三
その日の放課後。先日は美紗子と二人で通った道を、尚と早知を含めた4人で歩いていた。
「しかし、何で今更あの占い師のところなんだよ?」
「もう一度、お願いするためよ」
美紗子が答えながら、手に持ったアイスをスプーンで取って口に運ぶ。
今日はいつもに比べて暑かったので、通り道にあったワゴンでアイスを買った。味は守と尚がソーダ、美紗子がミックスベリー、早知がバニラだ。
季節はまだ春だが、久しぶりに食べたアイスは格別においしく感じられた。
「……みっちゃん、何かお願いしたいことあるの?」
「前に頼んだことが起こってないみたいだから、もう一度お願いしに――って守、なにしてるのよっ?」
「ん……ミックスベリーも割といけるな」
もうすぐ無くなりそうになっていたので、美紗子のアイスをつついてみたところ、ものすごい形相で睨まれた。この頃の美紗子は、今までは普通にやっていたことに対しても妙に敏感になっている節がある。
ついでにいうと、美紗子の願いは守に不幸が訪れること、という内容だったが、それは十分に起こっていたりする。しかしその内容は同居人数が増えたたことで起こったことばかりなので、ここでは口にしないが。
「ほら」
「何よ?」
何も忠告せずに取った自分も悪いので、守はお返しとして自分のアイスを一口とって美紗子に差し出す。
「ソーダもうまいぞ。食ってみろよ」
美紗子がなかなか食べようとしないので、再度スプーンを美紗子の方へと突き出す。すると、美紗子がやっとそれを口に入れた。
「……!!」
思った以上においしかったのか、美紗子は先ほどまでの表情とは一転しとても幸せそうな顔をしていた。
あげてよかったな、とこっちも幸せな気分になっていると、横から体をつつかれた。
「さっちゃん、どうしたんだ?」
「……みっちゃんだけずるい。……さっちゃんも食べたいな」
早知が、上目遣いでお願いしてきた。
「ほら」
「ありがとう、マー君」
……にしても、これは反則的過ぎて、あげないわけにはいかなかった。こんなことをされなくても、もちろんあげるが。
目の前では、早知がアイスをおいしそうに味わっっていた。
「はい、さっちゃんのもあげるね」
「おう、ありが――」
向けられたスプーンに口を持っていこうとしたところ、突然引っ込められた。驚いて早知の顔を見ると、なにやら悩んでいるようだった。
「はい、あーん」
「あ、あーん」
食べてみると、バニラといいながらも牛乳の味が強めで自分好みの味だった。
しかし、早知に乗せられてついつい言ってしまったが、実際やってみると恥ずかしいものであった。やりだした早知まで顔を赤くしているので、余計に恥ずかしい思いが強くなってくる。
美紗子の冷たい視線を感じながらも動けずにいると、今度は尚から声をかけられた。
「守……その……」
「どうした?」
声をかけてきた当人のほうを見ると、何かを言いたそうにしていた。しばらく待っていると、決意を固めたのか尚が口を開いた。
「よかったら、僕にも守のアイスをくれないか?」
「そんなことか……って、お前のは俺のと同じ味だよな?」
分かっていたことのはずなのに、尚は意表を疲れたような顔をしていた。
多分、話の中に入りたかっただけなのだろう。
特に交換する必要もないので、そのまま次を口に運ぼうとしたところで、
「マー君、そこはあえて交換するんだよ」
「何でだよ!?」
早知が異常に高いテンションで話しかけてきた。
「ここは、男同士のあつい間接キスを」
「男女間でならともかく、なんで男同士で――」
守は大きな威圧感を感じたので、最後の言葉を飲み込み、そちらに首を向ける。
「まさかあんた、そんなことを思いながらあたし達のアイスを食べてたわけ?」
「いや……」
あまりにすごい美紗子の怒りに、全然そんな気はないのにうまく反論できない。
助けを求めて尚のほうを向くと……なんだ、その期待するような目は。
守が必死にこの場から抜け出す方法を考えていると、目の前には以前に見た光景が広がっていた。
「なあ、この辺じゃなかったか?」
進行方向を指さして、美紗子に話しかけた。
「――えっ? ……いない、わね」
美紗子も怒るのをやめて、進行方向を見る。
周りの家や電信柱の様子を確認してみるがこの辺りで間違いないはずだ。
確認のために美紗子を見ると、その考えを肯定するように首を縦にふった。
「ってことは、やっぱりいないのね……」
その後しばらくの間周囲を散策してみたが、占い師は見つからなかったので、素直に帰宅の途についた。




