プロローグ
お久しぶりです。短編「フェアリー・ウォー」の長編です。
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「よく聞け、アストレア。ラーズグリースがお前の婚約者と駆け落ちをした」
いつもと変わらない朝を迎えたはずのアストレアに放たれた父の言葉は、日常が崩されたことを意味していた。一晩の間に消えていた双子の姉、ラーズグリースが妹であるアストレアの婚約者と駆け落ちをしたのだ。
「お父様……それは本当ですか?」
生まれてからずっと一緒に育ってきた双子の姉、ラーズグリース。顔こそ瓜二つではあるが、性格は正反対で好奇心旺盛でお転婆なアストレアに対し、ラーズグリースは大人しく、礼儀作法もしっかりと出来ており淑女の鑑だと言われていた。よくアストレアも、ラーズグリースを見習うようにと母親や侍女達に言われ続けていたものだ。
そんな“淑女の鑑”だったラーズグリースが、自分の婚約者と駆け落ちをするなんて考えられない。ましてや、妹の婚約者と駆け落ちをする、つまりは寝取る行為を姉がするはずもない。そう思いたいのは山々だったが、部屋にいない姉を思えばこれは事実なのだ。
(お姉ちゃんが駆け落ちだなんて……まるでロマンス小説みたいな展開ね)
大好きな姉にされた仕打ちだが、アストレアはどこか冷静に感じていた。
「相手のシャルーシャ公はお前との婚約を破棄したそうだ。勿論、お前の婚約者だったエドワードも勘当されたらしい」
シャルーシャ公の長男、エドワード・シャルーシャはアストレアとラーズグリースの幼馴染でアストレアの婚約者だった人だ。駆け落ちなんて貴族の恥行為、ましては犯罪行為を行ったのだからその処罰は当たり前なのだが、エドワードはシャルーシャ公爵家の人間ではなくなり地位も財産も何もかも失った状態だ。
そんなエドワードとラーズグリースの未来は厳しいものに決まっている。アストレアは二人の未来を思うと、気持ちが沈んだ。
「お前に酷な事を言うのは重々承知なのだが……、実は先に婚約が決まっていたお前とは違ってラーズグリースはコント・ド・フェ学院に編入して相手探しをさせようと思っていてな。こうなった以上、お前がラーズグリースの代わりに学院へ編入してくれないか」
2人が通っているリリー女学院は、彼女達が住んでいる北の国ユーリエフの名門貴族令嬢達を集めた名門女学校だ。立派な淑女に育て上げるため、父親たちはこぞって通わせている。ラーズグリースは、アストレアとは違ってあまり良い縁談が来なかった。来たとしても、リエール公爵よりも地位が下の下級貴族達ばかりだったのだ。
そこで父は、中立地区にある共学コント・ド・フェ学院へ入学させようと考えていたのだ。ここでは、様々な国の貴族、王族の子供達が通っている。そこでなら、ラーズグリースに釣り合った――リエール公爵の繁栄もかけた――未来の夫探しが出来る。
そういう計画だったのだが、アストレアの婚約者をラーズグリースが寝取った以上、アストレアがコント・ド・フェ学院に通わざるを得ない。
普通の令嬢なら身内の駆け落ち、まして自分の婚約者の寝取られたという事実だけで卒倒ものだが彼女は違う。
「大丈夫よ、お父様。わたし、婚約破棄も駆け落ちも全く気にしていないわ。むしろ学園生活が楽しみなくらいよ」
好奇心旺盛でタフなのがリエール公爵家令嬢、アストレアなのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!