三
静まり返った空間に、階段をのぼる音だけが響き渡る。
守はそんな我が家に、少し寂しさを覚えた。
美香と二人で暮らしていたときには普通のことだったのに、今はそんな風には思えない。家に帰ればいつでも誰かがいるし、寝静まった時を除いて萩本家の姦しさが止むことはない。それが今の萩本家の日常だ。
その変化もここ一週間ほどで起こったことなのに、遠い昔のことに思えてくるから不思議なものである。
守が家に帰ると、事前に聞かされていたとおり、涼子や美香達はまだ帰っていなかった。そのまま中へ入ると、人が活動している気配はない。美紗子も起きてきていないようだった。手を洗った後、出来るだけ静かに自分の部屋に向かい、着替えなどをすませる。
その後、お茶を飲もうと台所に向かった。台所は今朝使用したままの状態から変わっていなかった。美紗子が昼すら食べていないと判断した守は、お粥を作ることにした。
それを終えた今、守は手に持ったお粥に気を配りながら、埃の一切無い手入れの行き届いた階段を再び登っている。数分後、守は美紗子の部屋の前に立っていた。
寝返りを打つ音だろうか。部屋の中からは、布が擦れるような小さな音が聞こえてくる。
守は手に持ったお粥を床へと置き、ドアをノックしようと右手を上げ――その手を元に戻す。寝ている美紗子を起こしてしまう可能性に気づいたためだ。もし本当に寝ていたら、作ったお粥が無駄になってしまう。とはいえ、やってしまったことを後から悔いても仕方がないので深くは考えない。
どうせ美紗子はベッドで横になっているだろうし、ノックをしなくても特に問題無いだろう、と思いドアを開け――
「……」
「……」
予想もしていなかった光景を前に、美紗子と見つめ合う形になった。
美紗子にとっても突然のことだったらしく、どちらも微動だにしない。
その部屋だけ時間が止まったような錯覚に陥るほどの静かな空間に、心地よい春風が吹き込んだ。
部屋の中にいた美紗子は、恐らく着替え途中だったのだろう。その身には白と水色のストライプの上下の下着しか身にまとっておらず、手は胸の前で左右を重ねてあり、その中には脱いだばかりであろうパジャマがあった。
そんな殆ど生まれたばかりの姿であるが故、守の視線は自然に顔から体の方へと流れていく。
胸はやはり程よく育っている。また、服の上から見る時よりも大きく感じられて、改めて美紗子が異性だということを強く意識させられる。
そして、胸とは正反対のくびれ。奈緒の様に胸との大胆な段差がないが、逆にそれが胸や腰と組み合わさって、程よいバランスのとれた美しさを作り出している。
奈緒ほどではないにしろ、腰もぷっくりといい感じに膨れている。
見えている肌は傷一つなく、とても綺麗で、各部位も女性的な暖かさを持っている。
そんな幼馴染を前にすると、やはり相手が異性であることが感じられて、その美しさと相まって、緊張と見とれてしまうのとで、先程よりも体が固まってしまった。
何秒そうして見つめ合っていたのだろうか。
その沈黙を打ち破るように再び吹いた春風は先ほどよりも強かったらしく、机の上にあった1枚のプリントを吹き飛ばした。
それを合図にしたかのように、美紗子の顔がリンゴのように真っ赤になるのを確認し――
「――%#&☆*%☆」
美紗子の聞き取れない叫びが聞こえ、守の視界が突然に真っ暗になる。
それと同時に心地よい温もりと、心安らぐ香りが顔面を覆っているのを自覚したが――守は本能的に身の危険を感じ、急いで部屋を出る。そのまま右手に持っていたドアの取っ手を強く握りしめ、勢いよくドアを閉めた。
その直後――
「出てけ、このド変態!」
そんな叫び声と共に、ドン、と鈍い音がドアからするのを聞いて、守は安堵の息をもらした。
その時に吸った空気から、守は自分の顔についている物の正体をふと疑問に思い、それをはぎ取ってみる。
するとそこにはピンクを主体とした服――美紗子がさっきまで着ていたパジャマ――が握られていて、守は自分の顔が赤くなるのを感じた。
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