二
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その日の夕食はカルボナーラだった。それは相変わらず一流レストランを凌ぐほどの美味しさだ。口に入れただけで、幸せな気分になった。
周りを見るといつもの面子がおいしそうにスパゲッティをそそっている。この同居生活に、守もそろそろ慣れつつあった。
美紗子は風邪をひいたこともあり、昨日から自宅で過ごしている。だが今晩からは萩本家に戻ってくるらしい。美紗子の帰りを密かに楽しみにしている自分がいるのを守は珍しく気付いていた。
夕食自体はいつもと違う点などあるはずもなく、いつも通り楽しい会話がなされていた。
《ピンポーン》
そんな中突然鳴り響いたドアチャイムに、一番出口に近い位置に座っていた美香が玄関へと向かう。芽衣が出ようとしていたが、キッチンに一番近い席、つまり出口から一番遠い位置になってしまうので美香が芽衣を制した。
美香が雑用を受け持つのはこのごろでは珍しくないことだ。同居人数が増えていくにしたがって、例の社交的な性格が強くなり、守以外の頼みなら基本的に引き受けるし、自主的に色々行うようになっていた。
美紗子が帰ってきたのかな、などと思っていると、
「宅配便でーす!」
美香が玄関に着いたのか、リビングでもハッキリと聞き取れるほど大きな声が聞こえてきた。
おそらく印鑑が必要になるので、探すために席を立つ。と同時に、あわただしい足音がリビングに迫ってきた。
「お兄ちゃん、どうしよう……」
尋常でない様子の足音と同時に開けられたリビングのドアの方を見ると、顔を真っ青にした美香が立っていた。
それとほぼ同時に、奈緒の携帯の着信音が鳴り響く。
「美香、どうした?」
「げ……玄関に、配達員の格好をしたヤクザみたいな人たちがいる…………」
「ヤクザみたいな配達員じゃなくて?」
「そんなわけ無いでしょ」
美香の様子があまりにもひどかったため、冗談交じりに言ってみた。普通に考えてそんな人がいるとも考えにくいし。それに、うちがヤクザに狙われる理由も無い。
考えてみると、久しぶりに美香と普通に話したな。この状態の相手を前にこんなことを考えるのは、不謹慎かもしれないけど……。
いくらこんな返しをしても、美香の様子が戻らないので、少し疑問を覚えてきたところ、
「守、ふざけてる場合ではないですわよ」
電話を終えた奈緒が、携帯を折りたたみながら席を立った。
「それって……」
「この家を見張らせている者から連絡がありましたが、この家の周辺を黒服の一団に囲まれているようでしてよ」
「はっ!?」
あまりにも常識はずれな状況に守がついていけずにいるうちにも、奈緒が周りに目を配る。
「その輩の原因は……聞くまでもなさそうですわね」
「……へ?」
奈緒の視線の先を見ると、涼子に抱きついて今にも泣き崩れそうな杏子と、顔を真っ青にし珍しく余裕の無い様子の涼子がいた。
様子からすると……あれだな。あの火事のあとに二人の両親から借金の返却を求めるために、ホテルに押し寄せたっていう。他に考えられないし。
やっと守の脳が状況についていけるようになった所で、
「……って、囲まれてるって、どうすんだよ?」
美香、芽衣と話し合っていた奈緒の顔がこちらに向けられた。
「そうですわね。守、あたくしの近衛部隊を呼んでも到着までに時間がかかりますし、それまであたくしと芽衣だけで涼子と杏子を含め全員を守りきるのは無理に等しいですわ。ですから、二人を連れて芽衣と共にこの家からお逃げなさい」
さすが一条院家、まさか奈緒が自分の近衛部隊まで持っていたなんて。
「……って、何で俺!?」
「あなた男でしょう。芽衣もつけますから大丈夫ですわ」
「奈緒様。ですからこの程度の人数なら、わたくし一人で――」
「芽衣が一人で勝つことなら可能でしょうけど、この人数を守りきることが可能でして?」
「それは……」
このリーダーシップ。さすがは奈緒だな、などと思っていると、
「すいません、まだでしょうか?」
玄関の方からドアをたたく音と共に、丁寧な口調とは明らかに釣り合わない、怒鳴りつけるような声が聞こえてきた。
今すぐにでも殴り込んできそうな状況に、守は拳を強めに握って、
「分かった。涼ねぇ、杏子ちゃん。逃げよう。芽衣、護衛頼む」
「……分かったわ」
「お任せください」
決意を決めて周りを見ると、かろうじて意識を持っている、といえる状況の涼子が頷いていた。芽衣からも了承の声が聞こえてくる。
「気をつけてね」
「必ず無事で帰ること、いいですわね?」
「二人もついて来るよな?」
全員で逃げるつもりでいたのだが、二人の言葉から察するにそうではなさそうなので、聞き返すと、
「誰かが逃げるまでの時間を稼がないといけないでしょ」
「だったら、それは俺が――」
「守、おそらく敵は涼子さんと杏子を狙って動くはずです。ですから、あなたは逃げる側にいるべきですわ」
――引き受ける、と続けようとした守だったが、奈緒の力説に最後まで言うことが出来なかった。確かに奈緒の言っていることは正しいと思う。しかし時間を稼ぐ側にも危険が及ぶのも確かで……
「守様、申し訳ありませんが、わたくしは美香様の安全のために残――」
「残る、とか言い出すのではありませんわよね?」
「でないと、美香様の身が……」
勢い良く言い出した芽衣だったが、奈緒の様子に押し切ることは難しそうだった。
守も芽衣に残るように伝えようと思ったが、言える様子ではなかったので内心に留めておく。
「芽衣、あなた無しでは守たちが逃げ切るのは絶望的です。それに――」
奈緒の様子が今までとは一転して、穏やかな笑顔を見せる。
「一条院の名にかけて、美香一人ぐらい守りきって見せますわ」
あまりにも落ち着いた奈緒の様子に、守も芽衣もそれ以上は何も言えなかった。
そのやりとりの間にも男の声が大きくなり、ドアが壊れそうなぐらいに叩かれている。
「上手くやってよね」
それだけ言い残し、美香が玄関の方に走り去ってしまう。
「守様、早くこちらへ」
既に裏口に向かっていた芽衣から、自分を呼んでいる声が聞こえてくる。
「奈緒、美香を頼んだぞ」
「ええ。部隊が到着し次第、急いで合流いたしますわ」
それだけの短いやりとりを交わし、裏口へと向かった。
「えっ? さっちゃん!?」
逃げる途中で食卓に座ったままの早知を見かけたが、芽衣に手を引かれたため、そのまま逃げるしかなかった。
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