三
琴瀬姉妹、そして美紗子との同居が決まった翌日、守はいつものように教室で浩太と大樹、そして美紗子に囲まれていた。
「で、どうだったよ、同居初日は?」
「どうって何がだよ?」
相変わらずバカな質問をしてくる浩太に、守は机に肘をつきながら答える。
「だから、ラッキースケベとかあったのかって聞いてんだよ」
「あるわけないだろ。常識的に考えろ」
浩太の質問は、やはり頭の痛くなるようなものだった。
同居初日のを過ごした守の正直な感想は『疲れた』の一言に尽きる。ラッキースケベなんて……調理中の美紗子の件を除けば皆無だ。
「ちぇ、つまんねーの。で、正妻としては、この状況で自分も同棲をしなくていいのか?」
守が、机に突っ伏すと、浩太は美紗子の方に矛先を向けた。
今の発言で分かると思うが、美紗子の同居の件はもちろん誰にも伝えていない。伝えた時点で色々と大変なことになるのは予想できるからだ。
「こいつとはただの幼馴染。それに、こいつの家で寝泊りするなんてそんな馬鹿げたことするわけないじゃない」
「そうだぞ。純粋な美紗子さんがそんなことするわけないだろ」
やや慌てながら答える美紗子に、大樹が援護を入れる。
本人は否定しているが、呼び方から分かるように、大樹は美紗子に恋心を抱いているらしい。こんな女の何が良いのだろうか。
ただ、大樹も顔がよく異性からの人気は高いし、美紗子と見た目としてはお似合いな気はするが。
「SHRを始めるので席についてください」
教室のドアの開いた音と共に、守たちの担任である山田佳奈子の声が響く。
佳奈子が教卓の前についたころには、散らばっていたクラスメイトも席についていた。
「今日はイギリスからの留学生を紹介します」
守が机に突っ伏していると、佳奈子がそんなことを言い出した。
イギリス、というと守の親が住んでいる国である。あとは、昔仲がよかった一条院奈緒が引っ越していった国でもある。
とはいえ、奈緒が留学してくるわけもないので、自分には関係のない話だろう。そう結論付け、守は顔を上げずにいた。そうしているうちにも、
「それじゃあ、入ってきてください」
佳奈子が声をかけると、再び教室のドアが開く音が響き、足音と共に教室に入ってくる。
「イギリスのロンドンから来た一条院尚だ。慣れないこともあって迷惑をかけることも多いと思うが、よろしく頼む」
前の方から聞こえてくる、透き通った声に聞き覚えのある名前があったため守は顔を上げた。
すると、そこには長く黒い髪をポニーテールでまとめた男子生徒が立っていた。顔は中性的な感じながらも、全体的に体のラインがスラっとしていて、とても爽やかなイメージだ。大樹とは雰囲気が異なるが、おそらく女子から人気を集めるタイプの男子だろう。また、見た目からも名前からも、どうやら日本人らしい、ということがうかがえる。
守は留学生が自分の想像していた人物とは違うことがわかり、再び顔を伏せようとすると、
「一条院君は、萩本君の家に住むことになります。皆さん仲良くしてあげてください」
「先生、今なんて?」
聞き捨てならない言葉を聞いた気がしたので、守は佳奈子に聞き返した。
「皆さん仲良くしてあげてください、と」
「いえ、その前です」
不思議そうに答える佳奈子に、守は落ち着いて突っ込みを入れる。
だれが、そんなところを聞き返すと思うのだろうか。
「萩本君の家にお世話になることになってると思うんですが、聞いていませんか?」
佳奈子は本日二度目となる爆弾発言を、平然と口にした。