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ジミ’s×8~8人の幼馴染と同居することになりました~  作者: MIDONA
六章〜俺は普通に答えればいいかを聞いただけだ!
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「この問題なんだが……」

「分かりましたわ」

 部屋に入って間もなく、守は鞄の中から紙の束を取り出して、奈緒に渡す。問題の内容は、英語だ。

 奈緒はそれを受け取ると、問題を読んだ後――そのまま動かない。

「もしかしてお前、わからなかったり――」

「ははは……何を言ってるんですの? イギリスからの留学生であるあたくしがこの程度の問題で……」

 奈緒が明らかな作り笑いで、妙にぎこちなく返事をした。

 絶対分かってないよな、と思いながら守が見ていると、奈緒は満面の笑みでプリントを差し出しながら、

「こんな問題、解けなくてもさして問題はありませんわ」

「んなわけあるか!」

「そうよ!」

 何事も無かったかのように終わらせようとした奈緒に突っ込みを入れる――と同時に、聞こえてきた賛同の声に違和感を覚え、そちらを見る。

「美紗子?!」

「ちょっと見せてみなさい」

「おう」

 美紗子があまりにも一方的な態度だったため、守は美紗子に色々聞くことができなかった。その間にも、手に持ったプリントを半ば奪い取られた。

「ここは、Mike studied hard so as to pass the entrance exam.が答えで、in order toをso as to passにするだけだから――」

 美紗子は一瞬考えただけですぐに答えを導き出し、解説も付け加えてくれる。

 さすが学年上位の成績だけあって、説明が分かりやすい。慣れているせいもあるかもしれないが、守が分からないところをピンポイントに説明してくれていて、一回の説明で問題なく理解することが出来た。

「――にしても、なんでイギリスに住んでたのに英語の問題が解けないのよ」

「別に、こんな問題が解けなくても英語で会話くらい出来ますわ。第一、日本の英語は的外れすぎなだけですの!」

 一通り解説を終えた美紗子が、奈緒をバカにするように質問を投げる。奈緒もそれに対抗するように答える。

「そういうなら、あなた、海外に行って英語を話せる自身がありますの?」

「無いわよ。話せる必要ないし。それに、あんたがこの問題を分からなかった事実は変わりないし」

「――ッ」

 何でこの二人が一緒にいると、すぐに喧嘩に発展するのだろうか。

 昔からそうだったから直せと言う方が無理かもしれないが、直してくれるとありがたい。喧嘩するほど仲がいい、って言葉があるし、この喧嘩は中が悪いわけではないようだが……それでも、守にとって迷惑なことには変わりない。

 余談だが、奈緒曰く、英語圏ではこのような言い換え問題(?)など出題されるはずも無く、本場のイギリス人にやらせても解けない可能性は充分あるらしい。逆に美紗子の言葉通り、いくら日本で英語の成績がよくても、海外に行くと英語が使い物にならないことも珍しくない。これは英語と英会話が別々にあるのと同じ話で、前者が英会話、後者が英語(学?)にあたるらしい。

 これ以上発展して殴り合いになってもかなわないので、守は場の雰囲気を変えるべく話題を切り出した。

「そういえば、美紗子は何でこの部屋に来たんだ?」

「あたしも守の勉強を見るためよ」

「お前、早く寝なくて大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。あたしをいくつだと思ってるの?」

 奈緒は勉強が出来ることには変わりないが、説明が直感的過ぎて正直教え方が分かりにくい。いわゆる、天才型の思考というやつだろう。それに対して、美紗子の説明は順を追って解き方を説明してくれるのでわかりやすい。それもあって、美紗子もいてくれた方がありがたいのだが……美紗子は基本的に朝型だ。つまり朝早く起きる分には何ら問題ないのだが、夜は早く寝ないと体調を崩しやすい。小学校のころは寝不足が原因で何度も熱を出したりしている。

 しかし、それも小学校のときの話。人は成長するものだし、本人が大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろう。

 守はそう判断し、美紗子に返事を返そうとして、

「素直じゃありませんわね。夜が怖くて守に手を握っていてもらわないと寝付けないのなら、素直にそういえばよろしいのに」

「そんなことあるわけ無いじゃない。あんただって、熊のぬいぐるみを抱いてないと寝れないくせに」

「それはここでは関係ないでしょうっ!」

 再び美紗子と奈緒は言い合いを始めた。

 それにしても、何でこんな短時間で再び言い合いが始まるのだろうか。

 このまま待っていても喧嘩が激しくなる一方なので、守は喧嘩を止めるべく再び話題を変える。

「とりあえず、生物の宿題から見てもらいたいんだが……」

 守は鞄から生物のテキストを取り出しながら、わざとハッキリとした大きな声をかける。

 すると二人は言い合いをやめ、守を挟み込むような形で立った。美紗子が右側、奈緒が左側だ。

 わずかに感じる甘い香りが鼻腔をくすぐる中、守は問題を解き進めていく。

 内容が中学の復習ということもあり、しばらくは守が自力で解ける問題だった。

 最初のページが終わり、次のページへと移る。

 一問目を見ると『魚類の生殖方法を答えよ』という問題だったので、

「ええと……」

 一度頭の中で文章をまとめた後、回答をテキストに書き込む。

 そのまま、二問目に目を向けると『人間の母親が子供を産むまでの過程を答えよ』と言う問題だった。

 学校の教師が作った問題のためか、少し問題文が変な気がする。しかし、回答は問題なく分かるので、先ほどと同じく文章をまとめるべく悩みながら視線を横にやると……ベッドが目に入る。

 あそこで子宮に入った精子が卵とくっついて……って、あれ? その前の手順も書いた方が良いのだろうか……さすがにそれはまずいだろう。

 しかし、子供を産むまでの過程って書いてあるし。

 ……だからといって、学校の問題でそんなところまで書かせるのだろうか。

 でも生殖の仕組みでは無く、産むまでの過程って明記されているし。あの生物教師なら「保健体育の内容も含めて〜」とか言いかねない。

 仮にそれが間違いで、浩太あたりに見つかったら、どんな噂が学校に流れるか……。

 とはいえ、ただでさえ成績が良い訳ではないので、出来るだけ正答率を上げておきたいのは事実だし……。

 頭の中を整理するため、再び周りを見回して……またもベッドが目に入る。それと一緒に、乾ききっていない入浴後の奈緒の黒髪が目に入ってきて……その二つが頭の中で結びつき、脳が勝手に桃色の想像を始める――前に、今とは逆の方向に視線を向ける。

 すると今度は同じく入浴後の美紗子の髪と胸が目に入って、それがさっきのベットとつながって……。

 一人で考えていても思考が変な方向に飛んでいくだけなので、美紗子と奈緒に質問すべく口を開く。

「あのさ、この問題なんだけど――」

「生物の説明なら得意よ!」

「今度はしっかりと解説してみせますわ!」

 話している途中で二人が身を乗り出して来た。そのときに強くなった香りのため、守は言葉を飲み込んでしまった。

 しかし、何で女子ってこんなにいい香りがするんだろうか。

 髪の毛を乾かしてある美紗子からは、柔らかくて暖かい香り。まだ髪が湿っている奈緒からは、シャンプーの柑橘系の香りがする。

 それは思っていた以上に男性本能を刺激するもので、今まであった嫌なことなんて何もかも忘れられそうだ。

 守が乙女の香りに浸っている間にも、問題を読んでいる二人の顔が見る見るうちに赤くなっていく。

「……まさかあんた……これをあたしに説明しろと…………」

「……こんなことを乙女に質問するなんて…………」

 二人がつぶやきながら守のほうを見る。

 あまりよろしくない空気を感じ取った守は、二人の言葉から状況の推測に勤める。

 守が質問したのは『人間の母親が子供を産むまでの過程を答えよ』と言う問題で、それを普通に受精の方法を書けばいいのかと聞こうとした。

 しかし、それを途中までしか言えず、二人はその問題の答えを出すのではなく、解説しようと張り切っていたのであって……

 守は一つの答えを導き出し、即座に弁明すべく口を開く。

「いや、俺が聞きたいのは、普通に答えればいいかだけで――」

「誰があんたにこんな説明するか、このド変態!」

「守、最低ですわ!!」

 顔面に美紗子のストレート、後頭部に奈緒の回し蹴りが同時に炸裂する。

 二つを同時に受けた時の痛みは、普段の片方ずつの痛みとは比べ物にならなかった。

 まだ鈍い痛みが残っていたが、守はそれを振り切るように思いっきり叫んだ。

「俺は普通に答えればいいかを聞いただけだ!」

「それなら――」

「――普通に書けばよろしいでしょう」

 守が叫ぶと、二人は何も無かったように平然と答える。

 多少ボヤっとしたピントを合わせながら、テキストに答えを書き込んだ。

 しかし、このやりきれなさは何だろうか。二人の勘違いで蹴られた上に、謝罪すら無しとは。

 その後も勉強会は続き……何とか宿題が終わったのは普段よりも二時間ほど遅い午前二時ごろだった。

 だが悲劇はこれだけでは終わらず、この後何日も、守は勉強会という名の地獄に足を踏み入れなければならなかった。




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