03
「美味しかった」
母に全面的に任せたけど大満足の一日だった。
これで私も十七歳だ、卒業までにもう少しぐらいは成長したいところだ。
「ちょっと歩いてくるね」
「気を付けてね」
「うん」
流石に食べすぎたからなんとかするためにお散歩をする。
あれから数回は先生の家の近くを歩いているけどこの前みたいに出会えたりはしていなかった。
まあそれも当たり前と言えば当たり前で、そうしているのは平日とか休日の夕方頃だから教師の仕事の関係で会えるわけがないのだ。
あとは先生と会えるかもしれないという期待は確かにあるけど結構お気に入りのスポットがあるからの方が大きかった。
「「あ」」
ただ今日は違ったのか髪をまとめた先生が。
「こうして外で会うのは久しぶりだな」
「そうですね」
他の子も見ることができているかもしれないものの、休日仕様の先生を見られているのは中々にレアなのではないだろうか。
「あー……そうだ、鶏肉を多く貰ったんだ、食べていかないか?」
「いいんですか?」
「ああ、一人だと季節的にも悪くしてしまいそうであれだったから柘植が食べてくれると助かるよ」
あ、そういえばもう私にとっては沢山食べてきていることを思い出した。
でも、せっかく先生がこう言ってくれているのならと甘えた自分がいる、当然、母には連絡をしてから上がらせてもらうことにした。
「え、今日は柘植の誕生日なのか?」
「はい、お母さんが美味しいご飯を作ってくれました」
更に沢山は食べられないから話しておく。
別にこれで祝ってもらいたいとかではないから勘違いをしないでもらいたい、と言ったところで自分から出している時点で説得力はないか。
あれだ、残してしまうよりはいいと思う。
「そうなのか……じゃあ食べてもらうわけにはいかないよな――じゃない、なにかあげられる物は……」
「諸田先生からはこの前、プレゼントを貰いました」
「ああ! はは、それでいいな、誕生日プレゼントということならもっと自然だ」
だけど無理やり出してきたわけではないらしく、冷蔵庫から取り出した鳥肉を見つつ「どうするべきか」と悩んでいるみたいだった。
少しあれだけど貰えるなら貰っていくと言ってみると「それならタッパーに入れて渡すよ」と、どうせなら先生が作ってくれたご飯を食べてみたかったから更に厚かましい人間がいた。
結果、温かくて美味しい先生作のご飯も食べられた幸せな人間がいる。
うん、食べれば食べた分だけ歩かなければいけなくなったアホな人間でもあるんだけどね。
「いやー……本当はいけないことだとはわかっているんだが……ついつい柘植を見ると誘いたくなってしまうんだ」
「安心できるって言ってくれました」
昼休みに来てくれなくなってしまったから少し矛盾している。
「あー……嘘ではない、嘘ではないんだが……」
「やっと一人友達ができただけですからね、諸田先生からすればあんまり変わりませんよね」
「それだ!」
ビシッと指を差された、風を感じた気がした。
先生は目を閉じて腕を組んでから「片平といるようになってお互いに一人の時間が減ったのはいいができればもう一人ぐらい明るい存在がいてほしいんだ」と重ねてきた。
「柘植や片平が暗いと言いたいわけではないぞ? 引っ張ってくれるような存在がいてほしいんだ」
「それなら諸田先生がいてくれれば解決だと思います」
「昼休みぐらいしかゆっくり相手をしてやれないからなあ……」
「私はあの時間が好きでした」
「うぐ、だ、だから柘植みたいな存在が本当は手ごわいんだよ」
片目だけ開けてから「だからこそいい方に変化していってくれたときは嬉しいんだがな」と、元から明るい子は勝手にやるからやりがいがないのかもしれない。
「っと、流石にこれ以上は不味いよな、あと、ちゃんと柘植のお母さんにこの話をしたいんだ」
「わかりました」
そうか、やっぱり先生が特定の生徒を家に連れ込んだりするのはよくないか。
母はどういう反応をするのか、意外と「そうですか」程度で終わらせそうな感じがする、娘が先生に迷惑をかけないためにもここでちゃんとしておく必要があると考えて動く可能性もある。
「花子おかえ――諸田先生? どうして花子と……」
「実は――」
横に立っていたけど不穏な空気になったりはせずに必要なことを済ませてからは楽しそうにお喋りをしているだけだった。
「それではこれで失礼します」
「はい、ありがとうございました」
終わった。
「まさかまた諸田先生の家に上がらせてもらっていたなんてね」
「実は――」
私もこれまで嘘を重ねてきてしまったことを吐いておいた、母はこちらの頭を撫でてから「親にだってそのまま言えないときはあるよ、だから大丈夫だよ」と言ってくれた。
いつでも柔らかいのは昔からずっとそうだから無理をしているようにも見えない。
「それで諸田先生が作ってくれたご飯はどうだった?」
「美味しかった」
「花子を取られちゃわないようにもっと頑張らないと」
大丈夫、厚かましい私が出てこなければあんなことはもうない。
なにかがあっても私が片平君に作るぐらいだろうから心配をする必要はなかった。
「図書館とか久しぶりだ」
「そうなの? 柘植さんは本を読むことが好きそうに見えたけど違うんだ」
小声での会話、だけど教室でも読書ばかりをしていたわけではないからどこからきたのかがわからない、一人=読書なんかをすることで時間をつぶす、という考えなのだろうか?
「ワクワクするよね」
「私はここよりも外で片平君と話せていた方がいいかな」
「そういえば花が好きなんだよね? そうか、ならあともう少ししたら探しにいこう」
え、あ、なんか気を使わせてしまったみたいだ。
彼は発言通り、十分ぐらいで図書館を出てしまった。
「私の家に来ない? お母さんに嘘をついていないことをちゃんとわかってもらいたいんだ」
「いいの? じゃあいかせてもらおうかな」
花探しは暇なときに一人でやればいい、どうせ休日なんかは一人だからそういうときのためにとっておかないと時間をつぶすことが難しくなる。
「あ、ごめん、十八時ぐらいにならないとお母さんは帰ってこないんだ」
「柘植さんが大丈夫ならいさせてもらうよ」
「それなら大丈夫だからお願い、ちゃんと帰りは送るから安心してね」
飲み物とちょっとのお菓子と、必要なことを済ませてしまえばあとはゆっくりしておけばいい。
元々、ずっと会話をしているわけではなくてどちらかが発したときに相手をするという形だ、積極的になるのはらしくないし、彼からしても求めてはいないことだろうからこれでいいのだ。
じっとしていてもすぐに眠たくなるようなこともないからね。
「女の子の家に上がるのは小学生のときぶりだ、あのときは風邪を引いてプリントを渡さなければいけないという理由があったかからこれが初めてと言ってもいいかもしれない」
「なにもなくてごめんね」
「ううん、友達と放課後にもいられるだけでありがたいよ」
彼のためにも早く母には帰ってきてもらいたいと願いつつ数十分、緩く会話をしているだけですぐにその時間が来てくれたのはよかった。
こちらがなにかを言わなくても二人で勝手に進めてくれたから頑張る必要はなかった、ちなみに彼は母にご飯も食べさせてもらっていた。
終わったら約束していた通りに一緒に外に出て暗い中歩いていく。
「お母さん、凄く優しそうだったね」
「優しさの塊なんだよ」
「僕のお母さんもそうなんだ、だからその点では僕らは恵まれているね」
そうだ、最初にも言ったように母や父が厳しかったら楽しくなくなるからありがたい。
「でも、残念な点は学校での話をあまりできないということかな、そのまま伝えると心配されてしまうからね」
「私も嘘をつくことが多くて、だからこの前、いい機会とばかりに謝ったよ」
あれからは先生とのことをよく聞いてくるようになっていたけど、どんどんと先生とのことでなにかが起きるというわけではないから言えることがなくて困っている。
ただ一回目も二回目も素直に吐いたことがいいことだったことはわかる、隠していたら、先生が家まで来ていなかったら、多分だけどこれまでの私的に隠し続ける毎日になっていただろうから。
そうしたら自分のせいで行動しづらくなって母とすらぎこちなくなっていたかもしれない、だから嘘つきだけどなにも全てを隠すわけではない自分のそういうところに救われたことになる。
「柘植さんが嘘を? どんな内容かな」
「友達と遊んできたとか楽しくやれているとかそういうのかな」
「ああ、だってそこを一番気にしているからね、親は」
帰宅したときにすぐにこちらのまとっている雰囲気……? から恐らく察して聞いてきたりそうではなかったりするから母は優しくて賢い。
流石にしつこく聞かれると母が相手でも厳しくなる、嘘をついていた身としては聞かれるほどに苦しくなっていくわけだから。
どうしても自分から言えない存在ならその流れでポロっと吐いてしまう方がいいのかもしれないけど。
「着いた、送ってくれてありがとう、だけど今度は送らせてね」
「うん、またね」
自動販売機やコンビニ、私を誘惑してくる存在はポツポツ存在していたものの、頑張って負けずに歩いて家へ、家に着いたら母とゆっくり会話をしようとして上手くいかずにお風呂に入ることになった。
母の帰宅を待たずにご飯を作ればもう少しぐらいは早い時間にご飯を食べられるようになる、でも、そうすれば母作のご飯を食べられなくなったり、早めに解散になってしまえば部屋で一人でいる時間が長くなってしまうから難しい、好きだけどやっぱり底の自分が誰かといられることを求めてしまっているためそうなる。
「入っていい?」
「うん」
こういう気まぐれ……? に期待するしかないか。
なんににも期待もできないで生きているよりはいい気がする。
「花子が友達を連れてきてくれたからちょっと張り切っちゃった」
「いきなりごめん、だけど嘘をついていないことをわかってもらいたかったんだ」
今度、ちゃんと片平君にはお礼をするからその点で心配をする必要はない、あなたの娘は動いてもらうだけで終わらせてしまう人間ではないのだ。
これからも仲良くして何回か連れていくことができればそういうこともちゃんとできている証明になる、不安にさせないためにも頑張らなければいけないことだった。
確かに親がいなければ生きられないけど物凄く心配をする必要はないのだ。
「はは、疑っていないよ。あといつかまたいい理由で諸田先生に来てもらいたいな、ご飯を食べてもらいたいんだ」
「だけど特定の生徒を贔屓はよくないから」
「ん-そうかもしれないけど花子が楽しそうだったからね」
二人が会話をしているところを側で見ていただけなのに不思議なことを言う。
厚かましくご飯を作って食べてもらったときの私を見て言っているのであればなにも間違ってはいないけどさ。
「隣に立っていただけだよ?」
「お母さんからはそう見えたんだ」
「諸田先生といられる時間は好きだけど」
「あー……もっと頑張らないと娘を取られちゃう」
楽しそうにしているところを見たいのか見たくないのかがよくわからなかった。
父には悪いけどそのまま寝てくれるみたいだったからまた甘えてしまうことにした、だから今回も若干の寂しさを抱えつつ学校にいくことになった。
「おはよう、昨日は珍しくいいことを話せたよ」
「おはよう、よかったね」
ずっと柔らかい表情でいられるのは一種の才能だと思う。
私は多分だけどそのまま出してしまっていそうだから見習わなければいけない点かもしれなかった、あと、彼がほとんど一人で過ごすことになっているのは求めていないからだろう。
求めていたらあっという間に友達ができる。
「あのとき話しかけてよかった」
「勝手な想像だけど片平君は本当は求めていなかったよね」
勝手な想像で物を言われても表情を変えたりはせずに「柘植さんはあんまり間違っていないよ」と答えてくれた。
「だからこれは両親を、特にお母さんを安心させるためにだったよ。でも、いま言ったことは嘘ではないよ、柘植さんに話しかけてよかった」
「そっか、私も片平君と話せるようになってよかった」
「はは、それならいいね――あ、でも、僕は邪魔をしないからね?」
「うん?」
邪魔をしないとは? だって一緒にいてくれているだけで助かっているわけだからよくわからない。
「だって柘植さんは諸田先生と仲良くしたいんだよね?」
「諸田先生は心配をしてくれているだけだよ?」
「でも、優しいから一緒にいたいよね」
ああ、歩き始めてしまった、外でじっとしていても仕方がないから追っていく。
偶然でもなんでもいいからたまにだけでも一緒に過ごせたらいいな程度の期待しかしていない。
わかりやすく甘えるなら難しいことが全くない母に甘えることを選ぶ、だって私が動けば動くほどなにか悪いことが起こるのは先生の方に、だからだ。
教師と生徒という関係ではなかったら、本当に近所のお姉さんとかだったら積極的になるのも悪くはなかったかもしれないけど。
「うーん、やっぱり参加してもらうのは難しいよね」
「うん、だけどその方が自然だから、やらなければいけないことも多いだろうからこれでいいんだよ」
無理をされても困る、合わせた分、短時間で無理をすることになって弱ってしまったなどということになったら最悪だ。
「そうだ、昨日は家に来てもらったから今度は片平君のしたいことに付き合うよ」
「それなら花探し、かな」
「だからそれは――」
こちらのことは考えないでいいと言おうとしたら「違うんだ、お母さんの誕生日だから花を贈りたいんだよ」と。
「これは恥ずかしい勘違いだね」
「いや、花が好きな柘植さんだからこそ頼みたいんだ」
ごめんと謝っておく、だって可愛いな程度の感想しか出てこないからだ。
詳しく知っていて愛でているわけではないのだ、期待には応えられない。
「いいんだ、可愛い花をプレゼントしたいから女性視点で可愛く感じた物を教えてくれればね」
直接お母さんを連れて行けばいい気がしたものの、お礼はしたいから受け入れることにした。
せめてがっかりされないように色々と調べてから行こうと決めたのだった。




