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第5話: 邂逅する双星、オメガの慟哭


漆黒の闇が支配する、Zゼニスの秘密研究施設の一室。そこは生命の神秘を冒涜するような装置群と、甘く不気味な薬液の匂いに満たされていた。部屋の中央には、人間一人を収めるのがやっとの円筒形カプセルが鎮座し、内部を満たす淡い緑色の培養液の中に、一人の少女が静かに漂っていた。コードネーム「W」。彼女こそ、クヲンが育ったあの忌まわしき研究所が生み出した、もうひとつの「成功体」であり、Zが切り札として秘匿してきた存在だった。

その姿は、クヲンをどこか彷彿とさせながらも、より繊細で幼い印象を与える。クヲンよりも一回り細い体躯、成長途上を思わせる薄い胸。しかし、その下半身は対照的に発達しており、大きな尻と、そこから伸びるしなやかで力強い脚線美は、アンバランスな魅力を放っていた。肌は病的なまでに白く、細く尖った耳はエルフのようでもある。そして、彼女の下腹部には、まるで呪印のように、鮮血を思わせる十字の赤い紋章が不気味に浮かび上がっていた。

「最終調整、完了しました。稼働時間の件は、本当にあれでよろしいのですね。オメガ因子の定着率は98.7%。脳内インプラントによる精神汚染レベルも許容範囲内です」

「問題ない。覚醒シーケンスへ移行。ターゲット情報――コードネーム『クヲン』…失敗作の排除プロトコルを最優先事項としてインプット」

白衣の研究者たちが、無感情な声で報告を交わす。彼らの視線の先、モニターにはWのバイタルデータと、彼女の子宮内部に埋め込まれた「制御コア」の状態を示すグラフが表示されていた。このコアこそが、Wの持つサイコパワーを超越した規格外の力――「オメガ・フォース」を制御し、同時に彼女の精神を縛る枷となっていた。

Zが、別室のモニター越しに満足げに頷いた。

「素晴らしい…。我が最高の駒、Wよ。お前の役目は、旧世界の遺物たる出来損ない…クヲンを排除し、新たなる時代の揺るぎなき礎となることだ。その力で、古き運命を粉砕せよ」

Zの言葉が、テレパシーのようにWの脳内に直接響く。ゆっくりと、Wの瞼が開かれた。硝子玉のように虚ろな瞳には、しかし、クヲンという存在に対する激しい憎悪と、自らの存在意義を渇望するような、底知れない虚無の色が宿っていた。彼女の両腕には、岩塊を削り出したかのような無骨で巨大な手甲――「オメガ・ガントレット」が既に装着されている。その細腕からは想像もつかない、絶対的な破壊力を秘めた凶器だった。


***


その頃、東京。華やかさと喧騒の裏側では、今日もまた、心の弱さにつけ込まれた新たな「与えられし者」が生まれようとしていた。

相田譲二あいだじょうじ、二十二歳。都内の一流美術大学に通うものの、その才能は未だ開花せず、焦燥感と周囲への嫉妬に心を蝕まれていた。SNSには、同世代のライバルたちが発表する斬新な作品と、それを称賛するコメントが溢れている。それに引き換え、自分の作品は誰の目にも留まらない。教授からは「君の絵には“魂”が感じられない」とまで酷評された。

「俺には…本物の創造性なんて、ないんだろうか…」

自室で、描きかけのキャンバスを前に絶望に打ちひしがれる相田。そんな彼の心の闇を、Zの組織は見逃さなかった。ふと、PCのモニターに不気味なポップアップ広告が表示される。

『あなたの内なる渇望、よく理解できます。その手に、真の創造力を与えましょう。既存の全てを塗り替え、世界を驚嘆させる絶対的な力を――』

誘われるようにリンクをクリックすると、黒い結晶体の画像と、「これを手に入れ、強く願え」というメッセージが現れた。数日後、彼の元に小包が届く。中には、あの黒い結晶体が。半信半疑ながらも、藁にもすがる思いで結晶を握りしめ、彼は願った。

「俺に…誰にも模倣できない、本物の芸術を生み出す力をくれ…!」

その瞬間、結晶は閃光を発し、彼の体へと吸い込まれていった。相田の脳裏に、新たな「イメージ」が溢れ出す。それは、美しくも冒涜的、そして圧倒的な破壊力を秘めた「アート」の奔流だった。


***


アイギスの地下施設。ミラー、クヲン、シンシアは、Zの宇宙計画に対抗すべく、オリヴィア所長の(やや常軌を逸した)指導のもと、それぞれの能力強化と病気対策に取り組んでいた。

「はい、ミラーちゃん、これ新しい脳直結インターフェース『ドリームダイバーVer.3.0』よぉん!」

オリヴィア所長が、猫耳型のユニット「フェリシア」に接続する新たなパーツをミラーに手渡した。

「フェリシアとの情報同期速度が従来比で31.4159%アップする優れものだけど、副作用でちょっと…いえ、かなりえっちな夢を鮮明に見やすくなるかもしれないわぁ。でも、それもまた脳の活性化に繋がるのよ、うふふ!」

「…結構です。普通のバージョンをください」

ミラーは顔を赤らめながらも、Zの計画を阻止するためには致し方ないと、渋々そのパーツを受け取った。ハイパーサイメシアによる情報奔流は、依然として彼女を苦しめ続けている。

クヲンは、オリヴィア所長が「私の美的センスの集大成!」と豪語する新型訓練スーツ「キャットパルクール・ストライカー」(やはり黒基調で、体のラインが強調され、何故か動く猫耳と長い尻尾、そして肉球のような模様までデザインされている)を半ば強制的に着用させられ、超高温環境を再現した立体訓練フィールドで、アクロバティックな戦闘訓練を繰り返していた。先天性無痛無汗症の彼女にとって、オーバーヒートは常に付きまとう死の影だ。このスーツは冷却機能こそ優れているものの、そのデザインはクヲンの羞恥心を激しく刺激した。

(…なぜ、私がこんな格好を…任務のためとはいえ…)

オリヴィアは満足げに頷き、「いいわぁ、クヲンちゃん!そのスーツ、あなたの隠れた魅力を最大限に引き出してるわ!戦闘データも良好よ!次はもっと暑いところで、もっと激しく動いてみましょうか!」とさらに無茶な要求を突きつける。

シンシアは、オリヴィアが調合した「超感覚鋭敏化薬『アクアソナー・エリクサー』」の臨床実験に参加していた。これは彼女の水アレルギー反応を逆利用し、空気中の微細な水分量や含有される化学物質を異常な精度で感知できるようにする薬だ。成功すれば、毒物や罠の早期発見に繋がるが、副作用として、実験中は周囲のあらゆる匂いや湿度変化に過敏に反応し、くしゃみと涙が止まらなくなるのだった。

「ハッ…ハックション!うぅ…所長、この薬、本当に安全なんですか…?鼻水と涙で前が見えません…!」

「大丈夫よぉ、シンシアちゃん!それは有効成分が全身に行き渡っている証拠!その涙と鼻水も、貴重なサンプルとして採取させてもらうわね!」

オリヴィアは目を輝かせながら、シンシアの顔にスポイトを近づけた。

そんな(ある意味地獄のような)訓練の最中、アイギスの警報システムがけたたましく鳴り響いた。

「緊急事態発生!都内各所の美術館、ギャラリーが連続して襲撃されています!犯人は単独犯と見られ、何らかの超能力で展示物を破壊、あるいは異形の物体に作り変えている模様!」

オペレーターの緊迫した声が響く。モニターには、無残に破壊された美術品や、まるで悪夢から抜け出してきたかのようなグロテスクな「オブジェ」に姿を変えられた彫刻の写真が次々と映し出された。

「またZの仕業ね…今回の能力者は、現実の物体を自分のイメージ通りに改変する…『イメージ具現化』、あるいはそれに類する危険なタイプよ!」

ミラーが即座に分析する。そのサイコエネルギーパターンは、先日相田譲二のPCに送られた黒い結晶体のものと酷似していた。

オリヴィア所長は、いつものふざけた態度を消し、鋭い目で三人に命じた。

「ミラー、クヲン、シンシア!直ちに出動しなさい!被害の拡大を阻止し、能力者を無力化するのよ!Zの甘言に乗せられた哀れな犠牲者かもしれないけど、今のそいつはただの破壊者よ!」


***


三人は、アイギスから支給された最新装備を身に纏い、事件が集中している都心部へと急行した。相田譲二は、既に複数の美術館やギャラリーを「自分の作品」で埋め尽くし、次なるターゲットとして、国内最大級の現代美術館「TOKYO ART CORE」を占拠し、そこに自らの「集大成となる個展」を開くと宣言していた。

美術館の周囲は既に警察によって封鎖されていたが、内部からは時折、爆発音や人々の悲鳴が聞こえてくる。

「ミラー、内部の状況は?」

クヲンが低く問う。

「美術館の職員や来場者の一部が人質になっている可能性があるわ。相田の能力は、彼自身の精神状態に大きく左右されるみたい。今は極度に興奮し、増長しきっている。何をしでかすか分からないわよ」

シンシアはステルス機能を持つドローン「シルフィード」を先行させ、美術館内部の構造と相田の位置を特定する。

「相田は最上階のメイン展示ホールにいるわ。周囲には、彼が作り出したと思われる異形のクリーチャーが多数徘徊してる。人質の姿も確認できる…!」

「任務了解、突入する」

クヲンは短く告げると、美術館のガラス張りの正面エントランスを、サイコキネシスで強化した体当たりで粉砕し、内部へと躍り込んだ。

「来たか、僕の芸術を理解できない見てくれだけの愚か者どもめ!」

メイン展示ホール。そこは既に相田の歪んだイマジネーションによって地獄絵図と化していた。壁からは無数の目がこちらを睨みつけ、床からは粘液を滴らせる触手が伸び、天井からは骨と金属が融合したようなシャンデリアが不気味な光を放っている。そして、その中央で、恍惚とした表情で両手を広げる相田譲二がいた。

「僕の最高傑作の世界へようこそ!さあ、君たちも僕のアートの一部にしてあげよう!」

相田が叫ぶと、彼が「創造」した粘土細工のような怪物たちが一斉にクヲンたちに襲いかかってきた。

「邪魔だ!」

クヲンは両手にサイコ・ブレードを形成し、襲い来る怪物たちを次々と切り裂いていく。シンシアは後方から精密な狙撃で、人質を捕らえようとする触手を撃ち抜き、ミラーはフェリシアを駆使して相田の能力のパターンを解析し、その弱点を探る。

「彼の能力…イメージを具現化するには、強い集中力と明確なビジョンが必要みたい!そして、一度に具現化できる総量には限界があるはずよ!クヲン、手数で押して、彼の集中力を削ぐのよ!」

「了解!」

クヲンはミラーの指示通り、超高速の連続攻撃で相田に畳みかける。相田は必死に新たなクリーチャーを生み出して応戦するが、その表情には徐々に焦りの色が見え始めていた。

「あと一歩…!」

シンシアが相田の胸元に輝く黒い結晶体――力の源――に狙いを定めた、その瞬間だった。


ゴオオオオオオォォォッッ!!!


美術館の天窓が、凄まじい衝撃と共に粉砕された。ガラスの破片と轟音が降り注ぐ中、一体の影がメイン展示ホールの中央に舞い降りる。その着地の衝撃だけで、床が放射状にひび割れた。

現れたのは、白い肌に細長い耳を持つ、クヲンよりも一回り小柄な少女。両腕には、その華奢な体には不釣り合いなほど巨大で禍々しい手甲「オメガ・ガントレット」が装着されている。切れ長の瞳は、ただ一点、クヲンだけを捉えていた。

「失敗作…クヲン…見つけた…」

少女――Wは、抑揚のない声でそう呟いた。その声には、プログラムされたような無機質さと、底知れない憎悪が込められていた。


***


「お前は…誰だ…!?なぜ、私を…」

クヲンは、目の前の少女から放たれる異様なプレッシャーと、自分に向けられる純粋な殺意に息を呑んだ。その姿、その雰囲気、そして纏うオーラは、かつて自分がいた研究施設での忌まわしい記憶を呼び覚ます。

Wはクヲンの問いには答えず、ただ命令を遂行する機械のように、一直線にクヲンに向かって突進した。その速度は、クヲンが今まで対峙してきたどの敵よりも速く、重い。

「危ない、クヲンちゃん!」

シンシアが警告を発するが、既に遅かった。Wが振り抜いたオメガ・ガントレットの右拳が、クヲンが咄嗟に展開したサイコ・フィールドを、まるで薄紙を破るかのように容易く粉砕。強烈な衝撃がクヲンの体を襲い、彼女は数十メートルも吹き飛ばされ、展示ホールの壁に叩きつけられた。

「ぐっ…は…!?」

ナノマシンが警告を告げる。直接の痛みはないが、受け身を取ったものの、全身の骨がきしむような衝撃。もし普通の人間なら、即死していてもおかしくない威力だ。

「クヲン!」

ミラーが悲鳴に近い声を上げる。モニターに表示されたWの戦闘データは、あらゆる予測値を遥かに上回っていた。

「このパワー…並のサイコエネルギーじゃない…!?もっと異質で、強大な何かが…!」

「私はW…唯一の成功体。お前のような失敗作は、この世界に存在してはならない!」

Wは再びクヲンに迫る。今度は左のガントレットを振りかぶり、まるで巨大なハンマーのように音速で叩きつけてきた。クヲンは辛うじてそれを回避するが、ガントレットが叩きつけた床は粉々に砕け散り、巨大なクレーターができた。

「…っ!なんだ…こいつの、この力は…!」

さらにWは、サイコパワーで軽々と浮遊すると、空中からガントレットの拳を地面に連続で叩きつけ、衝撃波を発生させる。その衝撃波は、まるで地震のようにホール全体を揺るがし、天井からは瓦礫が降り注ぐ。美術館の巨大なブロンズ製彫刻をいとも簡単に引き抜き、槍のようにクヲンに投げつけてきた。その細腕からは想像もつかない、まさしくビルを引きずり倒すかのような怪力だった。

「ありえない…くっ、こんな…馬鹿な力が…!」

クヲンは防戦一方に追い込まれる。Wの攻撃は、力も速さも、そして何よりもその破壊力が桁違いだった。

ミラーとシンシアは、Wの圧倒的な力の前に為す術もなく立ち尽くしていたが、クヲンの危機を見て我に返った。

「クヲンちゃんを援護するわよ!」

シンシアはWの関節部や、ガントレットの隙間と思われる部分を狙って狙撃するが、Wは意にも介さない。ミラーは美術館のセキュリティシステムをハッキングし、リスクを承知でスプリンクラーを作動させたり、消火ガスを噴射したりしてWの視界を遮ろうとするが、Wはそれらを力任せに破壊し、前進を続ける。

一方、この乱戦に乗じて、相田譲二は再び力を活性化させていた。

「邪魔だ邪魔だ邪魔だぁ!僕の個展を滅茶苦茶にしやがって!お前らも、みんな僕のアートにしてやる!」

相田は、床や壁から新たなクリーチャーを無数に生み出し、クヲン、W、そしてミラーとシンシアの区別なく襲いかからせた。戦場は、三つ巴の様相を呈し、さらなる混沌へと陥っていく。

Wは、クヲンを執拗に狙い続ける。その戦闘スタイルは荒々しく、ただひたすらに「破壊」を目的としているかのようだった。しかし、その猛攻の最中、Wの表情が時折、苦痛に歪むのをクヲンは見逃さなかった。彼女の下腹部にある十字の赤い紋章が、まるで心臓のように不気味に明滅し、その光が強くなるたびに、Wの動きが一瞬乱れる。

(こいつ…苦しんでいるのか…?昔の私と…同じように…)

「ぐっ…あ…あああっ…!頭が…割れる…!コアが…熱い…!」

Wの動きが、明らかに不安定になってきた。オメガ・ガントレットを振るう勢いは衰えないものの、その軌道は僅かにずれ始め、時折、意味もなく周囲の壁や柱を殴りつけている。子宮内の制御コアが、強大すぎるオメガの力に耐えきれず、悲鳴を上げているかのようだった。

その時、Wの脳内に直接、命令が下った。おそらくZ、あるいは研究施設からのものだろう。

『――W、一時撤退せよ。機体の調整が必要だ。ターゲットの排除は、次の機会に持ち越す――』

「ぐああっ…まだ…殺せる…失敗作を…!」

Wは命令に抗おうとするかのように叫んだが、全身を襲う激痛と制御コアからの強制的な信号には逆らえず、苦悶の表情を浮かべたまま、破壊した天井の穴から空へと飛び去っていった。その姿は、まるで傷ついた獣のようでもあった。


***


Wが去った後、残されたのは破壊の限りを尽くされた展示ホールと、呆然と立ち尽くすクヲンたち、そして未だ暴れ続ける相田譲二だった。

「はぁ…はぁ…これで邪魔者はいなくなった!さあ、僕の芸術の完成だ!」

しかし、Wという規格外の存在を目の当たりにした後では、相田の作り出すクリーチャーは、もはや子供の悪戯にしか見えなかった。

「…もう、終わりだ」

クヲンは、Wとの戦闘で負ったダメージと精神的な疲労を押し殺し、静かに呟いた。シンシアが放った特殊な電磁弾が、相田の胸で輝く黒い結晶体を正確に撃ち抜き、粉砕する。力を失った相田は、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。彼もまた、Zの壮大な計画のための、使い捨ての駒に過ぎなかったのだ。

美術館から人質は全員無事に救出されたが、クヲンの心には、Wの姿が重くのしかかっていた。

(あいつは一体、何なんだ…?私と同じ、あの地獄の底で生まれたというのか…?そして、あの苦しみ方は…)

アイギスに戻り、オリヴィア所長に今回の事件、特にWの出現について報告すると、オリヴィアはミラーが戦闘中に記録したWの戦闘データと、微量ながら採取できたWの体組織サンプル(ガントレットの破片に付着していたもの)を食い入るように分析し始めた。

「…間違いないわ。このエネルギーパターン、そしてこの特異な遺伝子配列…これは、単なるサイコキネシスじゃない。より根源的で、より強大な…そう、信じられないけど、あのオメガ、『オメガ・フォース』とでも呼ぶべき未知の力よ。そして、おそらくこの子宮内に埋め込まれたという制御コア…ゼニスは、とんでもない禁忌に手を出しているわね。これは、単なる超能力開発というより、生命そのものへの冒涜…新たな“種”を人工的に生み出そうとしているのかもしれない」

オリヴィアの顔から、いつものふざけた表情が消え、深い憂慮の色が浮かんでいた。

その頃、Zのアジトでは、カプセルの中で再調整を受けるWの姿があった。苦悶の表情は消え、再び無感情な人形のようになっている。

「フフフ…初陣としては上出来だ、W。クヲンとの接触が、お前の中の“何か”を僅かに刺激したようだが、それも計算のうちだ。お前たちは、互いに影響し合い、より高みへと至るのだ…私の計画のために」

Zは、モニターに映し出されるクヲンとWの戦闘シミュレーションデータを見つめ、満足げに呟いた。

クヲンは、自室のベッドに横たわり、無表情で天井を見上げていた。脳裏には、Wの苦しげな表情と、自分に向けられた憎悪の瞳が交互に浮かんで消える。

(いつか、あいつともう一度…そして、もし可能なら…あいつを、あの呪縛から…)

それは、あまりにも困難で、無謀な願いかもしれない。しかし、クヲンの心には、新たな戦いの予感と共に、微かな、しかし確かな決意が芽生え始めていた。

双つ星の宿命が、今、静かに交錯を始めた。



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