▼7.少年は世界の過去を知る
妹が真っ赤になったお気に入りの服を抑えて呻いていた。口元も真っ赤に染まり、涙目になりながらも風呂場に駆け込んでいく。
「ぼるしちがー!!」
「あらあら、最後の一口でこぼすなんて。詰めが甘いというか、そそっかしいというか……一体誰に似たのかしらね?」
この時ばかりは母親と目を合わせる男はこの家に存在しなかった。
「……ほう。今夜は北海道で初雪が降る可能性があるらしいぞ、鉄人」
父の言葉に少年はすぐには反応を示さない。妹の真っ赤に染まった顔が頭の中をぐるぐると駆け巡っている。ただ粗相をしてしまっただけの少女の姿が妙に焼きついて離れない。
「どうした?」
「あ、ああ、いや。やっぱり北は早いなあ」
「まったく……」
わざとらしくテレビ画面へと視線を向けて、あからさまに話題転換を図る二人に呆れたような声が届いたが、男たちはそ知らぬ風を装い続けた。
「おかーさーん!私このままお風呂入るねー!」
「はーい。汚れた服は別にしておいてねー」
「わかったー!」
英那の声が届くと、母親は溜息一つ吐いて食器を持ち上げた。
やがてカチャカチャとした音に重なって水音が響き出すと、それを皮切りに誰のものともつかない嘆息が響く。
しばらく弛緩したような空気に浸っていた少年だったが、不意に身を強張らせた。ぼんやりと眺めていたテレビでは、昼間のニュースが再び流れている。
真昼に起こった凶行。そして恐慌。現場には警官たちが立ち入り、物々しい雰囲気のその場所が映される。
「見たくもない」
父の苦々しげな声と共にチャンネルが変わった。
「大丈夫か、鉄人」
知らず、少年は胸元の服を握り締めていた。視線は定まらず、瞳がぎょろぎょろと、気持ち悪いくらいに動いている。明らかに異常な反応を示していた。
落ち着かない。やはり落ち着けない。既に違和感を覚えていたからこそ、尚の事少年は確信していた。違和感は疑念に変わり、歪なものをその視界に捉えてしまう。
「幽霊が見えるんだ」
「……鉄人?」
「この家に住む白い影。子供のようだった。ああ……俺だけにしか見えていないみたいだから、幽霊というのもちょっと違うかもしれないな」
窓際のカーテンに身を隠し、顔だけを覗かせているその白い影に、もはや恐怖は感じない。ただただ、胸が苦しい。見ていると辛くて悲しくて堪らない。
「まさか」
「ずっと考えていた。俺と英那……年、離れすぎてるよな」
突然話が変わったように思えるその言葉に、否、あまりにも流れに沿った言葉であっただけに、父親は衝撃を受けていた。少年を心配する顔は、先程から変わらず保っていた苦々しさの意味合いを変えてしまっていた。
「それは……」
「いたんだろ、もう一人。俺の下に」
「思い出したのか……」
「いや。だから、教えて欲しい」
少年が久々にこの家に戻ってきたときに感じたのは、間違いなく懐かしさだった。ありがちな郷愁だと考えていたが、そうと呼ぶには胸に去来する想いが複雑すぎたのだ。
何よりも白い影。あれは歪だが酷く愛おしく感じることもあった。ただの幽霊ではない。確実に己と何らかの因縁があるものだとしか思えなかった。
けれども、類推に次ぐ類推で分かるのはそこまででしかない。思考は霞がかったように、それこそ白い影のように薄ぼんやりで、顔も名前も浮かんでこない。
「全て思い出したわけではないのか……だったら、どうして」
「推測だよ。推測だ。けど、たぶん俺は、それをどこかで理解していたからこの家に戻りたいと思ったんだ。何かが変わると思ったんだ。でも結局は納得できていない」
だから、少年は全てを知っているのであろう両親に問い質している。それも推測でしかなかったが、黙りこくってしまった父の反応を見ればそれが間違っていなかったのだと判断できた。
「全部を教えてくれ」
父は目を閉じたまま、何も語ろうとしない。代わりに答えたのは水仕事を止めてリビングに戻ってきた少年の母だった。心配げな顔を隠そうともしていない。
「あなたが全部思い出したわけじゃないのなら、私たちから言えることは何も無いわ」
「どうしてだよ、母さん。……いや、そうか。忘れていたからか」
「あなたは昔から物分りが良すぎるわね。その反面、内に溜め込むから余計に心配なのよ」
家族の存在を忘れている。それは余りにも歪なことだ。頭がおかしいとすら言っていい。幽霊として認識したことから死別したであろうことは推測できるが、それが丸ごと記憶から抜け落ちているなど、正気の沙汰ではない。
それほどの事実が存在するのならば、思い出すという行為そのもので少年になにがしかの悪影響を及ぼす可能性も否定できない。それこそが話せない理由であるのだろう。
「原因……」
亡くした理由。忘れた理由。隠した理由。今も話せない理由。戻ってきた理由。あらゆるものには理由がある。理由があるからこそ、今があるのだ。
「向き合う、つもりなんだな?」
「ああ」
だからこそだ。この家に戻ってきた。それはきっと、少年の内で燻っていたものがそうさせたのだ。
「英那は知っているのか?」
「知らんよ。物心つくどころか話せもしなかった頃の話だ。言ったところで、あの子がどうなるわけでもない。精々驚くくらいだろう」
「分かった。あいつには影響ないんだな」
俺だけの問題か、と少年は独りごちた。
◆
両親と妹が帰るその日、見送るためにわざわざ片岸家の面々も門前に出てきていた。
美月の両親は子の美貌もかくたるやと思えるほどに凛々しく、美しい顔立ちをしている。夕暮れの中で佇む親子の姿は、そこにあるだけで一枚の名画と呼んで遜色ないほどの雰囲気を醸し出すのだ。
もっとも、付き合いの長い緋ヶ瀬家の面々にすれば、それも見慣れた光景でしかない。和気藹々とした空気で「また」と別れの挨拶を交わすだけだ。
その中で、少年の両親が美月を前にして、いつもありがとうと礼を述べていた。それどころか、くれぐれも少年を頼むとまで言われてしまった。
一端の男を自負する少年からすれば一言物申したいところであったが、口を挟むことはできなかった。両親も美月も、異様な程真剣な眼差しで言葉をかわしていたからだ。
が、そんな空気も天真爛漫な英那の前に霧散してしまう。
「ねー、美月おねーちゃん。たまには昔みたいに遊びに来てよぉ」
「そうね。でもあの人を一人にはしておけないから」
「ぶぅー。でも仕方ないかあ。おにーちゃんはほっとけないもんね。あっ、じゃあおにーちゃんも一緒に来ればいいじゃん!」
「はいはい、気が向いたらな」
擦り寄るように上目遣いを見せる妹に対し、少年が頭を撫でると、英那はくすぐったそうに目を細めた。
名残惜しみながらも父の運転する車が出発してしまえば、夕暮れの中に排気音が残響し、最後には一抹の寂しさが残った。
家族の乗った車は既に視界から消えている。それでも少年は見送った時のままその場に佇んでいた。隣では美月も同じように何も無い、何の変哲もない道路を眺めている。
二人並んだ状態で、会話もなく、ただ悠然と時が過ぎていく。
不意にぶるり、と少年は体を震わせた。いつの間にか道の先で白い影がゆらゆらと揺れている。いなくなった家族の代わりとばかりに自己主張しているようだった。あるいは少年を何処かへ誘おうとしているのか。
寂寥感は一瞬で立ち消え、とてつもない焦燥感が溢れ出てくる。早く、早く、あるはずの、あったはずの過去を取り戻したい。逸る感情が我知らず、その一歩を踏み出させた。
瞬間、手が柔らかいものに包まれる。
「私がいるわ」
か細い手は冷たいが柔らかい。
切れ長の目がじっと少年を見据えていた。いつだってそうだった。彼女の態度は、視線は、言葉よりも多くを語る。それに助けられている。
「美月。お前は───」
知っているのか、と喉元まで出かかったが、結局少年はその言葉を飲み込んだ。
どちらにせよ、美月のことだ。決して話はすまい。思い返せば、白い影の事を話しても一度としてその話題を持ち出すことがなかった。それが一番少年のためになるのだと考えているのだろう。
「どうしたの?」
「なんでもない。ちょっと散歩してくる」
気をつけて、と見送る少女の視線を背中に受けながら、少年は当てもなく歩き出した。足取りは軽いようでいて、どこか重い。迷いが出ているのだろう、と少年は思う。
結局のところ、何一つ解決していないのだ。
決意は固めた。求めるものもはっきりした。欲しいのは過去の記憶だ。けれども、手段が無い。目的に辿り着くまでの道筋を立てることができない。唯一の手がかり、きっかけになりそうな白い影も既に見えなくなっている。
できることは精々懐かしさを感じる場所へ赴き、考え込むことだけだ。
少年はふらふらと見知った近所を歩いていく。
───思い出せない。
塀の上を歩く猫がにゃあ、と鳴いて茂みの中に飛び込んだ。
───まだ思い出せない。
どこかの親子が小さな手と大きな手を重ねて歩いていた。すれ違ったその後姿が徐々に小さくなっていく。
───やはり思い出せない。
帰宅途中であるのだろう子供たちが笑いあい、はしゃぎながら走って通り過ぎた。甲高い声はやがて遠くなっていき、風の中に立ち消えた。
───どうしても思い出せない。
やがて、公園に辿り着いた。
幼い頃、美月と遊んだ公園だ。その記憶はあるが、それ以外は何一つ、欠片ほども思い出せない。少年は陰鬱な気分のまま人気の無いベンチに座り込んだ。
周囲は既に薄暗い。ベンチのすぐ側では街灯が仄かに明かりを放ち、いつもなら思い思いの遊びに興じている幼い子供達の姿もなかった。もうそんな時間に差し掛かっているのだ。
逢魔ヶ刻である。いつもならば無意味に怯えてしまうこの時間も、今は漫然と過ぎ去っていくことが逆に辛い。魔に逢いたい。
「何か悩み事かね、少年」
唐突にかけられた声に少年が顔を上げると、缶コーヒーを二つ握った中年の男がいた。煤けたような灰色のコートを羽織った、整えられた鼻下のヒゲがそれなりに似合う男だった。
少年はじっとその姿を見て、そして空を見上げた。
「探し物が見つからないんだ」
「なるほど、確かにそれは辛いだろう。けれども少年。探し物というものは得てしてそうなってしまうものだ」
特に、と一拍置いて中年の男は続ける。
「記憶というものは実体がないから尚更だ」
「いきなり何を……」
全く見覚えのない、知らない中年男性だというのに、発せられる言葉は少年の何もかもを見透かしているようで、驚きと共に疑念が浮かぶ。反射的に問いただそうとすると、それよりも先に男がまたも妙なことを口走った。
「超常現象、あるいは超能力といった類のものを信じているかね、少年」
質問の意図が見えない。けれども少年は黙って頷く。実際、少年が見る白い影は超常現象だと言っていい。あるいは自らの心が見せているまやかしかもしれないが、どうにもそれだけではないような気がしていた。勘に過ぎない。けれども一笑に付すこともできない。だから少年は頷く。
「私もそれを一つ持っている。過去と未来を見通す力だ。おそらく、今の君には喉から手が出るほど欲しいものだろう」
少年は再び頷いた。確かにその通りだった。そんな都合の良い力があれば、今の悩みなど一気に解決するだろう。
「だが、この力には色々と難儀な点がある。絶望の未来を知れば生きる気力をなくすだろうし、幸福な過去の裏側を知れば嘆くことになるかもしれない。
自由に見ることが出来ればいいんだがね、とにかく自意識での制御が難しい。下手をすれば、強制的に入ってきた膨大な情報量に脳が耐え切れず狂ってしまう場合もある」
「諸刃の剣か」
「そうだ。幸いにも私は元々極僅かな部分しか使えなかった。使えたのはたった一度。それこそ、今ここで君と会うという未来を見ることしか出来なかった。今でも能力はあるのにあそこへの接続が上手くいかない。諸刃どころか、剣にもならなかった」
役立たずだったんだ、と男は悲しげにぼやいた。
「少年────いや、緋ヶ瀬鉄人君。私の事を覚えているかね?」
「いや、全く記憶にない」
「そうか……」
悪びれず否定する少年に、男は怒るでもなく淡々と呟いた。その声音に落胆はなく、どちらかと言えば安堵に近いものさえ感じ取れた。
「私の力を受け継げば、思い出せるかもしれない」
「受け継ぐ?そんなことが可能なのか?」
「できるとも。私も受け継いだのだから。私だけではない。私の前も、その前も、ずっと受け継がれてきているものだ。そういうものなんだ」
「本当に都合のいい力だな」
「だからこそ、争いの火種にもなる」
「……それに俺も巻き込まれろ、と?」
皮肉を込めた物言いだったが、男はやはり怒りを見せることなく、それどころかどこか物悲しげな光をその瞳に映していた。
「君は既にその渦中にある。今更のことだな」
「それはどういう……いや、知らない内に巻き込まれたというのは納得いかない。つまるところ、結局は忘れてしまった過去に繋がる。そういう話なのか」
「驚くほど物分りが良いな、君は。それで、結局どうするかね?」
「俺は失ったものを取り戻したい。それだけだ」
少年がすっと手のひらを差し出すと、男はその手に缶コーヒーを置いた。買ったばかりのものなのか、いやに熱い。
「餞別か?」
「いいや。それを飲めば君の望むものが手に入る。本当にどうするのかはもう少し考えてからにするといい。今日はもう遅いから帰りなさい」
それだけ言うと、男は残っていたもう一つの缶コーヒーのプルタブを引っ張り、ぐいと一口飲み下した。
「やはり自分で淹れたものの方が美味いな」
男の表情は苦々しい。
「ブラックなんて飲むからだ。選択からして間違ってる」
「そうだとも。まさに悪い見本だ。だから緋ヶ瀬鉄人。君は決して間違えるな」
「大丈夫だよ。あんたが微糖を持ってきてくれたからな。俺にはほろ苦いくらいで丁度いい」
「それでも、だ。実際のところ飲んでみるまで好みの味かは分からんだろう?」
「不味くても構わない。もともと貰い物だし、全部腹に収めるつもりだ。けど、忠告は心に留めておく」
男が「そうか」と小さく相槌を打つと、少年はベンチから立ち上がって男に背を向けた。
「できれば、果たせなかった私の目的も考慮して貰えると嬉しい」
「そうだな。それを視ることができたら、考えておく」
◆
家に帰り着いた少年は自室のベッドに腰掛けて、公園で出会った中年の言葉を思い返していた。
「過去と未来を見通す力」
その真偽について論じるのは今更であるし、意味が無い。偽であればほろ苦さを味わうだけの話で、次の手段を探せばいい。真であったと仮定して、その上で飲むか飲まないか。それだけが重要だ。
「狂ってしまう場合もある」
リスクはそれだけだ。自らを狂気に晒すのも厭わないほどに答えを望んでいるのか。つまるところ、少年の願いがどれほどのものであるかこそが争点となる。
「やっぱり、今更だな」
幻覚を見るほどの状態なのだ。答えなど初めから一つしかない。
少年は一見何の変哲も無い缶コーヒーのプルタブを引っ張り、一気に飲み干した。若干の苦味に加え、不思議と舌からぴりぴりとした感触が伝わってくる。なんとも言えぬ喉越しに自然と顔が歪んでいた。
「不味い……」
感想はそれだけだった。体に違和感を感じるでもなく、感情が昂ぶるでもなく、いつものように淡々と、しかしほんの僅かな期待を胸に据え、少年はその時を待った。何をするでもなく、コチコチと音を鳴らす時計の針に耳を傾け、三十分近くを過ごした。
けれども、何一つ変わらない。何一つ思い出せない。
ああ、どうしてこうも思い出せないのだろう。これほどに望んでいるというのに。過去を求めているというのに。
疲れたような吐息をついて、少年は背中からベッドへと倒れこんだ。そのままじっとしていると徐々に意識が薄れ、まどろみの中に沈んでいく。
────暗転した意識の底で何かが煌いた。
奔流。
大きな川のようなものが黄金色の輝きを放ちながら流れていた。幾重にも別れては繋がりを繰り返すそれは、とても巨大で、膨大で、荘厳で、とにかく人間の理解できる範疇を超える代物だった。それどころか、通常ならば知覚する事すら叶わないだろう。
どういうわけか、それが見えるところに少年はいた。暗闇に包まれた己の体の所在は不確かで、唯一自分を保たせているのは得も知れぬ浮遊感だった。
ああ、これは世界の記憶そのものなのか。
何もかもがあやふやで不確定で不明瞭な状態で、前触れもなく抱いた感慨と理解。誰の説明があるわけでもなかったが、摂理そのものへは疑いの持ちようもない。
ならばこれこそが己の渇望と符合したものだ。渇いていた少年はその一端を覗き見るべく、自然と手を伸ばした。手を伸ばそうと意識を動かした。
目視できない己の一部が奔流に触れる。
途端、焼け付くような衝撃が少年を襲った。声にならない悲鳴が奔流に飲み込まれていく。悲鳴は手足となって奔流の中を駆け巡り、分かたれた流れそれぞれに沿って奔っていく。世界の記憶を辿っていく。
やがてそれらは知識と経験へと姿を変え、少年の中に舞い戻る。その衝撃で己を構成する何かが吹き飛ばされる感覚を味わいながら、少年は遂に知った。
己の世界の歪さを。三次元世界のなんたるかを。
────目を見開く。
視界に移るのはいつもの天井だった。けれども。
「違う。ここは違う」
視界はピントずれを起こして酷くぼやけている。目をしばたたかせるが全く補正できない。上書きされた己を制御できない。知識と経験が世界に馴染まない。
ふらふらと立ち上がって歩こうとするも、すぐに体勢を崩してクローゼットにもたれかかり、否応なく目を閉じる。視界がおかしい。あまりにもおかしい。以前と変わらぬはずであるのに、どうしてもその違和感を見過ごせない。
「遠近感が、狂う……色彩感が、狂う……現実感が、狂う……」
改めて見直してみてもこの世界はやはりおかしい。異常だ。ここは本来あるべき三次元世界ではない。あらゆる記憶を覗き込んだが、そこに存在する世界の中でもとびっきり歪なのだ。こんな世界、あっていいはずがない。
全てが二次元で構築されているなどと、これではまるで、そう。
「夢、夢だ。夢の中……」
息を荒げた少年は、やがてその違和感と頭痛と吐き気と、耐えようもない絶望感の中で意識を失った。
────そして、再び覚醒する。
一度は叩き込まれた情報を処理しきれず気を失ってしまったが、今度は意識を強く持って世界を認識する。現実感の無い現実を認識する。けれども疑念は消えない。
果たして、ここが己の居るべき世界なのか。己が生きてきた世界なのか。
それを確かめるように家中を歩き回り、その在り方に愕然とした。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
吐き気を催す少年の横で、もう居ないはずの弟が白く笑っている。つい先程まで願っていた魔に出会えたが、それ以上のものを得てしまった。
「全く。本当に俺は忘れるのが得意だな。ああ───本当に気持ち悪い」
少年は全てを知り、そして歩み出す。既知と未知が入り混じる奇妙なこの世界で進んでゆく。
────リアルな二次元世界へ、ようこそ。