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掌少短篇集

滋養たっぷりのジュースに言の葉を添えて

二十二時のマックにて、ミニッツメイドを飲み干した後の氷を咀嚼しながら大学の後輩兼執筆仲間のF君に「何かネタは無いかい?」と問うた所、「ストローで一本というのはどうですか?」と言われたので、リハビリがてらに一本書いてみました。F君やF君や、こんなもんで、あぁ~~イイっすかねェェェェェ~~~~と。


質問() 頭に『宇宙』を付ければSFになると、貴方は本気でお考えに?


解答(SA) Space Exactly.(宇宙その通りで御座います)



 良薬は口に苦く、毒薬は口に甘い……本当に? 本当に?



 ……唐突だが貴方は、ストローの原理を御存知だろうか?

  前世紀初頭、お箸(チョップ)お尻(ヒップ)を嫌らしくも追う様にして儚き持参流行(マイブーム)を産み出した、あの細く伸びる管状の道具を甘露(ズゾゾ)っとばかりに吸い込む事で、何故グラスの中のグレープフルーツジュースを嚥下(ゴックン)する事が出来るのか、その原理を?

 嗚呼、勿論知なくとも心配御無用。所詮は雑知識(トリヴィア)、そんな事を知っていた所で一宇宙文(スペニー)の価値にもならないし、こちらもついさっき万端携帯(ファットフォン)検索し(ググっ)たばかりなのだから。

 今や宇宙市民百億人の信仰を一心に受けるウィキペディアの語る所では――それは我々人類の咽頭が唯一絶対と変わる事の無い吸引力を保持しているという素晴らしき証左……等では残念ながら無く、大気圧とか何とか言うものが関係している、のだ、そうな。

 掻い摘んで説明させて貰えれば――この惑星の地表を覆い尽くしている大気は、眼に見えないながらも、絶えずその中に居る者やら物やらをグイグイと押し付けており、グラスの中のグレープフルーツジュースもまた然りの窮屈極まりないものであるならば、甘露(ズゾゾ)っとばかりに中の大気を吸い込む事で真空――何も無しと化したストローはジュースに取っての地獄に仏、渡りに船、旧合衆国道六十六号線(マザーロード)大工の息子(イエス様)であり、そんな隙間を見つけたグレープフルーツジュースは、我先にと雪崩込み、登り上がり――待ち構えていた人類に寄って嚥下(ゴックン)されるという寸法、なのだ、そうな。

 凹凸(アベック)どもが仲睦まじく愛飲(チューチュー)しているストローの先で、そんな御立派な現象が進行しているのだと言われても、にわかにはちょっと信じられない訳だが、該当項目にそう書かれているのだから、仕方が無い。お互いに諦めよう――ウィキは偉大なり、である。

 まぁそれに――本題の方はストロー自体とは余り関係が無い。

 これからの話と繋がって来るのは、その名を冠した現象の方である。

 ストロー効果。

 万事の緻密さと密閉具合に掛けて世界一を誇っていた旧日本――この携帯を造ったのも彼等の末裔の様だ、至れり尽せり(エグザクトリィ)っ――の某学者が名付け親となった、身も蓋も無く正に管だと言わんばかりにそのままのそれは、謂わば先の原理の社会版だった。

 この場合のグレープフルーツジュースとは市民であり、ストローとは交通網、グラスは地方で飲み手は大都市圏、そして大気圧はその他諸々の魅力という所。

 かつてかつての旧日本では、田舎の活性化を求めて交通利便の向上を目指したのだそうだが、それは全くの逆効果だった。経済活動の潤いは、市民の数にある程度比例するもので、都市の魅力あればこそ人も集まり、豊かな彼の地で暮らしたいと欲する。勿論、都市では味わえない魅力というものが地方にはある訳だけれど、だったら道を戻ればいいだけの話。旧合衆国道六十六号線(マザーロード)大工の息子(イエス様)宜しく、快適に整備された道路をチョッパーなり何なりでかっ飛ばせば、あっと言う間に、嗚呼ただいま愛しの我が故郷(マイカントリィ)、である。わざわざそこで暮らす必要なんて、丸っ切り無なかったのだ。

 かくて都市はますます繁栄し、田舎はますます過疎と相成る――甘露(ズゾゾ)甘露(ズゾゾ)と飲み干した後に残るのが、たまに咀嚼(ガリガリ)するとちょっと美味しいが基本的には味気無い氷だけである様に――当たり前と言えば当たり前で、残念だったねぇっ、というより他にあるまい。

 せぇの……残念だったねぇっ。 

 だがしかし、実はそうとばかりも言っていられなかった。

 昔日の時では――ウィキペディアを信仰すれば、何と紀元前まで遡れるっ――麦藁(ストロー)を使い、そのまま役割自体を変えなかったが為に、金属や樹脂やその他諸々を素材にする様になっても『ストロー』と呼ばれているストローの様に、この現代にあってもストロー効果と全く同様の問題が存在していた――ほんの少し、ちょっとだけ手を加えられた形で。

 宇宙ストロー効果。

 身も蓋も無く正に管だと言わんばかりに、その頭へと押し付けられた一単語を見れば一目瞭然である様に、これは謂わば先の効果の宇宙版であった。

 この場合のグレープフルーツジュースとは人間を始めとする物であり、ストローとは軌道昇降機(エレベーター)、グラスは地球で飲み手は宇宙、そして大気圧はその他諸々の魅力という所。

 その概要も、基本的には『宇宙』と頭に付かない方と殆ど変わらない。

 ほぼ一世紀前に漸く――科学的(サイ=)空想風ファイの産物であった頃から思えば本当に漸く――第一号の完成を迎えた『ヤーコプの梯子』こと軌道昇降機(エレベーター)は、比較的安価で、比較的安全で、比較的安心の大気圏突破技術として、宇宙開発の正に足掛かりと歓迎された。それに伴い、衛星都市群(アー=コロニー)の開発も活発化を見せれば、人々の関心はその頭上へと向けられ、関心は利益を産み、利益は発展へと成長した。次から次に送り込まれる物資の奔流で比較的速やかに形となった都市群へ向けて移植者第一団が送り込まれえば、あれよあれよと第二団、第四団、第八団と続き――ふと気付くと、宇宙市民百億人がそこに立っていたのだ。

 歓喜の骨を投げ給え(ハッピー・バースデイ)――終わり無き宇宙時代が再び幕を開けたのである。

 しかしてそれは、地球人と称するべき者達の容赦なき衰退をも同時に意味していた。

 これぞ正しく宇宙ストロー効果。軌道昇降機(エレベーター)に寄って大勢の人材が宇宙へ移り住めば、残されたのはほんの僅か――資源調達の雇われ人(サラリーマン)か観光名所の雇われ人(ガイドマン)か、雇われても居なければ、人と呼んでいいかすら解らない原住民(サベージ)という品揃え(ラインナップ)だったのである。

 人類以外の地球内生命体に取っては良い事かもしれないが、しかし何とも嘆かわしい。かつて地球であれだけ好き勝手にやっていた威勢は、何処へ消えてしまったのか。

 と、そう、この辺りで一つ訂正して置くとすると、人々が大地を去り、宇宙へと飛び立って行った理由は、何も彼の地が――失礼致しました、彼の天が、これまで人類が踏破したどの場所の何処よりも素晴らしかったからでは決して無い。

 一単語の有無の差に、相対的な価値単位。

 人々を駆り立てたその圧力は、地球に対する危機感、敵愾心が主なものだった。

 歴史を語るならば――軌道昇降機(エレベーター)第一号が造られようとしていた当時、母なる地球は妙に荒ぶっていた。実に機嫌が悪かった。まるでこれまでの態度が嘘であったか、演技であったかの様に、彼女の表面に住まう者達に取っては信じられない程の天変地異が、世界の彼方此方で同時に、或いは立て続けに発生し、人々を大いに震え上がらせたのである。

 おっ母さん(ママン)おっ母さん(ママン)、ごめんね、許して、僕達が悪かったよ……

 誰もがそう思い、想い、実際口に出したものだ(と、該当項目には記載されている)。

 けれど彼女は止まらなかった。

 母なる地球は人類に、人類以外の生物へしたのと同じ様な無辜の犠牲を大量に強いた。

 彼女は彼等に、終末という概念がある種の祭事で無く、災厄である事を思い出させた。

 そしてその振る舞いは『母なる』が只の言葉なのを、嫌という程知らしめたのである。

 全ては自分達の勝手な思い込み。

 嫌という程幻滅を味わされた人々が、こう声高に叫んだのも無理からぬ事だろう。

 即ち――自転(ブラブラ)公転(ゴロゴロ)してばっかりのこんな石ころなんてもう沢山……もう沢山っ。

 この様にして彼等の間に地球に対する危機感、敵愾心が積もり積もって行けば、それは高見を、この惑星の外を目指す土台となり――そこに人類史上始めて、と記録されている軌道昇降機(エレベーター)がどうにか無事に完成し、人々の前にお披露目と相成れば、彼等がそれに対してどう思い、想い、口にしたかなんて、言うまでも無いだろう。

 兄ちゃん兄ちゃん、それチョッパーじゃない、バットポッドですぜ。

 勿論そうやって出て行った宇宙が心安らぐ所であったかと言えば、そんな事は無い。寧ろ危険という意味でそちらの方が余程危険で、下手をしなくとも常に荒ぶり、今も機嫌が悪いそれは、絶えず犠牲ばかりを強いてくる。前回の宇宙時代で人々が夢想した無限の資源なんてものは無限の虚無に比べれば微々たるもの、温かみも何もあったものじゃない。

 だが、それでも人々は宇宙に住んでいる――忘れた、油断した頃に来るのが災厄であるなら、彼の天だったら絶対に忘れようがなく、油断した瞬間にはもうお陀仏である。最初から期待自体していなければ幻滅なんて味わい様もないし、それに宇宙市民達が住んでいるのは、彼等自身が打ち上げた大地の上、もとい中である。その管理責任の如何は、彼等自身が請け負うべきだろう――宇宙は何も応えてはくれないのである。

 そう、その通り、宇宙は何も応えてはくれない。

 だが……それで良いのだろうか。

 さぁ、本題である――こうして言葉を、歴史を、包み隠す事無く有りのままに全て、全て平等に語り明かしたその上で、今一度問うて見たい――だがそれで良いのだろうか。

 本当に? 本当に?

 と、そしてここで一つ、語り忘れていた現在の地球自体の事を加えておこう。

 今のそれ――彼女の状態は、実に安定したものである。一世紀前の態度が嘘であったか、演技であったかの様に、彼の地の生物に憩いと安らぎを与えている――無闇矢鱈とその表面を弄り回る者達が消えた後では、かつて以上のものとも言えようか。

 量ではなく質として、残された地球人の生活を述べれば、それもまた母なる――最早この一単語を戻しても構うまい――地球がそうである様に、安定したものだ。

 日々の仕事に、生きる事に追われているのは天も地も大差は無いけれど、しかし少なくとも地上の人々に心配はない。宇宙の人々の様に、隣り合わせの災厄が「こんちわ(ハロー)!」と語り掛けてくる様な世界で無ければ、荒んでいた頃の地球の姿なんて在りし日の遠い遠い記憶に過ぎず――休息日ともなれば、丸々世界遺産と言っても過言では無い大地の上を好き勝手に歩き回り、たまに妨げられる事はあっても基本的には全く問題無い惰眠に耽ったり、そこだけは活気ある、と言うよりも、忙しなく者や物の往来が行われている軌道昇降機(エレベーター)を遠目に眺めながら、古風な麦藁帽子ストローハット頭に、グレープフルーツジュースでも啜りつつ、手慰みに吸管造型工芸ストローアートなんてものを拵えたり――何とも素敵な限りでは無いか。

 そう、だからこそ、ここでもう一度思い出して欲しい。

 何故我々は、宇宙へと飛び立って行ったのか?

 そしてその答えを思い出したならば、手間のついでにもう一つ考えて欲しい。

 我々というグレープフルーツジュースがストローの如き軌道昇降機(エレベーター)に寄って甘露(ズゾゾ)甘露(ズゾゾ)嚥下(ゴックン)された後に、地球なるグラスの底には一体何が残っていたのだろうか?

 只の氷か、残り滓か……本当に? 本当に?

 それがそれ以上の何かもっと素晴らしいものでは無いという証左等何処にあるだろう?

 熟考の末――もし脳裏にちらとでも考え直す余地を見付けたならば、そんな貴方にこの言葉を贈ろう。何、大した言葉では無い。ちょっと万端携帯(ファットフォン)でも取り出し、軽く検索し(ググっ)て見たりすれば、ウィキペディア界隈にでも安々と見つけられる筈である。

 その言語とは――神がもし人類を滅ぼすつもりだったなら、とっくの昔に滅んでいる。

 『神』という一単語がお気に召さなければ『地球』と変えて貰って結構だが――災厄の時を経て尚生き残っている者として、この言葉を噛み締めるべきなのではあるまいか。



 以上、地球帰還推奨委員会特別雇われ者スペシャル・サポーターアーサー・クラインがお送り致しました――

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