死を棄てた黒の総体
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世界の根底において、人類が「魔物」と呼称する存在は、母胎や卵、あるいはこの星のいかなる生命の種子から生まれた生物的個体でもない。彼らはエレボス。人の理が及ばぬ外宇宙の永久なる闇に端を発する、異質のエネルギー現象である陰影エネルギーの顕現そのものである。このエネルギーは虚無より現実の隙間へと這い出る神秘の毒のごとく滲み出し、視る者の正気と意識を内側から蝕む太古の戦慄、星淵の恐怖を纏っている。本質的に彼らには折るべき骨も、流すべき血も、心臓や脳といった器官すら存在しない。本来の相において、彼らは肉体を持たぬ形無き者であり、濃密な霧、鼓動を凍らせる冷気の波動、あるいは人々の心へ抽象的な狂気を直接囁きかける負エネルギーの渦として、影の罅隙を漂っている。狩りの意志や感情の揺らぎがない限り、彼らはただ世界の暗闇と同化し、現実の帳を切り裂く機を静かに伺う無害な影に過ぎない。
しかし、ひとたび生の気配を察知するか、あるいは殺意が極限に達した時、この異界の総体はエネルギー固形化と呼ばれる現象を経て、エネルギー界と物質界の境界を穿つ。不定形の黒霧は高速で旋回して周囲の空間を歪め、そのエネルギー分子を数千倍に圧縮する。超高密度に圧縮された宇宙エネルギーは、濡れた黒曜石、重厚な角質殻、あるいは光そのものを喰らうように反射を飲み込む腐敗した鱗の如き漆黒の物質へと硬化していく。この肉体は異空間のエネルギーの圧迫と意志のみによって生成されているため、この星の生物学的な解剖学には一切縛られない。ある者は突如として剣の如き爪を生やし、牙を致死の針の列へと変貌させ、下半身を無限の触手へと伸長させ、あるいは見る者の脳を嘔吐と痛みに陥れる非ユークリッド幾何学の形態を蠢かせる。
本来、肉眼で捉えられるその質量は、物理世界に干渉し肉を切り裂くために形成された一時的な「器」に過ぎない。これこそが、エレボスが有する永遠の不滅性、エテルニタス・アエテルナの真義である。剣による断裂、絶大な爆発、首の切断、果ては塵芥への砕破に至るまで、いかなる物理的な破壊も彼らには意味をなさない。有機細胞も急所も持たぬ彼らは、仮初めの肉体が壊滅するたび、構成要素である陰影エネルギーを再び形無き者の状態へと拡散させ、即座に再集結・再固形化を果たす。仮に光によってその顕現が跡形もなく消滅させられようとも、彼らの本質が滅び去ることは決してない。時間や老い、物理法則の縛りを超越し、現実の影の裏側に漂う不滅の波動として存在し続ける彼らは、自らの意志ひとつでいつでも肉体を再構築し、無限の宇宙の闇の前に人類など小さき羽虫に過ぎないという絶望を突きつけ続けるのだ。




