犯人
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なぜ、図書委員に起きたことをユーリが知っているのかは、とりあえず頭の片隅にでも置いておくことにして、アストレアは薔薇園を出た後、急いで武道委員会の委員室に出向き、委員長であるアレスと副委員長の2人に図書塔へ来るように告げた。
「アストレア嬢……僕等を図書塔に集めてどうしたの?」
慌てて図書塔にやって来たと思えば、武道委員長のアレスと副委員長のフェデルタ、ロランまでも呼んできたアストレアにさすがのキルケも不思議そうな表情をする。全員が揃ったことを確認すると、まずは武道委員の面々に足を運んでくれたことについてお礼を言った。
「図書塔までご足労頂き、ありがとうございます。早速ですが、青空教室を壊した犯人に目星がついたので、皆さんをお呼びさせて頂きました」
ざわつく中、ロランだけが面白そうに眉をあげてアストレアの方を見た。
「青空教室に落ちていたのは金糸で縫われた獅子。これは、武道委員会の紋章で間違いありません。そして、武道委員会には内部分裂が起きていること。保守派である委員長さんと、革新派であるコーネリアスが対立している、と聞きました」
「あ、ああ……」
アレスは頷いた。フェデルタも苦い顔をしている。どうやら、武道委員にとっても出来れば早急に摘んでおきたい不安の芽なのだろう。
「実は、委員長室を訪れたあの日帰り道に、コーネリアスに会ったのです。その時、彼は言いました。“校外で読み書きを教えるだなんて、悪あがきをせずにさっさと生徒会の傘下に入った方が良いんじゃないか? どうせ、構成員は増えていないだろうしな”と。わたし達が校外活動の事を話した時、委員長さん達は初めて知った、というように思えました。おそらく、あなた方はわたし達が構成員を増やすために校外活動を行っているということを知らなかったのですよね?」
あの時のアレス達の表情はとても演技だったとは思えない。
「ああ……俺やフェデルタ、ロランはもちろん、他のメンバーも知らないはずだ」
アレスがそう言うと、キルケの目の色が変わった。これからアストレアが言おうとしていることが分かったのだろう。
「委員長であるアレスさん達でさえ知らなかったのに、何故コーネリアスは知っていたのか? それは、おそらく彼が犯人だったからでしょう」
「まさか……そんな」
驚くフェデルタにロランは真面目な顔でアストレアの意見に賛同した。
「考えてもみろ、オレ様達が次の実技大会の準備に忙しい時に図書委員の妨害なんてするかぁ? 実際、オレ様達は闘技場の整備やら何やらやっていただろ。少なくとも保守派の奴らは全員、実技大会の準備していたろ?」
「ああ……ということはやはり、コーネリアス率いる革新派が……」
「……フェデルタ、ロラン。今すぐコーネリアスをここに連れてこい」
ずっと黙って下を向いていたアレスが後ろで控えている2人に指示を出す。しかし、アストレアはそれを手で制すると首を横に振る。
「その必要はありません。既にここに呼んでいます」
彼女がそう告げた瞬間だった。図書塔の扉が開く音がする。その場にいた全員が、扉の方を見つめていると外からコーネリアスが入ってくる。
「コーネリアス!」
「あっ、委員長……」
アレスの姿を確認したコーネリアスは咄嗟に逃げようとしたが、瞬時に彼の背後を取ったフェデルタにそれを阻止されてしまう。後からやってきたロランが、彼を軽々持ち上げるとアレスとアストレアの目の前に彼を落とす。
「コーネリアス……本当のことを言ってくれ。図書委員の校外活動を阻止したのは、お前か?」
悲しそうなアレスの声音と、厳しい顔のフェデルタと無表情のロランを見やってコーネリアスは、肩を落とした。
「はい……妨害は革新派の人間でやりました」
「何でそんなことをしたんだ!」
「キルケ……」
取り乱しそうになるキルケに抱き着き、彼を止めようとする。悔しいのはアストレアも同じだった。だが、ここでコーネリアスをどうこうしても問題は解決しない。ここは耐えるしかないのだ。
「図書委員に生徒会への傘下を決定づけるように仕向ければ、キミが武道委員の委員長になるように力を貸そうって生徒会の人に言われて……」
「生徒会の誰なんだ?」
拳を握り、アレスは静かに聞く。
「分からないです。手紙が寮の郵便箱に入っていただけで」
「お前という奴は……」
コーネリアスの頬を引っぱたこうとする彼を制止すると、アストレアは1つの提案をする。
「取引、と言えば言葉が悪いですが……委員長さんには、図書委員へ戦闘の申し込みをしないという約束をして頂きたいのです」
それに答えたのはアレスではなく、ロランだった。
「なるほど、姫君は聡明な人らしい。つまり、この事は黙っておく代わりにウチと不戦条約を結ぼうってわけだ」
「はい」
「……そうか。だが、条約を結ぶには生徒会の人間を証人として結ばなければならない」
アレスがそう言うと、ロランが指を鳴らす。
「こういうこともあろうかと、オレ様が手を打っておいたぜ、委員長」
自信ありげに言うロランの指差す方向を見ると、階段に座って本を読むオリヴィエの姿があった。ロランにはアストレアの考えている事を先読みされていたらしい。
(ロラン・ド・ブルターニュ……。食えない方ね……)
オリヴィエは眉間に皺を深く刻み、ロランを睨みつけると持っていた本で彼の鼻めがけて殴りつける。
「ふぎゃぁ! オリヴィエ……一体何のつもりだ!!」
いきなり本の角で殴られたロランは鼻を押さえ、顔を真っ赤にしてオリヴィエに突っかかっていく。そんなロランをまるで穢れたもののように見下ろすオリヴィエの瞳は氷のように冷たい。
「お前が大事な用がある、と言って呼んだのがこういうことか。お前が生徒会室へ来い」
「いいじゃないか、幼馴染の頼みだろ」
「お前と幼馴染になった覚えはない」
オリヴィエはロランにそう一喝すると、アレスとアストレアを見やった。
「お前達、条約を結ぶには1つ条件がある」
「条件?」
「図書委員がコーネリアス率いる革新派に、実技大会で勝利しないと条約は認められないと会長からの伝言だ」
オリヴィエは副会長だ、とキルケから聞いていた。会長をいまだ見たことがないが、きっと凄い人なのだろうとアストレアは思う。オリヴィエにそう伝言を頼んでいたということは、アストレアやロランよりも先を見越していた、ということなのだからだ。
「ええ、やってやろうじゃない……」
青空教室をボロボロにしたコーネリアス達を、全校生徒の前でタコ殴りに出来る最大のチャンスだ。そういう意味も込めて制服の袖をまくる。きっと母親が今のアストレアを見たら卒倒するだろう。
なんて血の気の多い子になってしまったのだ、と。それでもいい。いや、むしろ今くらいの方が良い。淑女らしく、部屋の中で刺繍や楽器演奏などしているより外で魔法の打ち合いをしている方が断然好きだからだ。
(もしかしたら、わたしの婚約者はそういう性格よりも淑女らしいお姉ちゃんの方が好みだったのかもね)
この空の下、この大陸のどこかで暮らしているだろう双子の姉と、自身の元婚約者を思い浮かべてアストレアは苦笑する。今となっては心の中で笑い話にしている、婚約破棄された上に駆け落ちされたことを思い出しながら、彼女は好戦的な笑みを浮かべコーネリアスを見やった。
「わたし達があなた達に勝ったらコーネリアスにはフレイの解放と、武道委員には図書委員との不戦条約の締結を求めるわ」
アストレアの宣言にコーネリアスは歯を食いしばった。
「勝負は実技大会で、ね」
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