アブー①
アブー視点です。
俺の名はアブー……この世界で最も偉大な勇者だ。
財力……権力……武力……全てにおいて俺は完璧な男だ。
欲しい物はどんなものでも手に入れ……気に入らない奴は片っ端からぶっ殺し……良い女は毎日とっかえひっかえ……まさに男の欲望を絵に描いたような人生を送り続けている。
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俺は生まれた時から勝ち組人生を謳歌していた……。
父は騎士団でかなり上のポジションに位置する騎士……母は有名な貴族令嬢……。
絵に描いた完璧な親の元に生まれ落ちた子……それがこの俺だ。
「母上。 俺、新しい服がほしい」
「服? この間買ったばかりでしょう?」
「もう飽きた……新しいのがほしいからお金頂戴」
「もう……仕方ないわねぇ……。 可愛い我が子のお願いなら聞くしかないじゃない」
「早くしてね」
1人息子である俺に、母はとても甘く……どんなお願いでも聞いてくれた。
欲しいものはすぐに買ってくれるし……旅行に行きたいと言えばどこへでも連れて行ってくれたし……良さげな女を見つけたら金と権力にモノを言わせて、俺の言いなりに堕としてくれた。
「父上! 俺、学校の先生に怒鳴られた」
「なっなんだと!? 私の子になんてことを……一体どこの誰だ? 今すぐクビにしてやる!」
父も母同様……1人息子である俺を溺愛していた。
俺が何かされたとチクれば激怒して抗議に出てくれる。
そして大半の人間は職を失うことになる。
俺を怒鳴りやがったこの教師も、それからまもなくして辞職した。
当然だ……学校で飼っていたウサギをサッカー感覚で蹴り殺したくらいでごちゃごちゃうるせぇんだよ。
学校の連中もそんなゴミ教師を追い払ってやった俺に感謝するだろう……と思っていたが……。
『ウサギを殺したお前が悪いんだ!』
『先生は悪くない!』
あろうことか……ゴミ教師を慕っていた同級生共が……俺に罵り声を浴びせてきた……。
無論こいつらも、父にいじめられたと適当な理由でチクって退学に追い込んでやった……。
マジでざまぁ!
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全てが俺の思いのまま……俺は神にも等しい存在……そんな俺にも悩みはある。
それは……刺激だ。
欲しいものを手に入れ……良い女をモノにし……尽きることのない親の金でギャンブル三昧……気に入らねぇ奴を親の権力で追い詰める……。
これほど思い通りな毎日を過ごしていても……いずれは飽きがきて刺激が失われてしまう……。
人間、楽しく生きるためには人生に刺激を与えないといけない……。
幼いころから豪遊生活に慣れてしまっていた俺は……いつの頃からか、人生に空しさを感じるようになってしまっていた。
金……女……酒……男の欲望を満たすモノ全てに飽きを感じてしまっていた……。
いや……そうじゃない。
簡単に手に入るからこそ……欲望が満たせなくなってしまっているんだ。
”もっと刺激が欲しい……”
普通に生きているだけでは手に入らない刺激……俺はそれを考え抜いた。
そして……行きついた。
この俺の心すら満足させられるもの……究極の刺激……それは犯罪だ。
人を殺したい……女を力づくで犯したい……。
禁じられるほど、強い欲望が俺の心をくすぶる……。
とはいえ、いくら両親の財力や権力があったとしても……そんな重い罪を犯せばさすがに逮捕は免れない。
逮捕されるなんて……そんなことは俺のプライドが許さない。
だが……この心を満たしたい。
空虚な俺の人生を……人の血で……人の悔し涙で……永遠に彩りたい……。
そんな相反する俺の心を静める方法が1つだけあった……。
それは……”勇者”の称号。
騎士団の頂点に君臨するべき人間にのみ許された称号……。
勇者になれば莫大な財力だけでなく……圧倒的な権力が手に入る。
簡単に言えば……どんな犯罪を犯しても決して罪に問われることはない……。
どれほど完璧な証言や証拠を揃えられようと……勇者の罪は国がもみ消してくれる。
そんな勇者の称号を……俺は心底求めた。
もちろん、勇者の称号は誰でも手に入るものじゃない。
勇者となるには……他者を寄せ付けない絶大なる武力と知性が必要だ。
地べたを這いずり回っている底辺なゴミクズ共ではどうやっても手が届かないだろうが……俺は違う。
俺はエリート騎士である父と上流貴族の母から生まれた最強のエリート……。
知性はもちろん腕っぷしには自信がある。
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俺は全てを思うがままにする勇者の称号を得るために……騎士団へと入団した。
勇者になるためには、年に1度開かれる武闘大会に出場して優勝し……そして現勇者を倒さなくてはいけない。
流れだけ言えば至極単調だが……そこまでの道のりはかなりきつい。
大会に参加するだけでも、かなり厳しい選定基準がある。
本来は真面目に訓練に励み、地道に小さな任務を積み重ねて名を上げるのがベストだが……そんなことは無能な底辺騎士がやることだ……。
俺はもうすでに完璧なんだ……名なんて父のコネと立場を使えばどうとでもなる。
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「騎士アブー……お前に武闘大会への参加資格を与える」
騎士団に入ってから2年が過ぎた頃に上官から武闘大会に参加を許された。
父が俺のことを上官達に口添えし……母が騎士団に金を援助している上流貴族達に俺の優秀さをアピールしてくれたからな……こうなるのは必然だがな……。
『やっぱりアブーが選ばれたか……』
『まあそうだろうな……あいつは成績も良いし……模擬戦でも負け知らずだからな……』
『もしかしたら……マジで勇者になっちまうかもな……』
しかも俺は騎士団の中で武力も知力もトップクラス……周囲から次期勇者候補ナンバー1と呼ばれるようになるのも……また必然
わずか2年で武闘大会への参加を許された騎士なんて……俺くらいだ。
まあ当然だけどな……。
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「これより……武闘大会を開催する」
武闘大会が始まるのと同時に……俺の無双伝説が始まった……。
参加者全員の装備は同じではあるが……所詮は俺の敵ではない。
この俺の圧倒的な剣術の前に、1人……また1人と倒れていき……。
「優勝者……アブー!!」
俺は見事に武闘大会で優勝し、勇者への挑戦権を得た。
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「アブー君……お互い、全力で戦おう」
大会で優勝した翌日……俺の前に勇者が立ちふさがった。
見た目はガタイの良い中年の不細工なおっさんだが……勇者故に実力自体はある……。
「では……はじめっ!!」
勇者の称号を賭け……俺と勇者の決闘が始まった……。
※※※
「勝者……アブー!!」
勇者だけあって多少てこずったが……俺はついに現勇者を倒した。
そしてこの瞬間……勇者アブーが誕生した……。
『さすが私達の息子だわ!』
『父として鼻が高いぞ!』
両親も俺が勇者となったことをとても喜んでいた……。
まあ当然だが……それはどうでもいい。
新たな勇者となった俺は……これまでため込んでいた欲望を一気に爆発させた……。
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「おっおいお前! 俺の妻に何をしている!?」
「何って? 俺の高貴な種をあんたの妻に仕込んでやっているだけだ」
勇者となった日から数日後の夜……俺はとある既婚者の女を金と権力で寝取り、不倫現場を帰って来た旦那に堂々と見せたやった。
「きっ貴様……」
「ハハハ!! ざまぁねぇな! 元勇者様よぉ!」
そう……目の前にいる女の旦那は、俺が打ち負かしてやった元勇者のおっさんだ。
しかも重婚を許されていた身だったからか……嫁が4人もいやがった……。
まあ4人とも俺の従順なメスになり……旦那の前だというのに、裸で俺にすり寄っているけどな……。
「俺に大会で無様に負けた上に、嫁を全員寝取られた気分はどうだ?」
「ふっふざけるなぁぁぁ!!」
バンッ! バンッ!!
激高して俺に襲い掛かる勇者だったが……俺は隠し持っていた銃でおっさんを撃ってやった。
おっさんは胸から血を流して倒れるも……息はまだ残っていた。
「はぁ……はぁ……」
「なぁお前ら……旦那が死にかけているけど、助けたいか?」
「それは……」
「助けてもいいが……その代わり、俺の側室になる話はなしな」
「いっいやです! それなら助けません!」
「私も!」
「あんなくたびれた親父、どうでもいいです」
「もう旦那様はあなた様だけです!」
「お……お前達……」
「だそうだ、元勇者様。 こいつらは長年付き添ってきたあんたより、俺の方がいいんだって」
それから俺は動けない元勇者を放置したまま、目の前で再び奴の嫁達を抱いてやった。
死にかけている自分を放置して不倫に没頭する嫁達の裏切りに絶望したのか……奴はそのまま何も言わず、行為があらかた終わった時には……冷たくなっていた。
「なんだ……もう死んだのか。 つまんねぇの」
「ねぇ勇者様ぁ……結婚式はいつに……」
ズドンッ!
おっさんが死んだとなれば……奴の嫁達に用はない。
こんな低スペックで年増な不細工共……俺の側室どころか愛人にする価値もない。
付きまとわれるのも面倒だしな……。
なので俺はなんの躊躇もなく女達を全員殺した。
このことは間もなく公になったが……無理心中ということで国が片付けてくれた。
5人も殺してお咎めなしなんて……最高すぎる。
俺は……勇者と言う名の神なんだ。
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それからというもの……俺は殺人に対して何の罪意識も持たなくなった。
『旦那よりも……俺の方が良いだろう? 俺とヤろうぜ』
女を寝取ることに快楽を覚えてからは、既婚者や彼氏持ちを中心に寝取っていった。
大抵は俺の権力や財力でなびくが……中にはそうでないのもいる。
『私には愛する夫がいます!』
『彼を裏切るようなことはできません』
などなど……勇者である俺に生意気な口をききやがる。
そんな女は生きる価値もない……。
俺は旦那や彼氏の前で女を無理やり犯し……そして最後は男共々ぶち殺してやった。
そしてモノにした女達は勇者の莫大な財力で建てた豪邸の地下室でペット感覚で飼っている。
俺の女となった以上……俺以外の男の視界に晒すことすら許せない。
生活費は出してやっているわけだし……感謝してほしいくらいだ。
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「ハハハ!! 死ね死ねぇ!!」
女遊び以外に俺はギャンブル等の遊びに没頭していたが……元々の財力に勇者の肩書きで国民共の税金まで吸い上げている俺の財力は無限に近い。
だからギャンブルにどれだけ賭けても全く刺激がない。
そんな俺の新たな遊び……それは狩猟感覚で人間を狩るサバイバルゲーム。
逃げ回る獲物を部下達と銃火器や剣でなぶり殺すのは快感すぎる。
獲物は刑務所に収容されている囚人……そんな連中が何人死んだって誰も困らないだろう?
反省だの……社会復帰だの……そんなクッソどうでもいいことで犯罪者共を生かすより、こっちの方が利用価値がある。
死因についても獄中自殺とか病死とか……適当な理由でどうとでもなる。
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勇者としての任務もある程度はこなしてやっているが……ほとんど部下達に丸投げしている。
なので、毎日遊び歩いているようなもんだ……。
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だが俺には最も面倒なことが1つある……。
それはこの俺が勇者の座を手に入れるきっかけとなった武闘大会。
この大会は年に1度開かれ……優勝者に負ければ勇者の座を降りないといけない。
こんな最高の人生をみすみす手放すなんて冗談じゃない!
俺は死ぬまで永遠に勇者として生きていく。
そのためには大会で勝ち続ける必要がある。
俺に勝てる人間なんて存在しないが……万が一ということもある。
純粋にただ戦うなんてダセェ真似なんてする必要はない。
大会に出る前に暗殺してしまえばいい……と言いたいところだが、さすがにそんなあからさまな方法では俺の名に傷を付ける恐れがある。
なので俺は大会優勝者の女や妻、時には母親を寝取り……そいつらに大会直前に強めの睡眠薬を大会優勝者に仕込ませるように命じてやった。
睡眠薬で意識が朦朧としている人間なんて敵じゃない。
普通に戦っても勝てるが……面倒事は省くに限る。
証拠なんてないし……女達は殺せば済む。
俺の勇者人生は……永久に安泰だ……。
次話もアブー視点です。