四
着替えなどをして、部屋割りや一緒に過ごす上での取り決めなどを話し合った後、約束にもなっていたので、守は美紗子に結果を伝えるために電話をすることにした。
「ってことで、結局、うちに一緒に住むことになったから」
予想できる反応はいいものではないので、最後の方が下げ調子だったことに加え、ボソッとした話し方にもなってしまった。
『嘘でしょ!? 何で、そういう結論に達するのよ?』
受話器のスピーカーからは、予想通りの反応が返ってきた。
結論は守に一任してくれることになっていたはずだし、そもそも同居の1番の原因を作ったのは美紗子だし、本来ならば美紗子に文句を言われる筋合いはない。
しかし、その後も色々と文句をつけてくる美紗子の様子からすると、おそらくそんなこと気づいていないのだろう。
守が言い返せずに、適当に相槌を打っていると、
『分かったわ。ちょっと待ってなさい!』
……待ってなさい?
「おい、どういうことだよ?!」
『だから、とりあえず待ってなさい!』
何がとりあえずなのか分からなかったのだが、再び聞き返す前に一方的に電話を切られてしまった。
守は一度ため息をついてから、受話器を元に戻して夕食を作るために台所へと向かった。
朝ごはんは適当に済ませてしまったので、夕食はしっかり作ろうと守は意気込んでいた。
琴瀬姉妹は一応客人なので、家事をやらせるわけにはいかない。美香が動く気がないのは分かっているので、話し合いの結果、当然のようにほとんどの家事を守がする流れになった。
家事を受け持つこと自体はそんなに苦ではないものの、人数が普段の倍となるとさすがに色々と大変になってくる。
今日の夕食はから揚げの予定だ。学校帰りに、スーパーで買ってきた鶏肉を下ごしらえしているところだが、量が普段の倍はあるので単純に考えて時間も倍はかかる。涼子や杏子に手伝いを頼んでもいいのだが、あまり気が進まなかった。
もてなすはずの相手に手伝ってもらうことへの抵抗もたしかにある。だがそれ以上に、涼子の料理は――まずくはないのだが……いや、むしろおいしい方だと思うが、作り方が独特というか、何でそんな調理方法で作れるのか分からない。ハッキリ言って、変の領域を通り越した作り方をするので正直手伝いにならない。
美香は美香だし、杏子は見た目の通りの技術と知識しかなく、小学生に手伝ってもらっているのとさして変わりないので、いない方が楽と言っても過言ではない。
ふと幼馴染の美紗子の顔が頭に浮かんだが、ここにいないし、わざわざ呼ぶわけにもいかないのでどうしよもない。
そんな思考を頭の中でめぐらせ、自分ひとりでやるしかないと心に決めてから鶏肉に小麦粉をまぶし始める。
しばらくして半分ほどが終わり、そろそろ一息つこうか、と体を伸ばしていたところで……
《ピンポーン》
突然、ドアチャイムが鳴り響いた。
琴瀬姉妹に行かせるわけにもいかないし、美香は動かないだろう。そもそも他の三人は二階にいて守は一階にいる。距離的に考えても、守が出るべきだ。急いで手を洗った後、守は玄関に向かった。
「はーい」
大きな荷物を持ったシルエットが映っているので、宅配便か何かだろう。そう思い相手を確認することなく、いつものように声を出しながら玄関を開ける。
するとそこには、予想通り大きな荷物を持った、しかし、予想外の人物が立っていた。
その人物は、先ほどここにいて欲しいと願った相手で――つまり、幼馴染の美紗子だった。
「どうしたんだよ、こんな時間に」
守は、ドアノブに手を置いたまま美紗子に問いかける。
自己中ながらも面倒見のいい幼馴染だが、わざわざ夕食の手伝いに来たわけでもないだろう。そもそも来て欲しいと思っていた時に来るなんて、そんな都合のいいことが起こるわけがない。
「……あた……も…………から」
「まあ、いいからとりあえず上がれよ」
顔を赤くして、何かを呟いている美紗子に、とりあえず家に上がるよう守は促す。
親と喧嘩して逃げ込んできたか何かだろう。頻繁にあるわけではないが、さして珍しいことでもない。
しかし美紗子は動こうとせず、先ほどと同じように赤くした顔を伏せ気味にしている。
「……あたし、も……この……に…………から」
「おい、美紗子?」
どうしたものかと、守が美紗子に問いかける。すると、何かを決意したかのように強い意志のこもった瞳を守に向けて、美紗子は一気に言い放った。
「あたしも今日からこの家に住むことにしたから!」
突然すぎる美紗子の宣言に、守は言葉の意味を理解できずにいた。
スミマセン、結局いつも道理10時の投稿にしました。
この三連休は、すべて夜の十時で行きたいと思います。
よろしくお願いします。




