五
「美香様、そろそろ皆様を呼びに行って来ますね」
夕食をさらに盛り付け終えたので、夕食にしようと芽衣がそう提案する。
「あ、私も行っていい?」
美香がそう聞くと、最初は主人の手を煩わせる訳にはいかない、と断られたが、二回目を聞くと意味を理解したのか快く許可してくれた。
仕事熱心過ぎるところが玉にキズだが、しっかりとこっちの意図を理解してくれるからありがたい。
「美香様、夕食の準備を手伝わせてしまって申し訳ありません」
「いいよ、今日はお兄ちゃんが手伝えないみたいだし」
階段を上りながら夕食の支度についての礼を言われたが、美香は軽く笑って返す。
普段は守と芽衣の二人で支度をしているし、守がいないときぐらい自分が手伝うべきだ、ということぐらい美香も理解している。
今日の放課後にあったらしい歓迎会の様子を、芽衣から聞きながら階段を上がっていく。すると、一番初めにある美紗子の部屋にたどり着いた。
芽衣に視線で確認を取ってから、美香はドアをノックする。
暫く応答を待ったが帰ってこなかったので、出来るだけ音を立てないようにドアノブに手を置いてドアを開けると――
「あらあら、2人とも寝ちゃってますね」
「ほんとだ」
部屋の中では、ベッドで熟睡している美紗子と、椅子に座ったまま前のめりに眠っている守がいた。
芽衣は二人を起こさないように気をつけながら、何も掛けずに眠っている守に布団をかけに行く。芽衣についていくと、美香は守と美紗子がお互いの手を握り合って眠っていることがわかった。その姿に、ついつい嫉妬の気持ちが生まれてしまう。
「何でこんなに仲がいいんだろうね、この二人って」
「理由は分かりませんが、相変わらずですね」
芽衣は布団をかけ終えると、少し離れたところで守たちを笑顔で見ていた。
「いいの? このままだとお兄ちゃんを取られちゃうよ?」
「そうかもしれませんね」
メイドという立場でありながら、守に好意を抱いている芽衣にそう聞くと、よほど余裕があるのか落ち着いた回答が返ってくる。
「美香様こそ。あまり守様との仲がよろしくないようですが、大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ、何とかするから」
その答えにあまり自信が無いのを隠すように言い捨ててから、守のほうを見る。
そこには幸せそうに眠っている兄がいて、自分に対する自身が段々と薄れてくる。
どうして守は兄のことが好きな妹がいるのに気付かないのだろうか。いつもの態度で気付け、という方が無理かもしれないが。
一応、妹として兄のことが好きなのは普通ではない、という自覚くらいはある。でも、好きなのには変わりないし、血はつながっていないので、特に問題は無いはずだ。
どちらにしても今のままの関係では進展しそうに無いので、早々に良い関係に戻さないといけないが。いつまでも、反抗期のときのことを引きずっているわけにはいかない。
そう心に決心すると、
「そろそろ、他の人を呼びに行こ。夕飯冷めちゃうよ」
「はい。そうですね」
芽衣の手を引っ張って、出口へと向かう。
いくら夕食のためとはいえ、こんなに幸せそうに寝ている人を起こすのは無粋だと思うし、何となく兄の幸せな寝顔を崩したくなかった。
「おやすみ、お兄ちゃん」
美香はドアを閉めながらそう呼びかけると、芽衣と共に隣の部屋へと向かった。
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