【標本No.4】長寿の呪い
――永遠の命、ほしいですか?
我らエテルナにとって、時間は川の流れですらない。
それは、ただそこにある果てしない湖だ。
命の終わりを知らぬ私にとって、人間の百年など、瞬きをする間に消える残像に過ぎなかった。
だが、彼女――あのひび割れた声で笑う、儚い娘だけは違った。
彼女の心臓が刻む鼓動は、私の静止した時間の中で、あまりに激しく、あまりに脆く鳴り響いている。
一秒ごとに、彼女は確実に死へと向かって歩いている。
その残酷なまでの「速度」に、私は初めて、永遠という名の孤独を呪ったのだ。
彼女は何度でも私に同じことを聞いた。
はるか昔の、この国の話を。
私が嘘つきかも知れないだろう?と言っても、彼女は私の話したことをすべて信じた。
それどころか、学術記事を持ってきて「これは本当?」と聞いてきたこともあった。
今日も彼女はエテルナの基地にやってきた。
いつものように、たくさんの本と写真を持って。
彼女は嬉しそうに言った。
「昨日、焼肉を食べたの」と。さぞ美味しかったのだろう。
しかしそれよりも、写真に映る彼女の笑顔に私の目線は釘付けになっていた。
見ないふりをしていたその気持ちに気づいてしまった。その瞬間、人間の死というものを何度も見てきたからこそ、私はどうしようもない無力感に襲われた。
我々エテルナにとって、時は川の流れですらない。
私は、彼女と同じ感覚を共有することはできなかった。
このとき、はじめて後悔というもの噛み締めた気がする。
きっと、彼女もいままでと同じようにいなくなってしまうのだと、そう思っていた。
ある日彼女は、私にこう言った。
「私を殺して。あなたと一緒にいられないのなら、この心臓がひとつしかないのなら...いっそあなたが私の体を引き裂いて。」と。
私は首を振った。
「まだ早いよ。」と震える声で言った。
予想外の申し出だったのだ。
しかし数分後、私の手は赤く汚れ、瞳は濁り、醜い生物へと成れ果てた。
どうして、私は...。
私は長い人生の中で、二度目の後悔をした。
私が彼女に出会わなければ、彼女は今も生きていたのだろうか。
出会わないほうが、よかったのだろうか。
私は長い人生の中で、三度目の後悔をした。
時の流れが、川の流れのようだ。
彼女の鼓動が止まり、その温もりが冷え切っても、朝日が昇る。
鳥は歌い、世界は美しく回り続ける。
私は残された。
この胸を抉る痛みを抱えたまま、終わりのない時を、彼女のいない世界を、永遠に生き続ける罰として。
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