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ジミ’s×8~8人の幼馴染と同居することになりました~  作者: MIDONA
二章〜萩本君の家にお世話になることになってると思うんですが、聞いていませんか?
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『いただきまーす』

 全員で手を合わせて挨拶をしてから、夕食を食べ始めた。涼子や美紗子がいるためか、美香も素直に挨拶をした。

「あんたにしては、上手く揚がってるじゃない」

「……」

 挨拶の後、真っ先に唐揚げに手を伸ばした美紗子が、うれしい感想を聞かせてくれた。だが、守は黙り込んでいた。いくら自分の勘違いだったとはいえ、小麦粉を投げるのはひどいと思う。そもそも、美紗子はあんな不安定なものを、よく顔面にヒットさせられたものだ。あのコントロールと速度があれば、野球部のエースぐらい簡単に取れるのではないだろうか。目指せ甲子園!

「あれ、おにーちゃんの服、さっきと違うよね? 料理中に汚れちゃったの?」

「……う、うん、まあね」

 杏子の指摘どおり、守は先ほどとは別の服を着ている。理由は、小麦粉を頭から被ったから、というので間違いがない。しかし、守が不機嫌な原因はそれではなかった。体についた大抵の汚れは、シャワーを浴びて服を着替えれば何とかなる。服についた汚れも、洗濯機にかければ大抵のものは落ちる。しかし、床についた汚れはそう簡単にはいかない。守に当たった小麦粉の袋は、守を小麦粉まみれにした後、その残りで床を真っ白にしてしまった。考えてみれば当たり前のことだが、改めて小麦粉の怖さを思い知らされることになった。

 その後、守がシャワーを浴びて台所に戻ると、美紗子が既に掃除をしてくれていた。さすがにまずいと思ったのだろう。守もそれに加わって全てを片付けた後、守が唐揚げ、美紗子がサラダと分担して作業することとなった。そのおかげで、ハプニングがありながらも、予定通りの時間に夕食を始められた。それ自体は美紗子に感謝すべきことだとは思うが、遅れた原因の発端も同一人物だったので素直に感謝する気にはなれなかった。

「そういや美紗子。何でうちに来たんだ?」

 しばらく夕食を食べ進めるうちに、守は忘れていた質問を思い出したので聞いてみることにした。

「悪い?」

「いや、夕食の準備も手伝ってもらったし、来てくれたこと自体はありがたいんだが……」

 美紗子の返事は、不機嫌なときに返ってくるお約束のものだった。おそらく調理中の守の勘違いを、まだ引きずっているのだろう。ここで気持ちに任せて美紗子に文句を言ったりしたら、質問の返事は返ってこない。守は一度深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、再び口を開いた。

「で、何でなんだ?」

「そ、それは……その…………」

 守が自分の黒めの唐揚げに手を伸ばしながら再びたずねると、美紗子は顔を赤くして言いよどんでいた。

 実際食べてみると、やはり苦かった。唐揚げを焦がしたのは守なので、焦げた唐揚げは守が全て引き受けて、他の上手に揚がった唐揚げを女子に振り分けた。それゆえ、自分だけ6個で美紗子が四個、他が五個という不平等な分け方になってしまったのだが、特に問題はないだろう。美紗子がもう一個欲しいようならあげるつもりでいるし、言ってこないということは本人も了承している、ということだろう。しかし、上手く揚がったものを食べてみたいという気持ちはもちろんある。

「美紗子おねーちゃんは、おにーちゃんを手伝うために来たんだよね?」

 一向に次の言葉が続きそうのない美紗子に、杏子が笑顔で問いかける。


 ――美紗子。こんな小さな子に助けられているようじゃだめだぞ。


 内心で美紗子に話しかけてから、美紗子と杏子の年齢は一つしか離れていないことに気付いた。

「違うわよ。守が涼子先輩や杏子ちゃんに手を出さないかどうかの監視のためよ」

「おい、俺はそんなこと――」

 ――するわけないだろ、と続けようとしたところで、先ほどのことを思い出して言葉を飲み込んだ。

 もちろん涼子たちに手を出すつもりはないが、ここで反論して先ほどの勘違いの内容を暴露されたらたまったものではない。周りから――特に美香辺りから――どんな視線で見られるか、それを想像するだけで恐ろしい。

「守君なら大丈夫だと思うわよ」

 守が一人で葛藤していると、涼子から救いの手が差し伸べられた。

 さすが涼ねぇ、などと守が感心しているうちにも涼子は言葉を続ける。

「普段から美香ちゃんと一緒に暮らしてるんだし。それに、一緒の家で寝たら、あなたも同じ危険にさらされるってことを気づいてる?」

「そ、それは……」

 淡々と話す涼子に、さすがの美紗子も腰が引け気味になっている。涼子とは隣家同士で付き合いが長いこともあってか、しっかり守の事を信用してくれているようだ。出来ればそのまま美紗子を倒してもらえるとありがたい。

「まあ、美紗子ちゃんとしては夜に襲われたらそれも本望か」

「先輩っ!!」

 守が涼子のことを応援していたのもつかの間、突然涼子は声のトーンをかえて冗談を言った。美紗子も、上手くそれに乗せられるように席を立ち上がる。

「本当はそうなんでしょ?」

「あー、美紗子おねーちゃん大胆ー!」

「そういうことなら二人の寝室だけ離れたところにしておきますので、安心して夜をすごしてください」

「……」

 涼子の追い討ちや杏子の発言、さらには美香の参戦という予想外の事態が起こったせいか、美紗子は反論できないようだった。

 対する守は、口を挟まずにこのやり取りを見ていた。

 美紗子がうちに来た本当の理由は分からないが、これが理由でないことぐらいは長年の付き合いから分かっているからだ。この流れでいくと本当に離れた部屋で美紗子と相部屋にされかねないが、その時は自分が手を出さなければ特に問題は無いはずだ。

 そんな落ち着いた気持ちで、守は最後の唐揚げをかじる。

「そういえば、あたしの唐揚げ一個少なかったんだけど……」

 どうやら逃げ場なし、と判断したらしい美紗子に突然話を振られ、残った唐揚げを箸でつまんだまま応答する。

「俺の食べかけだけど、これでよければ食うか?」

 箸でつまんでいた食べかけの唐揚げを、美紗子の皿の上におく。

 昔から、というより今でも水筒を飲み回したりすることはあるので、美紗子なら気にしないだろうし大丈夫だろう。

「食べかけなんて汚いもの、人に食べさせようとするんじゃないわよ」

 しかし、守の予想に反して、美紗子からは断る返事が返ってきた。

「いらないなら俺が食うけど、どうするんだ?」

「食べるわよ」

 守がもう一度聞き返すと、予想道理の反応が返ってきた。

 何でこの幼馴染は、素直に返事をすることが出来ないのだろうか。

 守がそんなことを思っているうちに、美紗子が唐揚げに箸を伸ばす。

「美紗子おねーちゃん、おにーちゃんの食べかけがいやなら、杏子のと交換してあげるよ」

 すると、そこで杏子がそんな提案をした。

「いいわよ杏子。美紗子ちゃんも。焦げてるのはあんまり体によくないし。一番年上の私が食べるから、二人は上手く出来てるやつを食べなさい」

「いいえ、大丈夫です! 守の食べかけは、幼馴染としてあたしが処理しますから」

「大丈夫だよ、おねーちゃん。杏子はあと半分しかいらないし」

「だめよ、まだ若いうちに体に悪いものを食べちゃ。だから、それは私が食べるわ」

 さらに涼子も加わり、守の食べかけの唐揚げの取り合いが始まった。

 押しつけ合いなら分かるが、なぜ取り合いが始まるのだろうか。もちろん、焦げたやつは美味しくはない。むしろ不味いくらいだ。

《チーン》

 守が不思議な顔で三人のやり取りを見ていたところ、不意に電子レンジの音が聞こえてきた。その方向を見ると、いつの間にか席を離れていた美香が何かをレンジから取り出していた。

 電子レンジの音に見向きもせず、取り合いを続けている三人の所に美香がつくと、先ほど温めたものを美紗子には二個、涼子と杏子には一個ずつ配り始める。

 何かと思い、分けられたものを見ると、それは冷凍食品の唐揚げだった。

 さすが美香、確かにこうすれば争いの種も無くなるだろう。

「全部で四個しか残ってなかったのでこれで我慢してください。そういうことでこれは、私が食べますので」

 美香はサラッとそんなことを言った後、皿の上に置きっぱなしになっていた、焦げた半分の唐揚げを口に運んだ。

「「「美香ちゃん!」」」

 何故か、美紗子、涼子、杏子の三人が美香のほうへ身を乗り出す。


 ――って、あれ? 俺の分の追加の唐揚げは?

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