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第四話 STRも減っていく

 

 

 ▽





 作業開始から四時間、ぶっ通しで精錬を繰り返したせいで、晴れてアメジストの幻影剣は精錬レベル二十に到達した。

 実は精錬レベル十七になってから二百回以上まったく成功せず、「これもう成功確率ゼロとかじゃね?」などと思って、いい加減止めようかとしていた時もあったのだが、それからまもなく成功し、次のレベル十八からレベル十九への精錬も十五回、その次のレベル十九からレベル二十への精錬もわずか六回で成功と、山場を越えた後は非常にスムーズに想定している最高レベルまで精錬し終えた。


 彼は精錬レベル二十にまであげたアメジストの幻影剣を見つめる。

 スッと軽く剣を払うと、その後には光の加減から独特の残像が引かれ、背景に重なって半透明に見えたその軌跡はすぐ幻として消失していく。

 そのアメジストの幻影剣の刃はボンヤリとその輪郭の数センチ上にオーラのような繊細な光を纏っているのだが、これは精錬レベルをあげた時の付随現象のひとつで、レベルが高ければ高いほど光は強くハッキリとしたものに増加していく。

 今のアメジストの幻影剣が纏う光の強さは精錬レベル二十でも、蝋燭の小炎が放つものより少し強い程度のものであり、それは切り替えて考えれば、まだまだ精錬で強くなる伸びしろがあるという事実に他ならない。



 ひとまずの目標の到達、作業の終了で一息ついたメザマレックは、他の防具やアクセサリーなどの精錬に取り掛かる前に、街に出て気分転換をしようとする。

 ついでに露天などを見回って、レアな素材アイテムの物色もする腹積もりでもあったりする。


 先ほどまで精錬していたアメジストの幻影剣を鞘におさめ、腰のベルトにセットし、一部微妙に和風テイストのある工房内の壁の鴨居にかけてあった、上品な刺繍が施された白いオーバーコートのかかっているハンガーを掴み、手馴れた動きでフワッとその衣を羽織った。

 そして一応の仕度を整えるとツカツカと表に出て、王都の南広場、通称〈露天街〉に向かって伸びる大通りへと足を進めていった。





 ▽





「メザマレックさん!」


 露天街へあと百メートルといったぐらいの距離で、不意に後ろから声がかかる。

 振り返ると、背が高めで線が細いが身体はそれなりに鍛えられた感じの若い男が、笑顔をこちらに浮かべていた。



「ああ、バラーダか。何か用?」


「ええー、用がないと話しちゃ駄目なんっすか?」


 そのバラーダと呼ばれた、アメリカ軍の若年兵のような風袋の男は、ガックリとしたように大げさに頭と肩を下げて、かまって貰えない飼い犬のような心境をアピールする。



「そうは言わないが、お前と話してるとなんか一昔前のツッパリ系漫画みたいな雰囲気に侵されるんだよ!

 学生でもあるまいし、俺には色々ときついんだ」


「でも俺、まだ学生っすから。大丈夫っす。

 あっ、そうだ。この間のギルド戦っすけど、俺チョー頑張ったんっすよ。

 ウチんとこは城主とれなかったけど、神羅のヤツラめっちゃ邪魔して落とせたっす。

 楽しかったっすよ~」


「最近は鍛冶につきっきりでな、ギルド戦は見てなかった。

 奴等の勝率は、今どの程度だ?」


「いまんとこ、神羅が四割、他のところが六割っといった感じっすね」


「ふうん……まだまだってとこか」


「神羅も前より弱くはなったんですけど、やっぱり厳しいっす」


「城主ダンジョンのレアドロップを神羅のやつらから買いたくはないから頑張ってくれると助かるが。

 まだ神羅以外と神羅で五分五分に近いとか、ぬるすぎて歯がゆいな」


「メザマレックさんは素材アイテム目当てっすね。

 また凄いものつくるんすか?」


「その予定ではある。

 が、こればっかりは作れてからじゃないと大口も叩けんさ」


「予定でも凄いっすよ。

 ここんとこ〈ハイランク〉より上のアイテムなんて露天で暴利値段で出してるいつもと同じの以外、殆ど市場に出てませんよ?」


「新しいレシピ探すような冒険できる奴もいないってか。

 鍛冶師が減ってるんだろうな、全体的に。

 今は新人が少ないから、武器防具もさほども必要なくて売れないしな。

 これじゃよほどの熟練者以外は鍛冶スキルを磨こうにも赤字で首も回らんよ。

 鍛冶屋はムリゲーって時代だ」


「まー、出てても買えないっすけどね。

 悲しいっす」


「頑張って買えよ」


「無理っすよ~。どうやって手に入れればいいんすか。

 レアモンスターは必ずどこかのギルドが張り付いてるし、フィールドのレアは狙えないしで。

 それこそムリゲーっす」


「あー……、まあそうだろうな。

 んじゃ、今度城主とったら俺をお前んとこのギルドに臨時で入れてくれるよう口聞いてくれるか?

 あそこの十七階層以降いってみたいんだわ。

 礼になんか程々のもん一個作ってやるよ。

 確か〈幸せのしっぽ〉持ってたよな。あれと百億よこせ。

 しっぽを素材に使って〈ユニーク〉シルフィード・レギンス作ってやるから」


「! マ、マ、マジっすか!

 で、でも、シルフィード・レギンスって回避力が異常に上がるアレっすよね!

 露天だとどんなに安くても八百億ゴールドっすよ?

〈幸せのしっぽ〉は五百億程度だし。

 それに十七階層って未到達階層じゃないっすか!」


「ありゃボッタクリ価格だろ?

 レシピは人それぞれだからどうなのかは知らんが。

 俺は〈幸せのしっぽ〉があれば後はゴミ素材で作れるぞ。

 露天のものと比べて性能がどうかは分からんけどな。

 つか、未到達以外行っても面白くもないだろうが」


「すげえ嬉しいッス。

 今週はめっちゃ頑張りますよ、俺!

 十七階層も連れてってください!」


「どっちにせよ、城主とれたらの話だ。

 でも一緒に狩るのは無理だろ。お前は瞬殺されそうだし」


「それでもいきたいっす。

 メザマレックさん、ぱねえっすから。

 俺も早く二代目英雄になりたいっす」


「英雄ねえ……

 そういうのって背中が痒くなるんだが。

 さて、露天見回っておきたいからそろそろ行くぞ。またな」


「あ、メザマレックさん!

 あとひとつ!」


「何だ?」


「それ、以前より精錬レベル高くなってますよね。本腰入れたってとこっすか」


 ニヤッと歯を見せる笑顔で右手を振って去っていくバラーダ。



(鞘に入れてるから光はあまり漏れていないんだが……

 あいつもそれなりに鋭いってことか。気をつけないとな)





 ▽





 ひっきりなしに流れる人、人、人。

 そして視界にはぎっしりと隙間無くたてられた露天の看板メッセージ。

 メザマレックはそんな中を手慣れた様子でスイスイと移動して、次々気になるものに目を落としていく。



「属性オーブひとつ一千万とは、またえらく安いなあ。

 買っちゃおうかな」


 目の前の露天には、闇と水と樹の三つの属性オーブが九十九個バンドルされて売っている。

 通常、属性オーブはここまで纏まった数で露天に出ることは珍しく、この露天の主人はおそらくトップレベル相当の狩りパーティーが経験目的かレアドロップ目的で、長い間ひとつの狩場に篭って集めたものを代表して売っていることが予想される。

 このような場合、常識的に考えると今後も同じアイテムがだぶつき、値崩れが起きるのも購入予定者は考慮すべきだが──


(いちいち手持ちのオーブを増やすよりは、ここで大人買いしちまった方が楽だよな)


 彼は素早く九十九個バンドルを三つドラッグして、総額を確かめると迷わず購入した。



「ありがと~」


 さほども経たずにメザマレックに感謝の声が届く。


(中の人居たのか、しかしいちいち買った人に話しかけてくるとか珍しいね)



「いえいえ。

 あ、すいません、ひとつ聞いていいっすかね?」


「いいですよ~、何ですか?」


「これイブリス渓谷の岩場付近の蟻どもからのドロップですよね?」


(確か、アシッドアントが水のオーブ、ハンターアントが樹のオーブ、スレイブアントが闇だっけ。

 ま、聞きたいのは時々出るレアモブ、各種類のグレーター級も同時に狩ってるかってことだが)



「そうですよ~、あそこの蟻からです~」


「じゃあレア湧きもありますよね。

 何か目新しいレアドロップありました?」


「ありましたw」


「お、何が出たか教えて貰えます?」


「いいですよ~

 ヒエログリフの首飾りといにしえの水晶版とダークマターでっす」


(な……古の水晶版はオークに出たことはあるが、他は情報すらないモノとか。

 めっちゃ欲しいが交渉できるか?

 いや、むしろここはハッタリをかまして……)



「あー、なるほど、新しいのは出なかったのか。

 でもヒエロ首と黒股あればアレが出来ますよね。おめです」


「え?」


「ん?」


「アレってなんです? それに黒股w」


「アレって言ったらあの〈ユニーク〉しかないと思うけど。

 黒股は前に出した時にメンバーのひとりが言い出して」


「そのふたつで〈ユニーク〉が出来るんですか?

 なんて名前の?」


「ふたつだけじゃ無理ですって。

 そんな簡単に〈ユニーク〉出来たら、今頃アルオン中に溢れてる。

 てか、鍛冶屋がレシピに関わる情報をただで流すのはタブーですから」


「ええええええ、そんな殺生なあ~、教えてくださいよ」


「レシピ教えるのは無理だけど代わりに作ってあげようか?

 でも俺に得はないしな~、どうしよ。

 水晶版一つくれるなら考えるけど」


「ちょっ、ちょっと待って。

 いきなり話が大きくなりすぎて。

 一度ギルメンと相談させてください」


「ああ、ギルハンで出したのかな。

 いいよー。じゃ俺は露天見てるんで。

 話のほう纏まったら耳打ちよろー」


「すみません~

 なるべく早く連絡します!」



(一応うまくは行ってるな、もし駄目なら金で交渉に切り替えればいい)



 メザマレックが再び露天街を徘徊すること、十分ほど。

 在庫が薄い素材アイテム少々と課金アイテムのいくつかを買い足していると、先ほどのやり取りの、来る予定であった耳打ちがきた。



「遅くなりました~

 いらっしゃいますか~」


「大丈夫ですよ」


「それでですが、もしよければお願いしたいなと」


(引っかかったね!

〈ユニーク〉は大抵一個、一千億ぐらいはするし、一気に倍額近い価値になるんだからこうなるのは当然っちゃ当然だけど)



「了解です。

 あ、後もうひとつ条件が」


「え?」


「今後、狩りで新しいレアドロップとか来たときは真っ先に自分に教えてくれませんか?

 鍛冶師だからその辺の情報はおさえておきたいんですよ。

 もし見たことないものなら欲しいんで値段交渉したいですし」


「う~ん、それなら多分大丈夫です。

 わたし一応ギルマスなんで」


「じゃ、アイテム今持ってます?

 取引できるかな」


「持ってます~」


「さっきの場所に居ますよね? 今向かいますんで」



 言うが早いか、メザマレックは人混みの中を肩から割り込むようにスルスルと歩いてすり抜ける。

 さほども経たずに、先ほどの露天の場所へと辿り着いた。



「おまたせー」


「いえいえ」


「あ、そうだ。両方とも俺が受け取るとそっちは怖いだろうし、担保出しますよ。

 水晶版も一緒に欲しいな。

 三つで五百億の担保でいいかな?」


「は~い」


「窓いきますね」


 あっさりと取引は終了し────



「おお~、凄いです。

 わたしこんな大金持ったことありません」


「後で渡すとき返してね。

 俺もそこまで資金に余裕ないんで」


「このまま持ち逃げしたい気分です」


「ちょっ、やめて」


「冗談です」


「疲れるからやめい」


「せめて何が出来るかぐらい教えてくださいよ~」


「えー、今教えるのはつまらないから、渡すときのお楽しみってことで」


(ホント何出来るんだろうね────とか心の中で言っちゃう俺って……)



「残念です、意地悪です」


「あ、忘れてた、一応フレンド登録しときますか」


「は~い、じゃあわたしからいきます~」


「OK~

 んじゃ、また明日の夜あたりに連絡くださいね。

 それまでに作っておくんで」


「楽しみにしてます~」



(てか、よく考えたら〈ダークマター〉は黒股じゃなく闇股だよな。

 黒股の方が響きが面白いけど。

 でも俺が言い出した事にはなってないし、別にどうでもいいか)


 そんなことを考えながら、彼はまた次のレア素材を求め、露天目当ての人混みの中に紛れていった。





to be continued...



 ▽

 

 


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