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スダ・アキヒロ

「何だこの本」



 彼はまず机の上から本を取り上げた。

 ボロボロの厚い革表紙、古臭く、まるで中世の本棚から出してきたようなしっかりしたつくりだ。

 清四郎がこんな本を持っていたことがまず不思議だった。アイツはだいたい漫画や雑誌しか読まない。

 頭が悪い訳ではない、父である自分にも分かってはいた。ヤツは中学に入ってすぐ母親を亡くしてから自暴自棄になっているところがあった。宿題もまじめにこなさず、時々学校も休んでいるらしいし、家に帰ってこないこともたまにある。

 それでも、今回の失踪はあまりにも腑に落ちなかった。

 間に挟んだ紙がぱさりと床に落ち、彼はいったん本を机に戻し、落ちた紙を拾い上げた。

「感想文……」

 紙は4枚、クリップでまとめてあるのが外れかかっていた。一番上の文字をみて、すぐ息子のものだと気づく。

「何なんだ、この本」




 読書感想文 須田彰浩


 この本の趣旨は一言で言うと、勧誘なのだと気づいた。

 元々、岩切と言う子が道端で拾った時にはその罠は発動していた。

 その前に読んだ人間はどこにいるのか、それは分かった。感想文を残すヒマもなく、道端にこの本を置き去りにしたまま、何かに呼ばれて行ってしまったのだろう、あの場所に。

 そんな人間は果たしてどれくらい居るのだろう、あの地下室の部屋に、真っ暗なログハウスの床下の、昏い森の中の。

 この本がこの日本だけでなく、全世界のあちこちをさまよっていたのかも知れない。

 そして、現在だけではなく、はるか昔からずっと。

 感想を書き終えずに、あそこに向かって行った者がひしめいている、狭く歪んだ空間に。

 感想を書き終えたヤツは本当にいないのだろうか、私が初めてなのか。

 感想を書き終えれば、私は全てを救うことができるだろうか。

 少なくとも、息子だけは助けたい。そして、息子の学校の子どもたち。

 せめて、息子だけは。

 かすかに本の裏表紙に見えた、今。その数は……知りたくなかった。恐ろしい数だ。

 そして私はその場所に向かう、今から。

 これで読書感想文を終わります。提出期限は15日だったよな、清四郎。







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