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藤原ゴンザレス短編集

私(魔王)、隠れて勇者と同棲してます

 ぴぴぴぴぴ。

 ぴぴぴぴぴ。


 目覚まし時計が鳴っています。

 でも無視なのです。

 こんなぽかぽか陽気の日に二度寝しないなんてあーりーえーなーいー。


「……おい。魔王」


 はいはーい。魔王ですよー。

 二度寝の真っ最中ですよー。


「メシできたぞー」


 はいはーい。

 あとでチンしてたーべーまーすー。

 そこ置いといてー。

 そして私は再び夢の中に……すぴー。


「起きろボケェッ!」


 うつぶせで起床を拒む私のアゴを容赦なく掴んで背中側に曲げていく。

 ええ。それはいわゆるキャメルクラッチでした。


「おげほげもげ(っちょ! 勇者なにしてんですか!)」


 ぎりぎりぎり。

 ぎりぎりぎり。


 タップタップタップ!

 私は高速で布団を叩いてギブアップを宣言します。


「ッチ!」


 舌打ちです。

 たいへん下品です。

 それって「私、育ちが悪いでーす♪」って宣言してるのと同じですからね!


「オラ。メシできたぞ!」


「メニューなんですかー?」


「お前の好きなベーコンと目玉焼きだ」


「ひゃっほー! 朝からテンションあがりますねー♪」


 彼は同居人です。

 いわゆる同棲相手ですね。

 職業は勇者です。

 エリート公務員ですよ!

 勇者引退後はどこかの公共財団法人を適当に渡り歩き一財産築くんですよ。

 老後も恩給+共済年金で安泰です。

 共済の破綻?

 そんなもんサラリーマンの厚生年金パクればいいんですよ!

 年金だけで4,000,000クレジットを超えますし。

 労災保険はありませんけど怪我をしても知事からお金を貰えるし、健康保険も一割負担です。

 人様の家を漁る窃盗や魔族さんからの強盗は免責。

 犯罪になりません。

 凄いですね!


 ちなみに私の職業は魔王。

 しかない経営者です。

 勇者と比べて年金も低いわりに掛け金は異様に高く、自営扱いなので健康保険も三割負担です。

 労災? なにそれおいしいの?

 自分で保険に入りやがれなのです。

 年金なんて年額794,500クレジットです。

 加算制度の国民年金基金なんて破綻寸前ですので……誰が加入するか!

 なにこの格差社会。

 おまけに私は魔王なので従業員を食べさせなければなりません。

 給料に雇用保険に労災保険に健康保険、あと退職金の積み立てに……産業カウンセラーを雇って産業医を雇って……うがががががががッ!

 おまけに税金もクッソ高いです。

 ……ごまかしますけどね。にやり。

 もうね犯罪をしないと食べていけません

 ……どうしてこうなった?


 あ、「なんで勇者と魔王が同棲してるんだよ!」って思ったでしょ?

 えー。それにはハードカバー1巻あたり600ページで20巻ほどの説明が必要なので、要約して一言で言いますね。



 プロレス会場でナンパした。



 あ、私がです。

 いやー年上なもんで、いろいろ大変だったんですよー。

 既成事実さえ作ってしまえばという思いでネット通販でケタミン探しちゃいましたよー(ゲス顔)

 まあなんと言いますか!

 大人の余裕?

 男はみんなマザコン?

 もう仕方ないなあ。ふふふふふふふ。


「さっさと食え! 皿洗ってる時間がねえ!」


 そう言うと彼は私の頭を脇に抱え込みます。

 う、うお!

 ヘッドロック!

 しかも音がしない!

 ぬおおお!

 ぎりぎり絞まっていく!

 頭があああああああッ!

 私は超必死になってタップするのです。

 まあ、だいたい朝はこんな感じです。



 この世にはいろんなお仕事があります。

 朝から新聞を読んで、はんこを押すだけで年間1億クレジットの報酬が発生する仕事とか、基礎法学って書いてある講義なのに政権の悪口を言っているだけで(略)クレジットの仕事とか。

 中には研究室にうまく取り入ってソフトウェア開発を五年契約で数千万をゲットしたと思ったら数ヶ月後に政府の事業仕分けで財団自体が解体されて一転借金まみれになる仕事とかもあるわけです。

 全てのしわ寄せが自営業に降りかかるシステムですねー。

 魔王もそんな吹けば飛ぶような仕事の一つです。


「魔王しゃま!」


 妖精さんが書類を運んできます。

 うちの専務さんです。


「はいはーい。なんですか?」


「タワーマンション『デーモンキャッスル』の建築許可がおりまちた」


「はーい。はんこですねー。お疲れ様でーす」


「あいー」


 魔王はなんと言いますか……一言で表すと魔族を食べさせる仕事です。

 うちはもともと土建屋なのでそういう意味では有利です。

 とは言っても土建一本じゃ魔族さんの雇用は確保できないので、うちもいまや多角経営で本業を見失ってます。

 本業の土建に青果の卸売りにスーパーマーケットにドラッグストアに貸し金に……。

 親の代の景気が良いときにゴルフ場の経営に手を出して……その後のバブル崩壊で……ほろり。

 あれさえなければなあ。


「魔王様!」


 あらま今度はケットシーさんです。

 子会社を監督してる常務さんです。。

 珍しい。

 市場で何かあったんでしょうか?


「増税前の駆け込み需要でフォークリフトが足りません!」


「系列のゴブリン便から都合できない?」


「ダメです! 三月の学生の切り替え時期と重なって……それにコブリン便の方も三月の引っ越し需要でアルバイトも機材も足りません!」


 あー……三月は進学や就職で人手が足りないんですよねー。

 とは言っても最近ではたばこを吸う人が運んだだけで事故扱いなので人員確保が大変なのです。

 ……っは!


「ハイパーブラックマーケットは?」


 我ながらすげえ名前ですがスーパーマーケットです。

 賢い主婦の味方です。

 マグロの赤身に油を入れて中トロにしたり、形成肉に油(略)が大人気です。

 ゼラチンを固めただけのなんちゃってフカヒレも大人気ですね。

 フードコートではサンプル写真と全く違う残念バーガーや、醤油ラーメンと塩ラーメンの違いがスープの色だけなラーメン店が大人気です。

 あ、バカにしたもんじゃないんですよ!

 ミックスベジタブル入りの安っぽいチャーハンが大人気なんですからね!

 あ、そうそう。人手人手……


「そちらは不法入国のアンデッドでなんとか回してます!」


 よし!


「んじゃ市場も不法入国のアンデッドさんを日雇いで雇って人海戦術で何とかしてください! あ、雇用契約じゃなくて業務請負ですからね!」


「イエスマム!」


「あー魔王様。あとニコニコ金融でしゅけど」


 と妖精さん。


「ですけど?」


「過払い金返還の集団訴訟をおこされまちた」


 うおおおおお!

 頭痛え!

 ドラゴンさんですら覚えてないほどの大昔に勇者に敗れた我ら魔族は、汚れた民族として金融業や工事現場でしか働けない時代がありました。

 それに抗議して革命を起こしたのが私のお爺さま。

 暴動と言論とロックで世界を変えたと言われてます。


 ……嘘くさッ(ぼそ)

 主成分はどう考えても暴力です。


 その後、金融と各種工事のノウハウで経済的に自立した我が魔族は、十年ごとにブームが起こる人間さんの無責任な陰謀論からの規制の波に悩まされ続けているのです。

 あーめんどくさ!


「えーっと、弁護士事務所に電話して全部丸投げしてください……おなかすいた……」


「あいー」


 私は妖精さんにやる気無く答えるのでした。

 そろそろお昼なのです。

 勇者の弁当の時間なのです!

 仕事なんかやってられっか!


 あ、今! 「お前料理できねえの?」って思ったでしょ?


 できませんがなにか?

 目玉焼きすら作れませんがなにか?

 勇者が涙を流しながら命乞いしましたが何か?

 バレンタインチョコ渡したら「何盛った?」って言われましたが何か?

 「魔王様の武器は毒」って部下が本気で思ってますが何か?


 お前ら世の中の女子全員が料理できると思ったらくびり殺すぞ。


 ……つーわけで勇者のとこにゴーなのです。

 お弁当もらいに。



 うちの本社ビルの真向かいに勇者が勤める内務省のビルはあります。

 さーて、おべんとおべんとおべんと!

 私は魔法で魔族の印である青い髪の色を変えます。

 私はクウォーター人間なのでこれでごまかせるのです。

 あー。「お前ら内緒で同棲してんの?」って思ったでしょ?


 うん。内緒。

 バレたらマズい。超ピンチ。


 いやねー。

 魔族と人間のハーフって多いんですけどね。

 30年前くらいに前に種族を超えた愛がテーマのドラマをやったら次から次へとカップル誕生。

 その結果、ハーフさんがメチャクチャ多いんですね。

 それが今の若い世代の親世代ですので誰も文句なんて言いません。

 ですけど魔王は例外です。

 相手が魔族じゃないとらめーとか言われまくってるんですねー。

 お爺さまは「そんなんロックじゃねえぜ!」って人間と結婚しましたけど。

 ですが私はお爺さまと比べると諸侯(株主)になめられまくってますので人間さんとの結婚は難しいのです。

 勇者の側も「汚れた民族」とのおつきあいは何かとマズいのです。

 私たちの同棲はバレたら双方から突かれるというわけです。

 

 ……やめませんけどね。


「ちゃーっす!」


「はいはい。勇者ちゃんね。お仕事邪魔しちゃダメよ」


「はーい」


 すでに受付は顔パスです。

 毎日通ってるんでその成果ですね。

 誰もツッコミを入れなくなりました。


 私は内務省の勇者部の部屋に向かいます。

 勝手知ったる内務省です。


「おっひっるー!」


 手を振りながら颯爽と登場です。

 そん私に勇者が酷いことを言いました。


「弁当はない」


 がびーん!!!


「な、なぜですか!」


「弁当にするはずの夕飯の残りをお前が食べちまったんだよ!」


 うおおお!

 夜更かししてネトゲやってたら小腹が空いたのでつまみ食いしたアレは弁当の材料だったのか!

 私がorzしていると勇者が言いました。


「オラ。食堂行くぞ!」


「えっと……」


「どうせ財布持ってねえんだろ。俺が払うよ」


 ダーリン一生ついて行きます!!!

 そういうわけで私たちは食堂へ行ったとさ。

 で、食堂です。

 役所の食堂のご飯はなぜあんなにおいしいのでしょう?

 うちの会社の食堂のブタの餌とは大違いです。


 お前酷いヤツだなって思うでしょ?

 食堂の選定は私じゃないもん。

 私は最後まで反対したもん。

 悪いのは利益ばかり考える役員どもです。


 私は悪くないですもんねー!


 つーことで注文!!!

 お、A定食がハンバーグ。B定食がサバの味噌煮ですね!

 肉肉肉肉にくにくにくー!


「A定食とラーメン大盛り(キリッ!)」


「太るぞ……」


「少しぽっちゃりの方が好きでしょ? うふふふふふ」


 知ってますよ!

 知ってますとも!

 勇者が隠し持っているグラビアのお姉さんはみんな脇腹のお肉があまっているということを!!!

 お、顔真っ赤ー!

 もう照・れ・屋・さ・ん!

 指を指してからかっているとグワシと脇腹から痛みが。

 ぬおッ!

 脇腹にストマッククローですと!

 私の豊満な脇腹を握力だけでプレスですと!

 あいだだだだだだだだ!

 っちょ! 痛い! 痛い!

 ま、マジでシャレにならんって!


「ラーメン食べたからポテチなしな。あと夕食後のアイスも」


 なんという鬼畜!

 鬼です! 鬼がいます!

 でもラーメンやめない!


 じゅるるるー!

 じゅるー!


 ラーメンってホントにいいものですね。

 癒されますね。


「冬眠前の熊か……」


 ひでえ!

 それ訴えたら勝てますからね!

 覚えておきなさいよ!

 じゅるるるるるー!

 

 心の中で反論しながら一心不乱にラーメンに挑んでいると、誰かがこちらに来るのが見えました。

 たぶん勇者の仲間ですね。


「おーい。勇者!」


 あー。賢者さんです。


「ああ、どうした賢者?」


「いやさ、戦争どうするんだ?」


 戦争。

 うちの魔王領 (自由経済活動地域) と役所 (行政支配地域) の境界線の争いです。

 一見すると野蛮な総力戦を思い描きますが、今ではそういうのは存在しません。

 お爺さまの代から戦争にもルールが適用されるようになりました。

 戦争のルールはこんな感じです。

 双方の代表者を出してのリングの上での一対一。

 五分一ラウンドで最大五ラウンド。

 武器なし。

 目つぶし金的なし。

 魔法による攻撃・回復なし。

 強化魔法・強化気功あり。

 それとリング外へ逃げるとかも禁止です。


 負けた方が施設代やらファイトマネーとかを払い、しかも一定の土地を失います。

 なんというかこの時代の戦争は紳士的な格闘技なんですね。

 私? なんで戦わないの?

 なんで戦わないといけないんですか!

 そういうのはうちで育成してる選手がちゃんといますからね!

 ゴーレム柔術のブラックベルトとか。

 ゴブリンラウェイのチャンピオンとか。

 結構うちは良い選手が揃ってるんですよ!


 あ、種族がダメダメだろって?


 ちっちっち!

 それは30年も前の話です。

 人間さんの開発した技を手に入れた私たちは、いまや種族の能力差などものともしません。

 

 ……この間は……大変でしたけど。


 うちの勇者と戦ったんですね。ゴーレムさん。

 はいその時の実況です。


 ゴング直後、勇者がハイキック!

 ゴーレムさんは華麗にブロッキング。

 びくともしてません。

 よし! 勇者の体勢が崩れたところをタックルです!


 と思ったら……うちの勇者がその場でローリング。

 ゴーレムさんの足下に滑り込み、自分の足をゴーレムさんの足に引っかけてゴーレムさんを倒しました。

 んで、そのまま足を取ってヒールホールド。

 うちの勇者って足関節好きなんですよね……


 ゴーレムさんに足関節と非常にシュールな絵面ですが、ゴーレムさんは光速タップ。

 わずか十秒で戦争は終わったのです。

 ひでえ。

 マジで鬼ですね。


 まあそのあとに戦士と賢者倒して、こっちはオークさんが負けたので二対二で引き分けでしたけどね。

 なんか微妙に遺恨が残ったのでうちの方でも「戦争しようぜ!」ってうるさかったんですよねえ。

 やっぱり人間さんも「ちゃんと決着をつけようぜ!」って流れになったようですね。

 あー。また戦争が始まるわけです。


「仕事の話だ。席を外すぞ」


 えー!

 聞かせてくれてもいいじゃん! けちー!

 別に先制攻撃が有利なわけじゃないしのにー。

 まあいいや。

 帰ったら会議ですねー。


 あ、ハンバーグも食べないと。

 がつがつがつがつ!



 ぴんぽんぱんぽーん。


「みなさーん。戦争ですよー!」


 私は会社内に放送します。

 うふふふふふふ。


「うははははは! 戦争じゃああああああッ!」


「オドリャ殺ったらー!」


「ぎゃはははははは!」


 ブラックすぎる職場環境にストレスを溜め続けていた魔族さんが雄叫びを上げました。

 たとえ労働組合を使って労使紛争しようとも、逆さに振っても会社に金がないという現実を知り抜いている彼ら。

 されど会社を辞めても独り立ちするほどのスキルはないという厳しい現実が待ち構えてます。

 そんな彼らはこういうときにストレスを発散するしかないのです。

 ……マジでごめんね。



 その日の夕方に果たし状が到着。

 夜、内務省の地下闘技場に来やがれだそうです。

 あらかじめわかっていた私たちはすでに覚悟完了です。

 今回のメンバーは凄いんですよ!


 オークリアン柔術のブラックベルト。

 スラ道館の師範でスライム寝技界の最高権威スラダビコンバット優勝者。

 超でかいのにテクもあるミノタウルスオイルレスリングの元金メダリスト。

 あと勇者に壊されちゃったゴーレムさんの代わりに数あわせに株主(諸侯)のボンボン。 ロックバンドのボーカルなんだって。

 普段演歌しか聴かないからよく知りません。

 まあ、たぶん強いんでしょう。

 役所の地下闘技場にGO!なのです。



 ……あれからいろいろありました。

 オークさんが三角締めで勝利したり、スラ道館のスライムさんが泥仕合の末にドロー。

 ミノさんの華麗なるドロー。

 魔族のしょっぱい泥仕合ッぷりが凄まじいです。

 で、勇者の番です。

 さらなる泥仕合を味わうがよい!

 ところがここで事件が起こります。


「俺がこの戦いに勝ったら! 魔王を嫁に貰うぜ!」


 リングの上で男子が叫びました。

 はあ?

 私は呆れました。

 つうか誰?


「えっと……あれ誰ですか?」


 妖精さんに聞いてみます。


「伯爵様の婿さんなのでちゅ。ロックバンドのボーカルの人でちゅ」


 あー存在を忘れてました。

 鶏みたいな髪の毛した人ですね。

 で、何者?

 って伯爵の息子……大株主じゃねえか! おい!


「断るとどうなります?」


 私にはダー(※ダーリンのこと)がいるのでどんな外道な手を使っても断るつもりです。


「さすがに潰れましぇんけど、いくつにも分けられておいしい事業は銀行に取られましゅ」


 つまり勇者が負けると断る余地がなくなると。

 勇者がんばれー!!!

 私は超必死になって心の中で応援します。

 もうガチです。

 凄まじくガチです。

 がんばれ!

 むしろ殺せ!!! 再起不能にしろ!

 すり潰せ!


 ゴングが鳴りました。

 え? 速い!

 伯爵の息子が全力で突進しました。

 あー! 最初に突進してボコ殴りにするストライカー(打撃)タイプだ!

 その点勇者はサブミッション(関節技)タイプ。

 油断してたら危ないのです!


 ところが勇者は真正面から殴り合います!

 えー! いつものスタイルと違うやん!

 勇者は容赦の無い大ぶりでありながらスピードの乗った拳を器用にかわしながら、コンパクトなコンビネーションを打ち込んでいきます。

 そして隙を見てヒザッ!

 って立ち技格闘技かよ!

 あ、捕まれた。

 ヒザ蹴りで少しふらつきながらも伯爵の息子が勇者の胴に組み付きやがりました。

 と思った瞬間、勇者はそれをするりとかわし、胴に残った手をロック、サイドに回り投げました。

 ……って相撲の小手投げじゃん!

 しかも角度がえげつない!

 容赦なく折りに行ってます。

 ですが相手もさすがのもの。

 腕を無理矢理引き抜いて腕を極められるのを阻止。

 投げもすんでのところで倒されるのを阻止しました。

 あー!!! もどかしい!!!


「ぶっ殺せー!!!」


 興奮した私は思わず口に出してしまいました。


 その場にいた全員が私が伯爵のバカ息子を応援したと思いました。

 でも私は必死だったのです。

 うちの勇者の応援で。


 バカ息子が体勢を崩したその瞬間、足下にうちの勇者が潜り込みました。

 勇者はバカ息子に足を絡め、グラウンドで回転。

 あ、っと思った瞬間には極めていました。

 それは膝十字固め。

 えっと、それ以降は少し残酷なのでカットします。


 で、私は見ました。

 残酷シーンに入る前に勇者の口が「こ・ろ・す」と動いたのを。

 それは勇者が本気でキレたときの顔でした。

 全力で酒飲んで酔っ払って帰って酒の飲めない勇者にさんざん絡んだあげくに勇者目がけて寝ゲロしたときに数回見た顔です!

 勇者は最初から殺すつもりで戦っていたのです。


 キャー! 男前!


 もう焼き餅なんて! やんだ! オラ恥ずかしー!


「魔王しゃま。残念でちたね……領地」


 え?

 あ、そうか今回の戦争はドローになったのか。

 結果、領地は増えも減りもせず。

 完全に忘れてました。

 私は立場を忘れて勇者を全力で応援してたのです。

 うーん……なんか罪悪感。


「よっしゃ、みんながんばった! 残念会やりますよ!」


 結局、私は酒で誤魔化すことにしたのです。



「たらいまー。勇者ー。これおみやー」


 世界のゴブちゃんの手羽先です。


「あいー。勇者は偉い! よくぞ嫁守った! おっぱいを心ゆくまで揉むがよい」


 私は完全にアルコールが回っていました。

 夜中にハイテンションで勇者をたたき起こしてしまったのです。


「今何時だ?」


「二時? きゃはははははー……」


 ところが私は急に黙ります。


「お、おい! やめろ! やめろおおおおおおッ!」


 マーライオン。

 そして私は膝十字より酷い目に遭いましたとさ。


 めでたしめでたし……まあ、もう少しゆるーい同棲生活が続くのが一番めでたいんですけどね。

リアルの友人に見せたら「恋愛?」って言われました。

藤原的には恋愛なのですが……あっれー?

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― 新着の感想 ―
[一言] 恋愛です(`・ω・´)
[一言] すげぇーひでぇように見せかけて、実は甘々な片鱗が見えてニヨニヨしました。 毎日きちんと魔王の御世話をしている所とか。 きちんと好きなものを把握してるところとか。 あんな無茶苦茶だけど夜は勇者…
[良い点] 魔王ひでぇw [一言] ブラックスーパーマーケットが、「それ、何処の中国資本?」いう位酷かったな♪ 丸で溝(どぶ)のような官僚支配。 (体裁だけは作ろって、一応民主国家的システム☆) 魔…
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