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朝起きたらおすすめ動画の紹介をする中の人になっていた

 あたしは死んだ。


『お餅を何個まで口の中に詰められるか』という企画動画を生配信している最中に、窒息死したのだ。


「はっ!?」

  

 意識を取り戻すと、真っ白な部屋にいた。

  

「よくぞ来た」

  

 杖をついた長い白ひげの、神様っぽい老人があたしの前に立っていた。


「あたし……死んだんじゃ……」

「ウム。視聴者に恥態を晒して死んだぞ」


 白い空間にパソコンが浮かんでた。

 そこにあたしの部屋が映ってる。

 画面の中に足が二本、天井を向いて立っていた。

 どうやらあたしは座椅子ごとひっくり返った格好で死んでいるようだ。


 フォロワーさんたちのコメントが高速で上から下へ流れている。

 速すぎて読めないが、どうやら心配してくれているようだ。


「コメに返信しなきゃ!」


 キーボードで「死んだンゴ、グエー」と入力しようとしたが、キーを叩いても何も入力されない。


 神様が言った。

「死者が現世の者と連絡を取ることは御法度とされておる」


「じゃ、あたしは傍観するしかできないの?」


「いや……おめでとう。おまえさん、この動画配信でフォロワー数が10万人を超えたんじゃ」


「やったぁ!」


「それを記念して、わしから素敵なプレゼントをおまえさんにやろう」


「わっ! 何、何? トロフィー? それとも現金?」


「動画サイトを閲覧しておったら『あなたへのおすすめ動画』が紹介されて来ることがあるじゃろ?」


「あるある」


「あれ、じつは、動画サイトに命を捧げたユッテューバーの霊がやっておるんじゃよ」


「へぇ〜」


「死者が現世の者とコミュニケーションを取ることは禁止されておるが、そんなふうに関わりを持つことはできるんじゃ。どうじゃ? おまえさんもやってみるか?」


「やらなかったらどうなるの?」


「このまま天国へ昇って、なんにもせず、なんにも考えず、ただ植物のように永遠にぼーっとすることになる」


「なんかやだ」


 そういうわけで、あたしはおすすめ動画の紹介をする中のひとになった。





 朝、起きると、あたしはパソコンの中にいて、みんなにおすすめ動画を紹介する中のひとになってた。


 でも少しだけ話が違う。


 基本的にそれをするのはAIの仕事だった。


「あたし……これ、必要ないんじゃ……?」

 最初はそう思った。


 みなさんは経験したことがないだろうか?


 AIさんが紹介してくれる、自分の視聴履歴を参照しておすすめしてくれる動画の中に、『どうしてこれがおすすめとして出てきた?』と思うようなものが入っていることを?


 お金を払っておすすめに出てきやすいようにしているものもあるのだろうが──


 お金を払ってるわけもない、再生回数ゼロの、まったく無名なユッテューバーさんの動画が脈絡もなくおすすめに出てきたというようなことは、ないだろうか? そして見てみたらすごく気に入ったというようなことは?


 あるいは知らないアーティストのミュージック・ビデオが紹介されて、聴いてみたらものすごく刺さったみたいなことは?


 あれはあたしがやっているのだ。


 あなたの好みを、人間の感性で察して、人間のカンでおすすめを選びだし、人間の人情で人気のない動画をスコップしている。


 まるで縁結びの神のようなあたし──

 しかし、これは人間にしかできないことだ。


 あたしはこの仕事にとてもやり甲斐を感じている。


 報酬はあなたの笑顔だ。





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― 新着の感想 ―
発想が凄く面白かったです。 んー。 ( ・∇・)っ 何か、降りてきて創作意欲が湧いてきました。
おもち喉につまらせて「死んだンゴ」してもかっこよくないのよ。
視聴者に痴態ではなく恥態を晒してしまった『あたし』。窒息だからな……………かなりヤバい姿を見せたんだろう。小学生とか見たらトラウマモノだろうな。 罪深いぞ、『あたし』。 折角フォロワーが10万とかいっ…
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