天ちゃん
男は、不定期ながら、何度も何度も、彼の夢を見た。
中学へ上がったばかりの頃、兄弟の猫はやってきて、その一方が天ちゃんだった。
眼鏡もちょうどその頃掛け始めた。
男は飼うのに肯定的でなかった。
猫自体が嫌いというわけではなかったが、潔癖のきらいがあり、そのことで神経をすり減らしていた。
母がすべての面倒を見るというので、渋々承諾し、彼らとの生活が始まった。
彼らはアパートに住む二階の住人から譲り受けた子たちで、どちらが兄か弟かわからなかった。
兄弟は対照的な見た目と性格で、一方はグレーと白のブチ。
一方は額と尻、しっぽの黒い縞模様以外は白い。
尻の丸い点が印象的だったため、母が“天”と変換し、それに掛けてブチを“雷”と名付けた。
雷は好奇心つよく、よく走り、人にも懐くのですぐに打ち解けた。
天は怖がりで、知らない人が来ると逃げてしまい、初めのうちは簡単に近づくことが出来なかった。
そうして時が過ぎ、どんどん成長すると、雷は外で遊ぶ時間の方が長くなり、あまり帰ってこなくなってしまった。
高校の頃。
外で冒険をし、仲間が出来、たまに帰ってきたと思うと、身体は逞しくなり、時には喧嘩を思わせるひどい怪我をしていた。
声は高く、か弱そうに鳴いていたが、目に見えて厳つい猫になっていった。
その辺りから微妙に天との距離が離れたように見え、雷はそのまま家に戻ってこなかった。
さらに時が過ぎ、大人になった。
天とは仲良く過ごしていて、それなりにかわいがっていた。
天はあまり動くタイプではなく、ぽっちゃりしていたが、外には興味があり、でも車は怖いため、少し出ては急いで家に入るのが常だった。
それでも彼なりに慣れ、徐々に外にいる時間が増えてきた。
彼女が出来たみたいで、家に連れてきては一緒にご飯を食べていた。
ある時、眼鏡を外していた男は、丸まった毛布と見紛い、寝ていた天のことを掴んでしまった。
走り去る天に驚いて男は笑いつつ、悪く思った。
そうしていつものように過ごし、外へ行った天をいつ戻るか待ち侘びていたが、どんなに待っても帰ってこなかった。
臆病な彼のことだから、そう遠くへは行ってないはずで、辺りを捜してまわってもみたが、とうとう見つからないまま時が過ぎた。
死期を悟って、見せまいとその姿を消したのかもしれなかった。
それから何年も経ち、もう居ないのが当たり前になった今でも、何度も、何度も、夢に彼の姿を見る。
その度、男は妙な寂しさに囚われるのだった。
この先もずっと、夢を見ては、もう少しかわいがってやれたと悔いることだろう。




