第五話 VITも減っていく
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かなりの売品数が一同に集まる露天街でも、この日彼がここで見かけた、エクストラクラスの武器防具を製作する素材となるランクのレアアイテムは僅かにふたつというありさまだった。
そのうちのひとつはボッタクリ値段のうえによく売りに出されている、さほど入手困難なモノでもなかったので、気分を悪くしてまで買うほどでもないと判断してスルーし、もうひとつは相場に近い値段だったので豊富な資金力によって即断で入手した。
これで少し前に口八丁で預かった形になる〈ヒエログリフの首飾り〉〈古の水晶版〉〈ダークマター〉をあわせると、手持ちのレア素材の数は総計四個。
レアアイテムが市場に出る率を考慮すると、その数は一日で集めたにしてはそれなりに良い成果であるとも言えるだろう。
そして今、おそらく引退者の持ち物の一斉処分あたりが理由であろうか。
メザマレックは、露天街の片隅で開かれていた即興オークションに参加していた。
「六十億で~」
「六十億入りました。さあさあ、これ以上ないですか~?」
「う~ん、六十一億!」
「七十億で~」
「七十一億でどうだ!」
「八十億で~」
「八十一億!」
「八十五億で~」
「八十五億、八十五億以上ありませんか~?」
「じゃあ締め切ります!
バルバトスの心臓は八十五億でメザマレックさんが落札です~
おめでとうございます。
早速、取引窓よろしいですか?」
「ほいほい」
(サクラあたりがいて値段吊り上げられるかと思ったけど、案外安く落とせた。
やっぱりただの引退オークションみたいだ。
帰ろうと思ったときにこんな出し物に遭遇するとか、ラッキーだ)
このように人々が品物を持ち寄って売りさばく場所では、お金というものは力であり、また正義とも言える。
勿論、それだけで全てが解決すると言い切るわけではないが、多くの人たちは多少自らの心の中に感情的にやりきれないしこりを持ちつつも、その情などが表層しか浸透しきれない《法》という見えざる縄に対し、ほぼ無条件に従わざるを得ない。
そして今、メザマレックは幸運なことに、その人たちを見下ろすヒエラルキーの頂点に近い立場にある。
しかし、だからといって彼はひたすら金をばら撒いてレア素材を買いあさることような愚行に酔うような事はしないし、するつもりもない。
何故なら経済という仕組みのもたらす相場の動きは、多くの人たちが関わることでまるで生きているかのように振舞うものであるからである。
買う方が必要以上に自分の欲をさらけ出せば、売る方もそれに便乗して出来るだけお金を巻き上げようと、求めるものの値段も上げていく。
当然のように無駄に値段を吊り上げさせるわけにもいかず、かといって出す金が少なければ買い求めることは出来ない。
また、不自然に相場より高いものを買いあされば、どうしても目立ってしまい、自分が不審人物として噂になっていくのはさけられないという事情もある。
結局、使い切れない金額を所持できても、自然さを装うのであれば《普段と同じようにケチって買い物をする》という苦笑するしかない結論しか導かれない。
だが、この引退オークションのように自然と安く捌かれる場においてはそこまで不自然さを気にする必要も無く、メザマレックは目的のレア素材の他にもいくつかの高レベルアイテムの競りにも進んで参加した。
そうしてこの日彼は、既に手に入れていた四個のレア素材に加え、〈バルバトスの心臓〉と〈鳳鯨の胆石〉のふたつを更に追加し、数時間の露天巡りでレア素材が総計六個、その他の掘り出し物が多数という予想以上の成果を得て、満足顔で帰宅の途についた。
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────何故エクストラクラスの武器防具は特別なのか?
────そして何故多く作られていないのか、何故普及率が低いのか。
その理由を考えるとまず第一に製作者が少ないことがあげられる。
今のレアアイテムの相場は、安いものでもひとつで約百億ゴールド。
モノによってはそれを使用する〈ユニーク〉のレシピが数人に知られていて買い求める人の間で競りが起きてしまい、単品での性能も影響し五百億を超えるものもある。
例えば百億のもので考えても、ゲームマネーからリアルマネーに換算するのに〈RMT〉でも約一万三千円、課金アイテムをゲーム内で売るような公式RMT行為で求めると約二万円となる。
もしこれらの素材を使って〈ユニーク〉が作れると一千億ゴールド程度の価値にはなるが、そもそもの素材の値段が高すぎる故に、チャレンジできる人も少なく、そうしてそんな少ない人たちに簡単に〈ユニーク〉が作れるはずも無くて、少ない中の多くの人たちがその高価なレアアイテムを一瞬にして消滅させてしまう。
大体に、多くの人たちはレシピよりも、実用性のある〈ユニーク〉のひとつの方を先に求める。
それ故にそれなりに腕の立つ鍛冶師でも、チャレンジするよりはレア素材を売って、そのお金で出来合いの〈ユニーク〉を求める場合が多い。
第二の理由にレシピが公開されないということがある。
レシピが公表されても、その特定素材の値段が上がるだけで、作る方には買いにくくなるのみであり、レシピを発見した人にとっては、まったく利益にならないからである。
当然いまだにエクストラクラスのレシピはひとつも公開というものはされたことはない。
〈ユニーク〉以上の武器防具は《特別》という意識がアルオン内では定着している。
第三にレアアイテムが非常に公に出にくいという原因がある。
露天や売買掲示板などに比較的出るものでも半月に一個、平均的にみても二月に一個、出にくいものだと半年で一個。
酷いものだといまだに一個も市場に出ていないものですらありえる。
ゲーム内での出現数に限りがあるのだから、最初に作る、レシピを解明するのにも試行回数が有限となる為、新しい〈ユニーク〉は作られにくく、一部の鍛冶師にレシピの解明された〈ユニーク〉も製作される数は制限されるのだ。
────今、目の前のちゃぶ台、上面に一文字《男》と大きくかかれているおよそ直径一メートル弱の台の上には、今現在メザマレックが所持しているエクストラクラスの素材となりうるレベルのレアアイテムの全てが所狭しと置かれている。
その数は、本日の露天巡りやオークションなどで手に入れた〈ヒエログリフの首飾り〉〈古の水晶版〉〈ダークマター〉〈バルバトスの心臓〉〈鳳鯨の胆石〉〈ショッキングピンクパール〉の六個と、元々持っていた〈シルバーフォックステイル〉〈マンドラゴラ〉の二個で、あわせて八個。
たった八個とはいえ、これらのレア素材はエクストラクラス、ゲーム中でも持っているのは百人程度と予想される〈ユニーク〉以上の武器防具の材料となるその希少さ故、非常に貴重な堂々としたものではあるのだが、それらの所持者の、当の本人であるメザマレックは先ほどの足取りも軽い帰路の揚々とした気分から一転して、これから先のあまりの見通しのつかなさに眉間に皺を寄せていた。
(うーん、さっきまで何浮かれていたんだ……
レア素材とは言ってもここに並んでる程度のランクのものじゃあせいぜい作れても〈ユニーク〉止まりだろ。
とはいえ、万が一で〈レジェンド〉が作れる可能性がなきにしもあらずってとこか。
それもかなりの期間を費やして幾万、下手すりゃ幾億もの組み合わせを試しての話。
それで出来なかったら徒労に終わるだけ。
目標の〈アルティメット〉なんてまるで……夢の世界の物語だよ)
(やっぱりやるとしたら、どれかひとつをキーアイテムって形で重視して、それに絡めるように他のアイテムを合わせて添加するのが良いよな。
今、入手が多少難しい程度からかなり困難な程度の全てのレア素材の種類は大体百から百五十。
まだアイテムの種類は大して集まってもいないから、しらみつぶしに当たるのも効果的とも言えないうえに、実際にはレア素材のみではなく、数が把握しきれない通常の素材も組み合わせるからどうせ全部の組み合わせを試すのなんて最初から無理に近い。
第一、機械作業みたいで鍛冶を続けるテンションが持続しないだろう。
なら、この場は露天での約束も踏まえて、いままで情報の無かった〈ヒエログリフの首飾り〉と〈ダークマター〉の二種類を軸に、精神的に負担がかからない程度、まあ数百程度の組み合わせを適当に試行するのがベストっぽい。
別にこの二つで作るユニークを相手方に渡す必要は、適当に誤魔化せばいいんだし、特に無いんだけど、一応事実としてこれらから作れるものを渡す方が後々面倒が起きなさそう)
(と同時にだ、キーアイテムというもの、これが〈アルティメット〉にも関わってくる。
結局は〈アルティメット〉を作るにあたっての最初の取っ掛かりは、《鍵》とも言うべき──超レア素材がなくては話にならない。
運営側の意図を考慮すれば、無限とも思われるゴミ素材の組み合わせのひとつで〈アルティメット〉のような強力な装備が出来るようにするよりも、出回る数が最初から制限されている超レアアイテムの組み合わせで作られるような仕組みの方が、ゲームバランス的にも安定するし。
もし大量に出回る素材のみで規格外の能力の装備が作れるようなら、万が一にでもレシピが出回るとその時点でゲームが崩壊するのも考えても、この推測は間違っていないはず)
(そしてその超レア素材の分類と入手方法は────大きく考えて三つ。
まずどこにでもいるタイプの普通のエネミーが落とす、ありえないほど出る確率が異常に低い設定のアイテム。
ただこれもいきなり早期にドロップする可能性もあるから、おそらく他の準レアアイテムを絡めて添加してようやく〈アルティメット〉の中でも下に位置する性能の装備が出来ると予想される。
これはソロで狩っていても入手はまず不可能だし、他のプレイヤーがフィールドの普通の敵が出す異常に低いレアアイテムを偶然出して、それが市場に出たときに買い取る方法しかない。
微妙に買い取れる確率をあげるならば巨大ギルドに入るなり作るなりして情報の網を広げる手もあるが、方法的に俺の趣味じゃないのが難点だ。
もし俺がやるとしたらそれなりに気の利く知り合いに頼むか、売買掲示板で情報漁りとアイテムの募集だな。
今のところ素材自体を誰かがドロップすれば、〈アルティメット〉を作るのに一番近い道はこれだ)
(次に時々いるレアモンスターが出すレアドロップの中でも更に低い確率で設定されている超レアドロップ。
これは可能性としてはあると思うんだが、本当に存在するかは確定ではない。
実際には時間沸きなどのレアモンスターには、大抵張り付いているプレイヤーやギルドが居るから直接入手するのは無理だが、張り付いている奴等に事前に話をつけて、新しいドロップがきたら教えてもらえるようにしておくことは難しくも無い。
どうせ奴等は金目当てが多いから、情報料を約束すればいけるはず。
後、城主ダンジョンの地下の未到達階層みたいな、敵が強いうえに経験値が異常に低い未開地に居るかもしれないレアモンスターを倒す方法。
とはいえ、まずそれらを倒せる準チートな強さを手に入れなければ無理なんだがな。
このタイプの超レア素材から出来る〈アルティメット〉は多分に中程度の強さだろう。
というかおそらくゲームバランスを完全には壊しにくい防具やアクセサリー系統か)
(最後はあまりにも強すぎて倒せない敵が落とす、もしくは低い確率でドロップするパターン。
これが一番頭が痛い問題だよな。
なにしろ超レアを持ってる敵を倒すプレイヤーが居ないんだから。
誰にもドロップしなければ欲しいものが手に入る確率もゼロってことだ。
まあ俺の場合はチート装備を用意できるから、今後の展開によってはソロでも倒せる強さにまでなれる可能性もあるが、それでもボス級のモンスターをひとりで倒しにいくのは──PT用の敵だからソロでなんて何時間かかるとか状態異常回復や蘇生役が居ないからワンミスで終わるとか回復用の物資が尽きるとか、ちょっと考え込んでしまうな。
ま、それはそれで強敵相手の戦闘は楽しそうだが。
後は、ソロじゃなく数人の仲間を募って倒す手もあるが、この場合、相当な廃人を引き入れる必要性も出てくるうえ、完全に常識外れの量のチートアイテムを全員に提供することになるだろう。
当然説明をしないといけないだろうし、面倒な事態を招くのは避けたいんだが、やっぱり大事にさせないなんて無理だ。
信頼できる悪友、なんか矛盾してる条件っぽいが、そういうのとかが居れば助かるんだが残念ながら居ない。
他にはボス狩りやレアハント専門ギルドを建ててって方法もいいが、俺のチートな特性が発揮できにくいから微妙。
一番現実的で堅実な案だが、まとめ役はつまらん人間の世話に時間がとられるとかの俺の性格的問題もある)
「何か思ってたより色々と複雑な状況を再確認しちゃったが、あらかた今後の方針も決まったし、いっちょ本腰入れて鍛冶るとしますかね」
長々とした思考を終えて、軽い言葉と口調で一瞬にして気分を切り替える。
メザマレックのことを殆ど知らない人間なら、この状況のみを見たのであれば《ただの覇気が足らない飄々とした一般人》として評価するであろう、彼にとってはそれもひとつの計算尽くなのではあろう行為、実は彼は、このようにまったく同じように見えて、内は巨大な隔たりが有る現象というものが世の中には多く存在することを普段から非常に強く意識して生きるようにしている。
例えば、見た目が同じ果物でも、甘く美味しい物もあれば、酸っぱく不味いものもある。
例えば、宝くじを買うのでも、番号がひとつ違うだけでその結果が一等と外れでは大きく隔たりがある。
例えば、素人目に同じに見える絵でも、億の価値の真作である場合と価値がない贋作である場合がある。
例えば、好みの外見や雰囲気を持つ異性でも、付き合ってみたら理想的な場合と金目当てのうえに浮気性で暴力を振るわれる場合もある。
人が感情を向ける事象や望んで行う行為は、かならず天国の要素と地獄の要素を同時に含む。
それは人が〈求めている〉にも関わらずその〈本質を直接求める能力〉が無いからなのではあるが。
それ故に、彼は大事にするのだ。
────────〈本質を直接求める能力〉を。
────────〈それが得られるチャンスである、非常に小さな《起こり》〉を。
そうして育まれた判断力とそれを支える知識は現実世界のみならず、軽い気持ちで始めた、ただの気晴らしであるゲームの中でも隠しきれずに表に出てしまうこととなる。
今までにアルオン内において、彼が解明したエクストラレシピは〈レジェンド〉が一個、〈ユニーク〉が五個。
そして彼以外が解明したエクストラレシピは〈ユニーク〉が八個のみ。
この内、二個は同じ〈ユニーク〉のレシピだとしても、その脅威というよりも異常というべきか────多くの人間が違和感を覚えるはずのこの不等な状況は、実際にはメザマレックがいつもと同じように非常に小さな《起こり》から多くの物事に通ずる本質を解明した結果に過ぎない。
今回彼が着目したそれは────属性付与────と言われる技術であった。
アルオン内でおおよそひとつが二千万という値段が相場である属性オーブ。
これは武器や防具などと合成することによってそのアイテムに属性を与える効果を持つものだが、この属性オーブを使って各属性を付けられた装備は、相手の装備に対して優位属性であれば普通より大きなダメージを与えれたり自分へのダメージを抑えれたりし、逆に相手の装備に対し劣位属性となると与えるダメージが小さく抑えられてしまったり自分へのダメージが増加してしまったりする。
これらはゲームの世界では既に一般的ともなっている《属性システム》として、いまや多くの人たちに受け入れられている制度のひとつであり、基本的にアルオンというゲーム内においてもこの属性システムに対する一般的な認識の多くが当てはまる。
今のところ、属性システムというものは簡単なゲームを好む一部の人たちにとっては考えるのがわずらわしい要素として敬遠されることも少しはあるが、多くの人たちはゲームの内容に奥行きを与える要素のひとつとして問題なく、もしくはそれなりに活用し、このシステムとうまく付き合っている状態であるとも言えよう。
しかし彼、メザマレックはこの属性システムに対しては、あくまで《道具》、もしくは《敵》といった特別な認識を持っているのであった。
何故なら、このシステムはひとつの装備の絶対的優位性を否定しているからだ。
そして、それは何を意味するかというと、群、すなわち元々多種の装備が持ちやすい、数が多い集まりがただ有利になるという、日常においてどこにでもある当たり前かつ詰まらない結論をもたらす。
単純に考えて、このシステムに従って自分の強さを得るのであれば、数種類の属性の武器や防具を準備しているのを前提とし、敵に相対するときに相手の属性を考えて、対応する優位な装備に付け替えるという方法がもっとも有効であると言える。
だが、もし一人が多数を相手にする場合を考えると、一人の方は武器はともかくいくつもある防具を攻撃者の持つ武器ひとつひとつに対しこまめに付け替えはしにくいし、そもそもあちらは多数のうえに多種の属性武器で同時に攻撃が出来るが、こちらは出来ないという状況に陥るのは必定。
そうなると個人での対応は酷く無理のあるものとなってしまうし、第一、付け替えでラグがおきやすい、忙しい、武器防具の切り替えがわずらわしい、多種の武器防具を揃えるのが手間と金がかかる等、とても実用的ではない運用になってしまう。
つまるところ、このシステムの存在は《全員に平等であるように》を掲げつつ、実際には個人の正当な努力、鍛錬による強さよりも、数を揃えるだけのお手軽な強さを求める群集を重視する方向へと歪んだに過ぎないとメザマレックは考える。
勿論、彼は単に考えも無く嗜好性のみで多数が有利になるというシステムを嫌悪しているわけではない。
多数の論理が絶対となる、そこに本当に多少なりとも普遍的な正義の概念があれば特に文句をつけることはないようではあるのだが、人間はそもそも愚かな生き物であるのは誰もが自覚している事実。
──戦争、殺人、拷問、奴隷、強姦、汚職──、数こそ力、多数こそ正義とも言わんばかりの社会の歴史において、例え論理的に正しいことでも多数の論理に押しつぶされる状況が現代社会でも完全に定着してしまっている点を打破する為には、今自分に最も必要とされるのは独善を貫く力であると結論を出さざるをえなかったのだ。
そして、その結論はレミングの大暴走を、独り高いところから冷めた眼で見つめる、まさしく何も出来ない、どうにもならない自分を自覚する機会を得ただけの事だった。
いや、それは本当の意味では正しくはない────
正確には、やる気になれば時間を費やしてその現実の鼠もどきの大群に巨大な波紋を投じることすら出来るのだが、そもそも彼から見れば周りには鼠レベルの知能しかないのにあらゆる無駄な欲にまみれた、人として同列どころか欠片程度の情を向ける価値も無い人間性の薄い者しかいやしないのであるから、わざわざ今していることを崩してまでやる事でも無いと言うことを理解したのであろう。
その一歩間違えれば中二病と呼ばれるような意識の持ち方は、表面は似ているが本質が異なるものとして《一歩も間違えなかった状態で存在した》が故に、社会的に非常に危険な要素を持っていたが、それは現時点ではいまだ表面化せず、
結局、自分自身を昇華する本質的な作業に完全集中する他は、それによって起こる現実世界での鬱憤、澱のような取り留めの無い感情を整理する為の手段として、彼の精神の最表層が意識する対象は、片手間でも出来る遊戯である《 ultimate online 》へとゆるゆると流れていったという結果ではあるが────
しかし事ここにおいても、その異端性は遺憾なく発揮され、材料つまり素材そのものに属性付与をするという、一見まったくの無駄、ステータスウィンドウで見ても何も変化が無い行為を────使用する素材全てに事前に施しておくという手法────
彼いわく、製作成功判定時に行われているであろう必要総合規定属性ポイント数判別ルーチンを抜ける為のテクニックを編み出した後の軌跡は既に万人の知ることである。
「出来ちゃいましたね。ぷぷっ。
〈ユニーク〉ブラックギア・ガントレットでーす。たらりーら~」
そうしてメザマレックは今、ハイテンションで新しい〈ユニーク〉────重厚な黒い金属の筒をつけたような姿のガントレットを両手に装備し、お約束のセリフを叫ぶ。
「ロケットパーンチ、発射ぁ!」
to be continued...
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