徒がキルケを見つけて駆け寄ってきた。

 キルケはそんな彼を見つけると、親しげに話しかける。

「やあ、項羽。帰って来たんだね」

「ああ」

 そんなキルケの問いに、ぶっきらぼうに答える項羽と呼ばれた少年は、ちらりとアストレアを見やると凄むように睨んできた。


(な、何かしら……わたし、何かした?)

 彼に睨まれる理由が分からず、アストレアが困惑しているとキルケが彼から庇うように、前に立ってくれた。

「今からどこに行くんだい?」

「これから新しい特待生が入るってんで、オレ様が迎えに行くんだよ」

「じゃあ、今年の特待生サポートは項羽なんだね?」

「そういうことになるな」

 面倒そうに答える彼は、頭を掻いた。

「頑張って、項羽。じゃあまた今度手合せしよう」

「ああ」

 キルケはそう言い、項羽と別れた。


 彼が去った後、不思議に思ったアストレアは前を歩くキルケに尋ねる。

 アストレア自身が彼の気に何か障るようなことをしたのだろうか。

 それを聞くとキルケは困ったように眉を下げ、ゆっくりと首を振った。


「違うんだよ、彼は貴族や大人が嫌いなだけなんだ。アストレア嬢は何もしていないよ。人をそうした事で決めるな、って何度も言っているんだけど」

「でも、キルケも貴族でしょう?」

 そう聞くと、何故か一瞬彼は悲しそうな瞳を向けたような気がした。


「まあ、僕は“一応”ジルバーン家の跡取りとして立場上はそうなっているけどね、実際は彼と似た境遇なんだ」

 それ以上は言えない、とでも言いたげにキルケはアストレアから視線を逸らす。

 項羽という彼が特待生というなら平民出身のはずだ。そんな彼と境遇は同じということは、キルケも実は平民なのだろうか。


 だがしかし、キルケが平民だろうと爵位を持っていようとその事にはアストレアは大して興味が無かった。

 そんなことよりも、自分の知らないキルケが多すぎることが嫌なのだった。

(でも、人の事情に首を突っ込んでいたらキルケも良い気持ちはしないわよね)

 アストレアの婚約破棄だってそうだ。爵位の持った、それもリエールの家のような名の馳せる家の令嬢が、婚約破棄されたなんてどれだけ信用している人間にでも言えない。

 しかも相手は自分の双子の姉なのだ。言えるはずもない。噂が広まってしまえば、二度とアストレアには婚約の話は来ないだろう。


 リエール家には男児がいない。そのため、必然的に次期当主となるアストレアの元へ婿養子を取るしかない。しかし、1度破棄されたことが知られてしまえば、リエール家の財産目当て以外の男性は来ないだろう。


(ううん、ここで結婚の事を考えても仕方ないわ)

 今は学院生活を楽しむことが最優先だ。卒業してしまえば嫌でもそういった話を聞かされるに違いない。アストレアは考え事を止めると、キルケの隣に立ち他愛のない話を楽しんだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

感想・アドバイス等お待ちしております!

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