ep.5 スキルアップは突然に
ポイント入れてくださった方、ありがとうございます。
見る度に嬉しい気持ちでいっぱいです。期待に恥じぬよう、全力で頑張らせていただきます。
「さて。レベルは無事に上がったかな」
次の日。私はワクワクした気持ちのまま、再びゲームの世界へログインした。今でこそレベル上昇による恩恵は無いが、上げ続ければいずれ進化や昇格が見えてくるかもしれない。
だからもし放置でレベリングができるのであれば、それに越したことはないのである。
しかし、太ももにかかるこの重みは何だろうか。
「! どうしたの、レーンシオン? 何かあったかな」
「ご機嫌麗しゅう、貴方様。……実はちょっぴり寂しくて、こうして膝をお借り申し上げておりましたの。お嫌でしたか」
「そうだったんだ。嫌じゃないよ、いつでもおいで」
しんなりキツネが勝手に膝枕で癒されていたようだ。ゲームの中とは言え、美少女にこんなにも頼られているのは気分がいい。望むなら膝の一つや二つ、いつまでだって貸しますとも。
思わず笑顔になって、その茜色の頭を撫でる。うわ、今日も極上の手触りすぎる。
瞬く間にニコニコになった可愛い子ちゃんをしばらく撫でて、私はステータスをパッと開いた。
こうして確かめたいことはただ一つ。
「レベルは……。よし、大丈夫そうだね」
嬉しいことにレベルはきちんと上昇していた。しかも、霊力のレベルとともに知力も微量ながら増加していたのである。
おそらく本を使ったことによる効果だろうと思われる。ほら、読書って頭よくなりそうだし。
とりあえず上げておいて損はないので、引き続き本でレベリングをすることを決意する。
「じゃあ、本日もレベルアップの書を作りますか。本を作って、霊力をエンチャント、っと」
三回目なのでサクッと作って使用する。途端に減っていく霊力を見ながら本を捲り、ふと疑問が浮かんだ。
「そういえば、これって触らなかったらどうなるんだろう? 前回も最初も結局ずっと触ってたけど」
そう呟いて、手の中で自然に消費される本を眺める。手に持っているとかさばるし、意外と行動が制限されてしまうのだ。側に置いておくだけで消費されれば楽なのだが。
「じゃあ触らずに置いておくと。……ああ、そうなるんだ」
手を離すと、動いていた本は自動的に動きを止め、背表紙を閉じた。床に置かれた本と大差無い格好になった本を私が再び手に取ると、また元気に動き始める。
「手のかかる子だなあ。あ、じゃあ浮かせるとかはどうだろう」
思わず苦笑して、思いついたのは突拍子もないアイデアだった。でもでも、この本だってマジカルだし。だったらマジカルなこと一つくらい出来てもいいはずでしょう?
「うーん、でもスキルは今のところ使えないしな。とすると、本自体に浮いてもらわなきゃいけないんだけど」
現状スキルを動かすための霊力はカツカツなのである。仮に使ったとしても、時々急に浮かび上がる不審な本になってしまうし、そんなことでは意味がない。
「エンチャントで属性、みたいの付けられるのかな。えっと、本を作成、エンチャント。で……、あれ」
なんと。
「素材にする本のレベルが低いと、エンチャント一つしか付けられないなんて」
どうやら、初心者セットでは初級の道具しか作れないらしい。
なので現状、レベリング用の本か、ただ浮かぶ本の二択しか選択肢が無いのである。けれども、一体全体、ただ飛ぶだけの本なんてどこの誰が作るというのだろう。
「これはちゃんと探索しないといけないのか。まあゲーム的にもそうして欲しいよね」
楽してもいいけど、適度に努力しなさいよというメッセージかもしれない。
でもなあ外、外か。わざわざ行くのちょっと面倒くさいな。そう考えると、本の素材集めっていう外に行くインセンティブがあっていいのかも。
そうして何となく考え込んでいると。
『スキル∶高速詠唱 がレベルアップしました。詳細を確認してください』
「わ! 何だ、スキルのレベルアップ?」
軽快な音楽とともに、スキルレベルアップのポップアップが登場した。
ステータスを見ると、どうやら『高速詠唱』の発動に必要な消費霊力量が増加して、その分スキル発動中のスピードが上がったらしい。
「嬉しいけどタイミングがなあ。せっかく育った霊力がまたカツカツだよ」
そうこぼしながらスキルの詳細を見ていると、どうやら強化されたのはそれだけではないようだ。
光り輝くスキル欄をダブルタップすると、現れたのはスキルツリー。どうやら今のでアンロックされたみたい。
ふむ。使用するのはスキルポイント、とな。
「なるほど。レベル一つに付きスキルポイントが一個貯まって、それを使ってスキルを強化できる、と」
どうやらこのウィンドウで、自分好みにどんどんスキルを育てていけるらしい。レベルは上げなくてもいいかと思ってたけど、これはすごい。
さっき作った本が尚更輝いて見える気がする。
「へえ、一回取ったらリセットは無しなんだ。ポイントはうっかり使わないようにしないとね」
つらつら確認しながら概要を把握する。そうしてざっくり見たところ、高速詠唱のスキルツリーは大体五階層組みになっているようだ。
ポピュラーな分、マックスまで成長しても大きな差はつきにくいようになっているらしい。
「で、今私が持っているのは五ポイントか」
昨日の分と今日の分。合わせてレベルアップした五回分のポイントが、私の手の中で燦然と輝いている。
ちょうど一つ分が取れるのを確認して、私は詳細をタップした。
『高速詠唱』
↙ ↘
『超・高速詠唱』 『複合高速詠唱』
∶5ポイント ∶5ポイント
▶もっと早く詠唱できるようになる。
▶詠唱対象を二つ選択できるようになる。
これは、どちらも悩ましい択一問題である。速度は正義だし、手数も正義だ。たっぷり三十秒、悩んだ末に私が選んだのは。
「うーん。今欲しいのは複合高速詠唱、かな」
別に分岐したとて、もう一つが取れなくなるわけでは無い。それを踏まえて現状欲しいものを選ぶとするなら断然こっちだった。
だって、詠唱対象が二つになる、ということは。
「よし、これでレベルアップの書が同時に二冊動かせるようになったわけだ」
霊力の問題は依然としてあるけど、レベルアップ素材の消費量が二倍になるのはありがたい。
試しにもう一冊レベリング本を作って、うきうきした気分でスキル使用の対象として選択した。ところが。
「本を作るための素材が完全に無くなっちゃったな。
しかも二つに増えたからか、スピードがすごく遅いし」
両手に嵩張る本を抱えて、私はどんより溜め息をついた。ワクワクした分、余計に気分が下がってしまっているからタチが悪い。
想像よりも霊力の消費が悪いようで、本が思い出したかのようにページをペラ……、と捲っては、また凍りついたみたいに固まっている。
「ううん、これは思っていたより霊力不足が顕著だな」
取り敢えず、詠唱対象とする本は一冊のままにしよう。私は早速リセット不可を恨んで、レベリング本をインベントリにそっと仕舞った。
スッカスカの空間に、ぽつんと存在する本が一冊。うーん、とても悲しい。
「霊力回復薬とかも、飲んだところで消えちゃうし」
チャプ、と手の中でポーションを揺らして徒にもて遊ぶ。初心者セットのポーションは哀しいかな、回復量が泣けるほど少ないので。
初めこそ焼け石に水でも無いよりはマシかと飲んでいたが、回復量が追いついていないことに気付いて早々に飲むのを止めた。
「いつかこれも作りたいけど、まだ材料とレシピが無いんだよな」
手の中で光るポーションは、陽光を透かすとステンドグラスのように美しい色を放つ。しばらくして遊び飽きた私はそのポーションもインベントリへと放り込んだ。
そうして身軽になった片手で、頬杖をついて考える。
今現状で足りていないのは霊力だ。とすると、霊力供給を早期に整えなければ何事も始まらない。では、どうするか。
「一回外に行って、本の素材を集めつつレベリングをしよう」
グッと握った拳を大きく振り上げた。
名付けて、霊力大増強キャンペーン、一丁始めるとしましょうか。