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ジミ’s×8~8人の幼馴染と同居することになりました~  作者: MIDONA
七章〜あたくしに、廊下で着替えろと申しますの!?
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 帰りのSHRが終わり担任の佳奈子が教室から出て行くと、クラス委員である大樹がプリントを配ってから転校生(尚・早知・芽衣)の歓迎会についての概要を説明していた。もちろん、もう一人のクラス委員である美紗子の姿は無い。

 守はその様子を、なんとなく眺めていた。

 一週間前にこの企画が持ち上がったときには、幼馴染たちをクラスに馴染ませようとしてくれるクラスメイトの気持ちは嬉しかったし、今でもそう思っている。また自分が参加することが嫌だったわけでもなく、むしろこの日を楽しみにしていたくらいだ。

 それなのに何かが心の中にあって、説明の内容が頭に入ってこない。

 何とか頭に入れようと、手元にあるプリントに目を落とす。

 内容はボーリングを二ゲームほどやった後、カラオケに行くという高校生の王道ルートらしい。

 詳しい時間は記されていないが、帰りは早くても七時頃になるだろう。美香や涼子が帰ってくるとはいえ三人とも今日は用事があると言っていたので、少なくとも六時ごろまで美紗子を一人にしておくことになりそうだ。

 そうなると、風邪で寝込んでいる美紗子のことが気がかりだ。でも美紗子ももう高校生だし、それくらいは大丈夫だと思う。

 そう思って、歓迎会のことを考えても何故か頭がもやもやしてくる。

「……様、守様、大丈夫ですか」

「……?」

 突然呼びかけられた声に顔を上げると、そこには制服に身を包んだ芽衣の姿があった。

 周りを見渡してみると、既に説明が終わったらしく話しながら教室から出て行く人影も見受けられた。

「そろそろ、わたくし達も出た方がよろしいかと――」

「ああ、行こう」

 守は芽衣の言葉を遮るようにそう言うと、自分の鞄と芽衣の腕をつかんで、いつものメンバーが集まっている方へと走る。

 特に急ぐ理由は無かったが、何かが守を急かした。

 そして合流してから階段を通って、雑談しながら下駄箱へと向かう。

 その様子を、守は一歩後ろから見ていた。

「はあ……美紗子さんの歌、楽しみにしてたのに残念だな」

 下駄箱についたとき、不意に大樹がつぶやいた。

 靴を履きながら地面に向けてつぶやいたあたり、大樹としては心の声が漏れてしまったらしい。

 相変わらず大樹は美紗子に熱心だな、と、普段ならそんなことを思っていただろう。

 しかし、今は何故かその言葉は守の心に重くのしかかった。

 理由は分からない……のではないだろう。客観的に見れば一目瞭然だ。美紗子が原因としか考えようがない。

 それが今まで思いつかなかったのは何故だろうか。自分のことで、守自身が歓迎会を思いっ切り楽しめないと美紗子がつらい思いをするから?

 いや、それは違う……と思う。たしかに美紗子は自分のことを気にかけられて、守が歓迎会を楽しめなかったらいい思いをしないだろう。でもそれは守が美紗子のことから逃れようとするための言い訳で、理由を思いつかなかった原因ではない。

 それが分かってしまった限り逃げるわけには行かないな、と心に言い聞かせ、隣にいた人影を見る。すると、尚が何故かしかめっ面をしていた。

「尚、歓迎会に出ずに家に戻るからよろしく頼む」

「守様、どこか具合の悪いところでもございますか?」

 尚に話しかけたのだが、返ってきた返事は芽衣のものだった。

「いや、そうじゃなくて……」

「どうせ、寝込んでる正妻のことが気掛かりで仕方ないんだろ」

 上手く言えずにあたふたしていると、こちらの気を察して浩太が補足をしてくれた。言い方は相変わらずだが、こういう時は言いたいことを分かってくれるので助かる。

「それでしたら、わたくしが……」

「いや、お前は歓迎会に行け」

「しかし――」

「主役がいないと、どうしようもないだろう」

「でも……」

 守は何とか芽衣を説得しようと試みるが、芽衣も相変わらず頑固でなかなか聞き入れてくれる様子もない。

「だから、お前がいないと、金棒のない鬼というか、木から落ちない猿というか……」

「それは、その状態が普通ではないのでしょうか……ともかく、わたくしが美紗子様のところに――」

「岩井、行かせてやれ」

 浩太が、芽衣の肩をつかみ呼びかけた。

「鈴木様――――気軽に触れないでください。セクハラで訴えて差し上げましょうか?」

「肩に触れただけで?!」

 芽衣は笑顔で受け答えたが、明らかに目が笑っていなかった。まあ、どさくさに紛れて素肌に触れようとした、浩太の自業自得だが。

 しばらくして浩太が落ち着いた後、芽衣は真面目な表情になってこちらに向き直った。

「守様、薬はリビングのいつもの棚に入っております。また、食材は冷蔵庫に入っておりますので。あと、綺麗なタオルは――」

「芽衣、大丈夫だから。ありがとな」

 このまま続けさせると終わりが見えなさそうなので、あえて言葉を被せた。

「それじゃあ、よろしく頼む」

 それだけを残し、背中を向けようとすると、

「……守様。何かございましたら連絡いただければ、すぐに駆けつけますので」

「……マー君、看病頑張ってね」

「二人だけだからって、羽目を外すなよ」

「美紗子さんによろしく伝えてくれ」

 各々、応援の言葉をかけてくれた。浩太は相変わらずだが……。

「ありがとう。それじゃ」

 みんなの気持ちに答えるように、笑顔で返事を返してから、校門に向けて走り――出してから数秒後、突然学ランの袖を掴まれた。

「おい、誰だ――」

 転びそうになりながらも後ろを向くと、顔をうつむけた尚がたっていた。

「守……」

 奈緒の出した声はいつもの様子とは違い、はっきりしない声だった。

「どうしたんだ?」

 と、声をかけると、奈緒は意を決してこちらに目を向ける。

「二人だからって、変なことをしたら許しませんわよ」

「んなこと、しないって」

 口調はいつもの高圧的なものだったが、その声にあまりに勢いがなくて、つい突っ込みも静かになってしまう。

「あと……」

「どうした?」

 続く奈緒の言葉も、いつもの勢いがない。

 奈緒はしばらく黙っていた後、意を決したようにこちらに目を向けてくる。

「今度、一緒に遊びに行く。それで許して差し上げますわ」

 その言葉を聞き、守は奈緒の心理を理解した。

 同居している、といっても、これまで忙しかったせいで、奈緒が日本に戻ってからゆっくり遊ぶ時間を取れていなかった。それ故、奈緒は今日を楽しみにしていたし、守も一緒に参加して欲しかったのだろう。

 でも、守は歓迎会に参加するわけにはいかない。

 そうなると、守の返事は自然と決まった。

「そうだな。今度、一緒にどっか遊びに行くか。もちろん美紗子も一緒に」

「……ったく、相変わらずですわね」

「は?」

 奈緒は一瞬、安堵の顔を見せたかと思うと、いつものように胸の前で腕を組んで、軽い哀れみの視線を向けてきた。

 何かいけないことを言っただろうか。相変わらず、乙女心は分からないものである。

「早くお行きなさいっ」

「ああ」

 今度の声はいつも通り覇気のある声に戻っていた。だが守は、奈緒の様子の突然の変化に驚いてなかなか足が動かない。

「いいから早く!」

「おう。ありがとな!」

 奈緒の力強い言葉に、守は家へと駆け出した。




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