4、Let's Schoollife
――――――勇者帰還用の魔方陣にはある術式が組み込まれていてね。一度帰還した人を再度異世界に召還出来ないようにしてあるんだ。以前に過去の勇者が再び召還されるという事件があって、この事を未然に防ぐために術式を仕込んだ。
――――――でだ。もちろん、例外なくそれは君たちを巻き込んだ魔法陣にも組み込まれててね。一方通行。しかも帰ったら、2度とそこに戻れぬ印が魂に刻まれる。つまり、帰還用の魔方陣で異世界に送られた人は、その術式のせいで帰そうにも帰せない。
――――――ははは、もう笑うしかないよねえ。あ、ごめんごめん。だから、そのフォークを降ろしてくれ。怖いから。
――――――まったく。今の若者はキレやすくてだめだね。いえ、何も言ってませんとも。はい、スミマセン。ゴホン、話を戻すよ。まとめると、君たちはこの世界で、地球で暮らしていくしかないんだ。
――――――うん?神の力でなんとか出来ないかだって?う~ん……出来ないことはないが、神様もおいそれと地上に干渉するわけにはいかなくてね。裏技というか裏道通りながらの面倒な作業になるから、充分な安全を保障して帰せるようになるのに時間がかかるね。二百年くらい。
――――――ああ、戸籍とか色々なことは心配しなくても良い。学校にも行ってもらうから、こちらで上手くいくように、所々必要なところは最低限修正しておくから。あっちの元の世界にも伝言と少なからずのサポートはしとくし。
――――――では、長くなってしまったが、そろそろおさらばだ。うん、そうだな。最後はらしく去るかな。
――――――我が子たちに幸あらんことを。一人の神として、そして全ての生の親として、ただそれを願う。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
神様はそう言って、エレナの体から去っていった。
立ち竦む俺たち。
しかし、それも当然。
帰る手立てがない、と万能なる神に言われてしまったのだから。
暗い雰囲気に包み込まれ、
「ふむ、帰れないならしょうがない。すまないが、これから世話になるぞ次郎」
「そうね」
「…………わたしの部屋はどこ?」
――――なかった。
普通に順応してるよ、この3人。
まあ、この三人とは長い付き合いだから、こんな反応するとは分かっていたが。
「別に構わねえが、……良いのか、お前らは?」
答えは解りきっているが、一応本心で言っているのか問い掛け確認する。
「魔王を倒した後の私は本来ならば城に戻るだけ。剣の振るい方ならいざ知らず、机の上で政など少しも役に立たないからな」
「私は神様の声を聞く以外は普通のシスターですから。誰も困らないでしょう」
「…………わたしは次郎と一緒の方がいい…………それじゃダメ?」
何とも気持ちのいい返しだろうか。
俺は思わず笑みがこぼれる。
「こっちこそ、これからよろしくな」
そこで、次郎はふとあることが気になった。
「しかし、学校に行くって言ってたが。俺、どうすんのかね。高校で一つも学んでないのに、大学受験しなきゃならんのか」
取り敢えず、今が何日か確認する為カレンダーを見る。
「3月31日か・・・あれ?」
「どうした、次郎?」
「いやな・・・何でかこのカレンダー、俺が異世界に行ってから一年後のものなんだ」
2016年に飛ばされ、異世界では三年居たはずだ。
なのに、カレンダーは2017年のものだ。
「・・・ッ!」
「どうしたのだ、ジロー!?」
次郎は慌てて自分の部屋へ行き、ベッドに置いてあるデジタル時計を見る。
2017 3/31
19:21 (金)
狂うはずのない電波時計にも、そう刻まれていた。
「まさか・・・こっちだと1年しか経ってないのか」
ふと、次郎の部屋の机の上に一つの封筒が。
次郎は躊躇わず封筒を開けると、一枚の紙が。
『口で伝えるよりも、こうして紙に字を残すべきだと思い、置かせてもらった。今、君は時間のズレに戸惑っているだろうが、まずは読んでくれ。君たちは、次郎が転移する前に通う予定だった高校、咲苗高校に通ってもらう。次郎は海外に1年留学、その他3名は日本に留学しに来た外国人という設定だ。
地上の人にはそういう風に記憶を書き換えたから、違和感は持たれない。では、青春を満喫してくれたまえ。以上』
中にはそう記されていた。
どうやら俺は大学生ではなく、高校2年生から地球生活を再スタートすることになったようだ。
こうして、地球人にして元勇者次郎と、次郎に巻き込まれ地球に迷い込んだ異世界の美少女3人とが織りなす学園生活が、今まさに火蓋が切って落とされた。