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ジミ’s×8~8人の幼馴染と同居することになりました~  作者: MIDONA
After Story~電波系って言うのは、出来もしないのに超能力を持ってる、とかって言い張る人を指すのであって、私は本当に超能力が使えるんだから電波系じゃないの!
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 何やら騒いでいる声に気づき目を開けると、遠くにいた三人が一斉に走り寄ってきた。

「まーくん!」

「大丈夫ですの?」

「変なところはない?」

 それとほぼ同時に多方向から、様々ないたわりの声が飛んでくる。

 そんな気遣いは嬉しかった。だが、全員が声を出しているわけではないにしても、六人もいるのでとてもにぎやかになる。

 守はうるさくなって収拾つかなくなる前に、出来るだけ通る声を意識して返答した。

「ありがとう、大丈夫だから」

 守が口を開いている間は一瞬声がやんだのだが、すぐにいたわりの声が再開し始め――その直後に、三回の手拍子が響き渡った。

「うるさいから、とりあえず席について!」

 全体が静まり返ったのを確認して、涼子が少し怒り気味に言葉を放った。守を囲んでいた幼馴染たちは散り散りに席に戻っていく。

「守君、立てる?」

「うん、大丈夫」

 涼子自身も、そんな短いやり取りの後、安堵した顔で席に戻っていった。

「ふぅ……」

 軽くため息をついてから、守も立ち上がり席へと向かう。

「その……」

「ん?」

 途中、美紗子の声が聞こえたのでそちらを向くと、うつむいたまま歩いている美紗子が口をわずかに動かしていた。

 美紗子も守が振り向いたのに気付いたらしく目が合うと、美紗子は口を開いた。

「……さっきの、ゴメン」

「ああ、気にするなって」

 実際、特に気にしてもいないのでそう答えた。

 確かに死にかけた記憶はあるが、その行動は美紗子が守の事を心配してくれたからこそ起こったことだ。いつものように自覚を持って殴られるよりは全然マシだ。

 この心配の理由が、好意を持ってくれていてショックだった、とかなら嬉しいのだが。可能性のない事を考えても仕方が無い。美紗子が風邪をひいたときに交わした会話もあるわけだし。

「で……」

 席に着くなり、今度はいつもの調子に戻った美紗子が口を開く。

「この子誰なのよ?」

 この子、というのはもちろん菜子のことだ。

 色々あってあやふやになっていたが、結果的には未だに名前しか紹介を済ませていない。美紗子に至っては、それすらまだだ。

 とりあえず美紗子に名前の紹介だけでも済ませようと、菜子を示しながら、

「伏祇菜子。あのときの占い師だ」

 簡単な情報しか与えなかったが、美紗子は『あのとき』で理解してくれたようで、すばやく菜子のほうに向き直り、

「ねぇ、あなたってあのときの占い師なの?」

「そうだよ」

 美紗子の質問に、菜子が間を空けることなく答える。

「それじゃあさ、あのときのあたしの願い事、かなってないんだけどどうなってるの?」

 美紗子が多少重圧的に菜子に問いかける。

 正直、内容が内容であるためその事には触れて欲しくなかったのだが……

「さあ。どうなの、守?」

「まあ、その、あった…………かな?」

 この大人数の女子と同居、という時点で既に不幸の最中にあるのだが、今現在仕方が無く萩本家に身を置いている人もいるので素直に返すわけにはいかない。

 それ故、適当にはぐらかそうとしたが、美紗子に睨み付けられたので早々に口を開いた。

「そう! そういえば、あの後もう一度見に行ったときにはいなかったけど、何でだ?」

「あ、そうよ! 何でいなかったのよ?」

 美紗子も多少違和感を持ったようだったが、それ以上に内容が気になるためか相槌を打って菜子のほうへ目を向けた。

「えっとね……」

 菜子が珍しく言いよどむと、数秒間の思考に入る。

「願いをかなえるには、宇宙からのエネルギーが必要になるんだ」

 菜子は何か語りだしたが、一々突っ込むのも面倒なので適当に相槌を打っておく。

「でも、そのエネルギーを受け取れる量は不安定で毎日違うの。それで、エネルギーが足りなくて願いをかなえられないときは、お休みにしてるってわけ。ドゥー・ユー・アンダースタン?」

 何故か最後だけ英語だった。しかも発音が日本流。

「まあ……大体は」

 あまりのぶっ飛んだ内容に一瞬答えを迷ったが、ここで分かっていないと言ったところで、追加で面倒くさい説明をされるだけなのでとりあえず理解の意を示す。

 まあ、一つだけわかった事は……

「なあ、菜子?」

「何?」

 多少皮肉っぽく菜子に呼びかけたつもりだったが、菜子は相変わらず純粋な瞳でこちらを見返してきた。

 その瞳を見ていると、これから言おうとする事に多少の罪悪感を覚えたが、それを振り払って、

「お前ってさ……」

 特に何の感情も込めず、ただ思った事だけを吐き出した。

「電波系……ってやつ?」

 守るが口を閉じる前に、菜子が机をたたいて抗議の意を示しながら立ち上がった。

「守、ひどいよ!」

 菜子はこれまでとは違ってかなり必死に抵抗している。

 これまでの態度から、皮肉の意味を込めていなくもなかったのだが……おそらくトラウマになっているのだろう。この発言からして、今まで回りにいじめられたりしてきたのかもしれない。今さらながら罪悪感が増してきて、誤った方がいいかどうかを本気で考え始めた矢先、菜子が続きを口に出す。

「電波系って言うのは、出来もしないのに超能力を持ってる、とかって言い張る人を指すのであって、私は本当に超能力が使えるんだから電波系じゃないの! あんな人達と一緒にされるなんて心外にもほどがあるよっ」

「その発言こそ電波系なんじゃ……」

 必死に弁解(?)している菜子に、美香の突っ込みは聞こえなかったようだ。みんな顔には出さないが、全員美香の突っ込みに同意しているのだろう。その弁解の内容自体、電波系以外の何者でもない。

 しかし実際八人の幼馴染が萩本家に集まっているところを見ると、あながち菜子の発言もでたらめではないのかもしれない。

 どちらにしても、謝ろうなんて考えた自分が馬鹿だった。

 菜子の弁解がこれ以上続くのか、と覚悟を決めたとき――突然、リビングのドアが開く音がした。

 驚いてそちらを見ると、芽衣が姿勢よく立っていた。気付けば菜子の弁解も止まっている。

 よく見ると、ドアの裏に人が隠れているような気がしないでもないが……

「芽衣、降りてきたってことは出来たってこと?」

「はい」

 美紗子の期待を込めるような質問に、芽衣がいつもの笑顔で答える。

 出来た、とは何の事だろうか。

「ほら、恥ずかしがってないで出てきたらどうですか?」

「そ、それは……」

 守の疑問は解決しないまま、芽衣が隠れている人陰の腕を引っ張り始めた。

 声と状況からして、人影は梓のようだ。

「もう、行きますよ。そーれ!」

「うわっ!?」

 勢いよく引っ張られ、人影がついに姿を現す。

 その人物は予想通り梓だったのだが……見たとたんに言葉を失った。

「…………その、どうだ?」

 先ほどまでの雑な格好とは違い、髪もしっかりと整えられていて、服も女子高生らしいものに代えられている。

 腕に傷がついたりしているが、その様子は大和人形のようで、昔の梓をそのまま大きくしたような、先ほどまでのガサツな様子は一切無く『大和撫子』、それを絵に描いたような印象だ。服も女子高生らしい、と言っても無駄な飾りが無く、梓らしさを引き立てていて、照れているために赤くなっている顔もまた可愛らしい。

 今まで芽衣が席をはずしていたのはこのためだろう。服は美紗子のもののようだし、それで美紗子も席をはずしていたようだ。

 あまりの美しさに、体が動かずにいると、

「ほら、守様。感想を言ってあげたらどうですか?」

「そ、その……」

 そんな芽衣の言葉に背中を押され、何とか口を開く。

「可愛いと思うぞ。すごく可愛い」

「……そ、そうか。ありがとう」

 守が感想を言い終えると、梓は今まで以上に顔を赤くして恥ずかしそうにお礼を言ってきた。

 話し方は違うけれど、自己謙遜するところや人の言葉を素直に受け入れて礼を言えるところなんかは昔の梓と変わっていないらしい。

 そんな様子に守が胸を下ろしていると、左右からもの凄い圧力を感じた。

「でさ。なんで守君は菜子ちゃんのことを知ってたの?」

「そ、それは――」

 それを見かねた涼子が出してくれた助け舟に、ありがたく乗っかる……つもりだったが、説明のしかたが出てこなかった。軽く愛想笑いで時間を稼ぎながら考える。しかし特にいい案も浮かばなかったので、ありのままを述べる事にした。

「何故かいつも夢の中に菜子が出てきてて、それでその少女がこうやって現実に現れたって訳だ」

 上手く説明できたか分からないが、とりあえず説明を終え安堵していると、再び左右から怒気を感じた。

「守、まさかそこまで頭がいっていたとは知りませんでしたわ」

「ねえ、その頭ってショック療法とかで治ったりする?」

「いや……」

 ひたすら嫌な予感しかせずに左右を見ると、既に立ち上がっていた美紗子と奈緒が怒りをあらわに守を睨みつけていた。

「とりあえず黙りなさい、このド変態!」

「げぼふっ!」

 美紗子の叫びと同時に、守の頭はストレートと回し蹴りによって強打された。

 守があまりの痛みに机に伏せている間にも、菜子が補足説明を加える。

「えーっと、私が宇宙からのエネルギーを使って、守が生まれた時から守の夢の中に入り込んでたんだ。私が守の記憶をそのたびに消したから本人に自覚は無かったんだけどね。だから私も守と幼馴染ってわけ。ちなみに、そんな訳だから守は中学二年生じゃないよ。ドゥー・ユー・アンダースタン?」

「分かってるわよ、そんなの」

「当たり前ですわ」

 菜子が訳のわからない説明と共に、守の無罪を証明(?)してくれていた。それに二人は頷いたが……本当に分かっているのだろうか。……いや、あの目は分かっているのかもしれない。だったら何故あの二人は怒りだしたのだろうか。菜子の不思議な口癖と共に謎である。

「で、お前もこの家に住むのか?」

 そろそろ痛みも引いてきたので、守は顔を上げて一番気になっていた内容を菜子に尋ねる。

 菜子とは今日が初対面には違いないが、一応幼馴染なようなので可能性が無くもない。これだけ人数がいるわけだし、今さら一人や二人増えたところで変わりは無い。

 守が半ばあきらめの気持ちで返答を待っていると、

「楽しそうだけど、守の願いを壊す事になっちゃうから私はいいや」

「え?」

 予想とは違った菜子の返答に、守は内容を理解するのに数秒かかった。だが、すぐにその言葉の意味を理解する。

「ねえ、おにーちゃん」

「何?」

 理解した直後、杏子に呼ばれたので顔を向ける。

「おにーちゃんは何をお願いしたの?」

「それだけは聞かないでください」

 これだけは誠心誠意頭を下げた。女子の前で八人の異性の幼馴染と同居することが願いです、なんて言えるわけが無い。たとえ不本意だったとしても。それもその対象を相手にならなおさらだ。

「私、そろそろ帰るね」

 そんな菜子の声に顔をあげると、既に菜子がドアのところまで移動していた。

「それじゃあ、またね」

 それだけ言い残すと、誰も何も言わない中、菜子はスキップしながら玄関へと歩いていった。

 

 ――こうして、守と八人の幼馴染による同居生活が始まったのである。


さて、ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

ご覧のとおり、小説大賞への応募分の投稿を終えましたので、ここでこの作品は一区切りとなります。

いかがだったでしょうか?

感想などがございましたら、感想欄でもメッセージでもいろいろ聞かせていただけたら嬉しいです。

もし挿絵などを入れていただける方がいらっしゃいましたら、メッセージなどでご連絡ください。

また、キャラクター人気投票も引き続き行っていきますので、そちらもよろしくお願いします。


さて、ここからは今後のことについて書かせていただきます。

今後のことですが、以前はそのまま未公開部分を小説一冊分ほど続けて公開する、と言っておりましたが、その予定は作者の都合により中止させていただきます。

この小説自体最初に書ききった作品ということで思い入れがあり、キャラクター自身もまだまだ掘り下げたりないところも多々ありますので、続きの執筆は続けていきます。

早ければ十月ごろには投稿したいな、と思っております。

詳しい理由は、後々活動報告の方に記載いたしますので、気になる方はそちらをご覧ください。また、途中経過などもそちらで報告いたします。

それでは、しばらくお待たせすることになりますが、それまで楽しみにしていただければ幸いです。

これからも、よろしくお願いします。


2012.8.17 fly

MIDONA

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